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09 髑髏の惑星

 現在の天文学において水素やヘリウム以外の物質元素は、恒星の太陽としての活動の果てに生まれるとされている。

 太陽としての終焉に起こる超新星爆発により、水素やヘリウムを核融合して作った炭素や酸素など重い元素を宇宙へとバラ撒いているのだ。


 宇宙空間に残る水素や超新星爆発の飛散物から生まれた新たな恒星系は、星間物質が一点か二点に集中して一個の恒星だけか二連太陽に成るのが多いらしいが、小規模から中規模の太陽系では惑星もできる事があるらしい。


 この様にして生まれた我々の住む太陽系は宇宙の中では中規模の恒星系に相当し、その天体も殆んどか先の超新星爆発でバラ撒かれた物質が集まってできている。


 惑星を持つ様な太陽系では、恒星と惑星の誕生と成長は平行して起こる。

 原初の惑星においても地熱は発生し、内部は現在のマントル同様に対流を起こしていただろう。

 そんな惑星内部では、比重の関係で鉄やニッケル等の重金属分子が中心部へと落ちこみ、水や窒素化合物の様な軽い分子は地表へと浮かび上がっていく。

 太陽が本格稼働していない時期の惑星表面には、水とか窒素の氷や海が有った事は間違いない。


 やがて恒星の核融合が本格化する事により、発生する熱と太陽風で天体に成りきれなかった星間物質は太陽から彼方へと押しやられてしまう。

 太陽風の威力については、ハレー彗星などの尾がたなびくのを見れば御理解いただけるだろう。


 十分に考えられる事だが、太陽からの距離や自転軸の向きによっては、惑星表面の氷は多く残る。

 太陽風に吹き飛ばされた星間物質が惑星の上に降り注ぎ、氷の上に地表を作り出す事を誰が否定できようか?


 これは全くの絵空事ではない。


 事実として火星の大地の下には、氷の層が有る事が確認されている。

 火星には自転極にも氷が観測できるが、それ以外の氷の層は地下水が凍ったにしては、あまりに多いらしい。


 だが、地球の地下には大きな氷の層は発見されていない。

 これは何かの理由で氷の層が形成されなかったのか?星間物質が降り注ぐ前に太陽熱で溶けてしまったのか?

 金星の様に地表温度が460度の高温でもなく、火星の様に気圧が低い天体でもない地球では、現在も地表に水分や雪が残っている上に、小規模なら氷穴すら存在するのに。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それが、この二重構造の由来なのですね?」

「知識としては聞いていましたが、この映像は初めて見ました」


 シシス達の前には、立体映像で太古の地球が映し出されていた。


「そうじゃ。この外苑部付近は重力が弱く大気も薄い。それ故に巨大生物や酸素を必要としない生物が発達したと考えられておる。内部が空洞化したのは隕石によるコノ大穴が原因らしい。この穴から太陽光が差し込み、時間を掛けて中の氷が溶けたのじゃろう」


 自転軸が僅かに太陽からずれている為に、自転による昼と夜は存在していた様だ。

 だが、太陽に面していない現在の北極点側は、暗いままで氷に閉ざされている。


 ゆっくりと回転する立体映像には、太陽光によるコントラストが反映しており、太陽側には不格好な二つの大きな穴と、それよりやや小さな複数の穴が開いた様な場所がある。


「全体的にも小さな穴は沢山有りますが、特に太陽側の穴は目立ちますね。しかし、これはまるで髑髏(どくろ)の様だ」

「そうじゃなぁ。確か北欧神話の伝承では『オーディンは祖父ユミルを倒し、その頭蓋骨で天を作った』と有るので、あながち的外れでもないのじゃろう」


 エジプトでは天空を覆う巨大な神が語られている。

 恐らくは、眉間に当たる部分を内側から見て女神の胴体と考えたのだろう。


 この様に、古代の人間が考えた【天】が現代人の【宇宙】と同一である保証はない。

 今回の様に精霊達が見せた地球像を見た人間が、この印象から物語を作ったという可能性もある。

 神話の全てが真実ではないが、全てが虚構でもない。

 【伝説】の類いが全くの虚構だけでないのは、ポンペイ遺跡が物語っている。


「【巨大生物】って、まさか恐竜?」

「現在でも地上で最大の生物は象やカバ。それ以上の巨大生物が地上で長期生活ができると思っておるのか?賀茂君ならば、地上で巨大な二足歩行ロボットが実現しない理由を知っておるじゃろう?」

「足の構造材が体重移動の圧力に耐えきれないからですが、じゃあ発見される化石は・・・・落ちたのか?」

「理解が早いな」


 現在でも地上には、年間何千個もの隕石が落ちている。

 重力が軽い所の岩盤は、どんなに厚くても強度に欠けるのだ。

 実際、重蔵が見ている映像にも全体的に小さな穴が多数空いており、滑落などが起きてもおかしくはない。


 現在の鳥類は、恐竜の一部が進化したものと言われているが、かつてより穴を行き来していて高重力に順応できたものと見る事ができる。

 恐竜は巨大な隕石の衝突による気候変動で絶滅したと言われているが、鯨の様に海遊する恐竜の化石も見つかっているのに生残りが居ない矛盾が、問題となっていた。

 だが、落ちてきた海洋恐竜が、地上の水圧に耐えきれなかったのならば、納得はいく。

 地上恐竜の様に強固な殻を持たない海洋生物の卵は、地上の水圧に耐えられなかったのだろう。


 また、両生類と哺乳類は同じ肺構造をしているが、爬虫類と鳥類は大きく異なる。

 鳥類と恐竜は同じらしい。爬虫類とは若干異なるが、哺乳類などから見れば同系なほど酷似している。

 現在の生物学的には、恐竜の胴体は風船状態で、体格の割りに軽いとは言えるが、それでも大型恐竜の体重は生物を構成する物質の耐久力を越えていると言える。


「こうして話を聞くと、目から鱗な事が多いですね。どうやら俺の認識は間違っていた様です」


 立体映像の外苑部は時おり半透明になり、下に現在の地球が見える。

 現在の地球は外苑部の中心部ではなく、太陽側に片寄って存在している。

 自転軸は現在の北極点南極点と同じだが、赤道上ではなく南極点が太陽の方を向いているのが特徴的だ。


 現実にも1833年に南極の氷の下から森林の化石が発見されて、近年も調査が進められている。

 かつての南極大陸が温暖だった事は、間違いがない。

 多くの者が支持する【南極アトランティス説】も、あながち間違いとは言えない物証が実在すると言う事だ。


「そして人間と、それに協力した神々の手によって、この地界と天界が切り離され、地界は疑似亜空間である【現世】へと相転移したのじゃよ」

「地界と天界を繋ぐ柱や壁を切り離したんですか?大規模な土砂崩れ、いや、地殻変動が起きるでしょう?」

「自転軸は大きく傾き、ニヴルヘイムに有った氷は溶けだした。だから人間共は、自分達に有益な生物と人員を乗せた船を作って、一時的に宇宙空間へと退避しておったな。我々は自力の能力が有るし、重力の関係で天界側の被害は軽微で済んだがな」

「ニヴルヘイムは極寒の氷の世界でしたよね?地球の太陽と反対側にある地域か?それで自転軸は同じでも、地軸の傾きが現在は違う訳か!もしかして、その土砂崩れと氷の溶けた水が、ノアの洪水なんですかね?」


 洪水伝説は、ユダヤ教典の他にも世界各地に存在する。


「現世の伝説の起源については、儂等は明言できんがな」


 特に伝承は、複数の説や伝える者の意思が介在している為に、未来や過去に関して知覚を持つ彼等にも断言はできないらしい。


「現在の天界側だけを言えば、分断された『柱』が落ちるべき地上が無くなった事で、重力は外側に働きかけ、ほぼ原型を留めておる。じゃが、外側に引っ張る力が無くなった地界側は、広範囲の崩壊が起きたじゃろうな?転生後に見て回ったが、かつての面影は皆無じゃった」


 既に茜は説明から離脱し、重蔵が質問をしている。


「では、大崩壊は避けられないと?」

「ゼロにはできないが規模を少しは小さくできる。魔力と神具で地形を復元し、可能なかぎり昔の接続を再現するつもりじゃよ。その為に、日本まで来たのじゃからな」

「日本で天界との接続を行うのですか?」

「日本にも有るじゃろう?神が宿るとされる山が!」

「コノハナサクヤヒメ、富士山ですか!」


 日本でも全ての山に神々が宿るとされている訳ではない。

 世界でも、それは同じだ。

 ただ、現代陰陽師として生まれ育った賀茂重蔵は、様々な科学を学んでいたので、一つ気になる点が有った。


「地殻プレートの移動は問題ないのですか?」


 地球の表面には、マントル対流による地殻の移動が存在する。

 日本の近くでも、ユーラシアプレートとフィリピンプレート、太平洋プレート、北アメリカプレートの四つがひしめき合って、日本列島を歪めて地震を起こしている。


 ハワイ島は年間6センチの速度で日本側に近づいている。


 インドや伊豆は、かつては沖合いの島であった物がプレートの移動でユーラシア大陸や日本列島にぶつかり、陸続きになったと地質学では述べている。

 いまだにプレートが押しやっているので、チョモランマや富士山が年々標高を増しているという観測結果もある。


「大丈夫じゃ。世界の統合が成ればマントルと地殻の連動は無くなるからのぉ」

「パンゲア大陸説も時空間の改竄による物ですか?」


 大陸移動説など、多くの現代地質考古学が崩壊する。


 これは、回帰勢力を抑える為に、分断後の状況を常世と無関係とする工作が魔法で行われたらしい。

 神の世界を立証する多くの事象を改竄しないと、分断後の世界に不満を持つ者や後世の者に、再統合運動を起こされる懸念があったからだ。


「世界の常識が根本から覆されるんですね?」

「【魔法】が存在している時点で、充分に覆されていると思うけどねぇ!」


 茜が久々に口を開いた。


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