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22 未来の形

「サングラスと日焼け止めを忘れると、耳や顔の皮が剥けますよ」


 登るほど、紫外線は強くなる。

 賀茂の案内に、長谷川と吉良がリュックを広げた。


 特に初めて富士山に登る者は、殆どが酸欠と疲労で無口になる。

 実際、口を開くのは山小屋近くで腰を下ろした時くらいだ。


 本八合目まで来ると、山小屋に着いても吉良と長谷川は口を開こうとしなかった。

 特に吉良は、人間の命を軽く見る賀茂達に思う所もある様だ。


「しかし、賀茂も子供の時は虐められて泣いてたのだなぁ」


 シシスが、先程のトラブルの件を蒸し返してきた。

 これには、賀茂よりも山根の方がムッとしている。


 勿論、弁明するのは賀茂だったが。


「変な事言わないで下さいよ、シシス様。周りのガキに泣かされていたんじゃなく、陰陽師の修行が厳しくて、逃げて泣いていたんですよ。ソレを見た悪ガキ共が追い討ちを掛けて暴力を振るってたんです。俺が反撃すれば最悪殺しちゃいますから、やられっぱなしで耐えてましたけどね」

「あ~ソレ、ウチもあるわ~。特殊な家ならアルアルよねぇ。ウチ等の六歳児でも【一般の子供】なら殺す事くらい出来ちゃうからねぇ」


 賀茂と山根は、種類こそ違えども、同じ様な環境にあった様だ。


「菊池とかと出会う確率変動だけでなく、重蔵(じゅうぞう)を認識できる精神操作までやりやがって、山を降りたら只じゃおかねえからな」


 直情的な山根はオカンムリの様だ。


 賀茂の陰陽師や、山根の様な忍者の家でなくとも、歌舞伎やピアニストなどの一芸に秀でた【家】の子供には、修行から逃げ出して泣く事くらいは少なからずある事だ。

 特に【家】を継ぐ者に自由な選択肢も情報も与えられない。

 幼い頃から【洗脳】に近い教育が行われ、義務教育の場で知る【一般人の自由】に嫉妬すら覚える事がある。


「長谷川さん、吉良さん。ここで十分な休憩をとったら頂上まで山小屋も有りませんから、水の補充もしといて下さいね」


 賀茂の言う通り、七合目から八合目、本八合目までは多くの山小屋が有るが、そこから頂上までは休憩所の様な場所は無い。

 途中で岩に腰を下ろして休むくらいだ。


「グレーティア様やシシス様、賀茂さん達も見掛けに寄らずタフですね」

「我々の【生命体としての強度】は、人間の比じゃないですからね。裸で衛星軌道に放り出されても、数日は生きてますよ」

「化け物じみてますね、賀茂さん。グレーティア様もですか?」


 長谷川は、一番体格の小さなグレーティアに目をやった。


「儂には、そこまでの能力は無い。ただココならば、山からエネルギーをもらえるでなぁ」


 グレーティア自身が【富士山の精】的な存在と聞いていたので、皆が納得した。


 途中で、形ばかりの鳥居をくぐり、グレーティア達は頂上へと辿り着いた。

 吉田口からの頂上には神社/札所をはじめ、幾つもの飲食店が並んでいる。


「すみません、、、ちゅっと、長めに、休ませて、下さい」


 吉良の体力は限界の様だ。

 リュックから出したポテトチップスの袋がパンパンに膨らんでいる。


「これを見れば、本当に気圧が低いのを実感できますね」


 長谷川も目の前の売店で買ったコーラを片手に、開いた袋からポテトチップスをつまみ出した。


「では、儂等は先に行っておるでな。この通りを反時計回りに進み登山道に降りない様にすると、火口に向かう道が有るで、お主等は後で来るのじゃ!」


 吉良と長谷川を残し、元気な三人は、今来た道を少し戻っていく。


 富士山頂上の外輪山から内側には、容易に入ることができる。

 夏でも雪が残る事があるソノ一部に、特に深い穴の様な場所があって、そこが古い火口である事をうかがわせる。

 ただ、富士山の最新の火口は江戸時代の物で、吉田口側の山腹にある小高い丘状の場所だが。


「本番の時はココを中心に連結するが、実際には広範囲になるでな」

「中国から日本列島までの大部分が柱の下敷きになるなんて長谷川達には言えませんから、ちょうど良かったですね」


 賀茂達に宇宙空間での能力が与えられているのは、緊急退避が必要な時の為でも有るのだった。


「あと二度。いや、三度目の噴火の時が【連結】のタイミングじゃなぁ」

「既に退避シェルターを東北地方などに建設する準備が始まっています」


 前回、富士山が噴火したのは1707年だが、地質学上は数十年間隔で噴火した事もある火山だ。

 噴火の範囲は富士山頂付近に限らず、浅間山麓全域の何処が新たな火口になるか分からない。

 次の噴火時期も数時間後かも知れないというのが近代地質学の見解だ。

 ただコレも、改竄された歴史の話ではあるが。


「ここが高くなって、アレ等と繋がるんですね」

「まぁ、そんなところじゃ」


 シシスやグレーティア達には、空間断絶を越えた常世の姿も見えているらしく、更なる上空を見つめていた。


「向こう側には、儂の肉体があるでな。言わば【人柱】と呼ばれる犠牲じゃが、直ぐに復活する」


 現世(うつしよ)にグレーティアの【霊】しか来ていないのは、シシス達の親とは異なる点だ。

 それ故に能力も極端に限定されている。


 一般に【人柱】は封印をイメージしやすいが、【神と繋がる】生贄など供物の意味合いが強い。

 【常世と地理的に繋がる為】と言うグレーティアの肉体と霊の【分離】【復旧】には、ある意味で利にかなっている。


「ふむっ!大体の現状把握はできた。あとは噴火の時でも良かろうよ」

「まだ先の話ですが、当日はヘリかジェットスーツで向かいますか?我々が運びますか?」

「報道に騒がれるのも厄介じゃ。今のところはお主等に運んで貰う方が良かろうて」

「状況に合わせて変更するのも考慮に入れておきます」


 未来は予測できるが、この現世には予知して利用して変更できる者が多数【来訪】しているのだ。


「おや?やっと長谷川達がきたかな?」

「奴等には富士山(ココ)が基点の一つになる程度の情報で良かろうて。どのみち、それまで生きてはいまいて」

「人間の寿命は短いですからね」


 合流した長谷川と吉良への説明は、賀茂が行う事になった。

 彼等が生きているうちに、富士山が噴火するかも知れない事があるが、それはまだ下準備に過ぎない程度の情報しか与えなかった。


「どうしますか?あっちに見える観測所跡が【日本最高峰】ですが観光していきますか?」

「初登頂で無理はしたくないですよ。下山したら温泉行くんでしょ?今回は仕事なんですから早めに終わらせて休みたいですね」


 長谷川にも疲労が溜まっている様だ。


「途中で揉めた池田とかいう奴の事を、一応は所轄に連絡に行かなきゃいけないんじゃないですか?」

「今回は特殊だから必要が有りそうですね。温泉前に済まさなきゃいけないとは」


 吉良が気が付いた点に、長谷川が頭を抱えている。


「何はともあれ、先ずは食事じゃなあ!まぁ、たいした物はないじゃろうが」

「長谷川さんと吉良さんも、ちゃんと食べないとスタミナ持ちませんよ」

「賀茂さん、食欲無いんですが・・・そうですね」


 流石に長谷川も吉良も大人なので、食べたくなくとも食べなければならない事は理解できている。


「朝食も食べてないし、目一杯たべるぞぉ~」

「山根さん、登山途中でもアレだけ食べてたのに、まだ食べるんですか?太りますよ」

「吉良と違って太らないんだよ、俺達は」

「ケーキ食べ放題とか行ったら店が赤字になるもんなぁ、茜は」

「うるせぇぞ!重蔵(じゅうぞう)


 ちょっと見には痴話喧嘩やジャレ合いに見える集団だが、彼等が世界の未来の一翼を担っている事を、他の登山者は知るよしもなかった。


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