修行の終わり そして【断罪の氷姫】
わぁい初めての戦闘シーンだぁ!!
難しい(・ω・`)
「ハァッ、ハァッ…ハァッ…」
何分、何時間、何十時間経った?いや、もしかしたら何千時間と過ぎてるかもしれない。
発動した【シャドーボクシング】は、本来のシャドーボクシングとは違い、自分の予想外の行動も行う。しかもステータスは同等。息をつく暇すらない。同等のステータスで、最大限まで引き出された能力で襲いかかってくるのだから。
「ハァッ…はぁ…やっと倒せた…」
自分は自分自身の影に大剣を突き刺した状態で息を整えていた。今まで息すら出来ないレベルの戦いをひたすら続けていたからだ。耐えられたのは異常なまでの高レベルによるステータスと称号等の補正、装備があったお陰だろう。それが無ければもっと前に自分はやられていた筈だ。
『【シャドウ】の撃破を確認』
『経験値を取得。レベルアップしました』
『複数のスキルを習得。最適化し、複合スキルへ変更します』
『スキル【武神の覇気】を習得しました』
『称号【武神】を取得しました』
『称号【己を超えし者】を取得しました』
どうやらレベルが上がったらしい。自分で作り出した影とは言え、その強さは化け物級だ。経験値もかなりあったらしい。
そして新しいスキル…これも嫌な予感がするなぁ。とりあえず見てみるが…
【武神の覇気】
自身の身体を思うがままに操り、闘争において頂点に君臨するスキル
戦闘中、様々な効果を常時付与する。
(体力自動回復・魔力自動回復・体力消費軽減・魔力消費軽減等)
パッシブスキルみたいだが、かなりの量のスキルの複合みたいだな。デメリットも無いみたいだし、思う存分活用させてもらおう。
そして称号は…神になっちゃった?
【武神】
武の頂点すら超え、神の領域に至った者に送る称号。
その闘争の姿は正しく武神であった。
称号所持者に戦闘補正(極大)
称号所持者に体力補正(極大)
そういう意味での武神か…これも他のと同じでかなりのチート補正があるみたいだ。
【己を超えし者】
自分自身と戦い、そして超えた者。迷いは断ち切った。さぁ進む為の障害は、もう無い。
称号所持者に成長補正(極大)
【シャドーボクシング】で自分自身を打ち倒した事で入手した称号か…これこんなので手に入れていいの?本当は別の特別な試練とかで手に入れるものじゃ…?
「戦闘時間は…げっ。こんなに経ってたの!?」
『静止した世界発動中。経過時間7648万4937時間58分』
どうやらとてつもない時間戦っていたらしい。そりゃ疲れるわけだ…レベルと補正、装備が無かったらもたなかったな。しかしこれでやっと自分の身体にも慣れた。
実はレベルが高すぎるせいで最初はまともに動かせなかったのだ。というか戦闘での動きに自分の意識がついていけなかった。
だがそれでも影は容赦無く攻撃してきたので本当にヤバかった。慈悲無しかよ。無かったね。
『【時は金なり】を解除します。静止した世界の解除時に周りの被害の修復。【大は小を兼ねる】により最小限の代償で起動します』
そう聞こえると自分の中から何か抜けていく感覚があった。魔力を多少抜かれたらしい。ただレベルがレベルなのでほんの僅かしか減らなかった訳だが。しかも自動回復で速攻回復してるし。
そして周りが色を取り戻す。音も戻ってきたらしく、風が木々を駆け抜けるのが聞こえてきた。どうやら戦闘の壊れた部分も全て修復出来たらしい。
その場に座り込みながら今後どうするかを考える。とりあえず身体は慣れたから戦闘はおそらく問題ない。油断は禁物だが、それでも慣れたというだけで変わるだろう。
そういえばスターダストディスティニーオンラインだとマップあったよな。使えるかな?
「スキル【スターダストディスティニーオンライン】起動。マップは使えるか?」
『スキル機動確認。周囲約10kmをマップで表示します』
「おっビンゴ」
そうして表示されたマップは、かなりの範囲を表示してくれてた。
真ん中の点が自分で周りは…結構森が続いてるみたいだな。
「ところで自分以外の人とかはやっぱり色別で点が打たれるのか?うーん」
『味方→青 敵対→赤 中立→黄色で表示します』
「こんな機能無かったよね!?」
異世界仕様に最適化された結果なのだろうか…まあ有難く使わせてもらおう。ってうん?端っこの方を黄色い点が通ったような…というか赤い点も通ったな。
そこで耳を澄ませてみると、遠くから草を踏み締めて走っている音と、なにかの鳴き声が聞こえてきた。レベルが異常な高さを持っているため、こういった芸当も可能になってた。ちなみにこれも修行中に習得した。だって気配なくなったりしたから音で判別するしかない時もあったんだもの…
「とりあえず、行ってみますか」
そう言って立ち上がってから、軽く走って行く事にした。
side ???
あぁっくっそ…最悪だ。
そう思いながら男女2人組の冒険者が走っていた。後ろからは龍…しかもSSSランク指定のレッドドラゴンが迫っていた。
「ミンク!!走るスピード落とすんじゃねぇぞ!!」
「魔術師にっ!!体力求めないでって言いたいけど!!今だけは全力で走ってあげるわよっ!!」
「そりゃありがたい事でっ!!」
「グレイこそ走るスピード落とさないでよね!!」
この2人、グレイとミンクは冒険者の中ではかなりの実力者…ランクで言うとSランクはある実力者だ。
それぐらいの実力者ならレッドドラゴンの恐ろしさは知っている。だからこそ普通ならちょっかいとかを出すヘマなどやらかさない。
だが今回は運が悪かった。ダンジョン帰りに転移トラップを踏んでしまい、更にその転移先がレッドドラゴンの目の前だったのだ。
それに気付くと同時に即座に逃走した為、まだ捕まらないでいるが捕まるのも時間の問題だろう。だが、何もせずに終わる2人でもなかった。Sランクなりの意地があったのだろう。
「ミンク!!もうすぐ森を抜ける!!準備は出来てるな!?」
「バッチリ!!せめて逃げてみせるわよ!!」
する内容は単純。森を抜けたと同時に光魔法の【フラッシュ】でレッドドラゴンの目を潰し、逃げるというものだ。上手くいくかは分からないが、やらなければ死ぬというのも分かっていた。
「よし!!あと少しで抜け…って誰かいるぞ!?」
「はぁっ!?ちょっとそこの人!!早く逃げなさい!!」
あと少しで森を抜けると言うところで、前方の方に誰かが居るのが見えた。だがその人も後ろのレッドドラゴンが見えていない訳ではあるまいと、逃げるように叫ぶが反応を示さない。
しかもよくよく見たらまだ子供のようだ。しかも女の子。黒で統一されてるように見えるが、かなり良さそうな服であるのを見る限り貴族の子供だろうか?だがそんな事を思考している暇はない。
子供を抱えて逃げる事は恐らく不可能だ。だからと言って子供を置いて逃げる程畜生でもない。最終的に2人はアイコンタクトで互いがやりたい事を察した。
視線だけで互いがしたい事を察せるのは、長年ペアでやってきたからこそでもあるだろう。
そして森を抜けると同時に2人は立ち止まり、龍へと振り返りながら少女へと叫んだ。
「ここは俺達が少しでも食い止める!だから走って逃げろ!!」
「全く、とんだ貧乏くじを引かされた気分よ…!」
そりゃそうだ。相手はSSSランク指定の龍。SSSランク指定と言えば、最早災害レベルだ。仮に国とかへ攻めてきたのであれば、1時間程で壊滅する程の強さを誇る。
Sランクの2人ではあるが、30秒ももてば善戦したと言われる程だ。
(せめてミンクと後ろの女の子だけでも逃がさねぇと…!)
そう覚悟を決めていた時、鈴のような綺麗な声が背後から聞こえてきた。
「汝らは、敵か?」
「は…!?いやそんな事を言ってる場合じゃねぇぞ!?早く逃げろ!!」
だがその少女は、逃げるどころかむしろこちらへと近付きながらもう一度口を開いた。
「もう一度だけ、問う」
「汝らは、敵か?」
「ッ!?」
次の瞬間には、身体は動かなくなっていた。冷や汗が止まらない。まるで絶対的な絶望と対面しているかのような、どう足掻いても無駄なのだと感じさせるプレッシャーの中、答えを間違えないようにミンクは口を開いた。
「っ…私達は、敵じゃないわ。レッドドラゴンに追いかけられて…逃げてきたの」
「…そうか。じゃああの紅い龍は、敵か?」
「…えぇ」
そう答えると同時に、2人へかかっていたプレッシャーが即座に消えた。開放されると同時に息をする方法を身体が今になって思い出したかのように、呼吸を再開する。
そしてその少女は、2人の隣を通って前に出た。それと同時にレッドドラゴンも追い付き、その少女の前方の空で咆哮をあげた。
―――――だが、次の瞬間に龍は絶望と対峙していた。
「紅い龍、汝は敵らしい」
少女が声を紡いだ。それと同時に右手に巨大な剣を携えていた。推定2m以上ある、とても華奢な少女が振るう事は不可能だと思わされる武器を。
「私は、汝に興味は無い。だが敵なのだというのなら」
少女はその剣を静かに、だが目に見えぬ速度で振り抜く。
それと同時に、紅い龍の右翼は根元から切断された。だが、それ以上に――――
「嘘…でしょ…?」
「おいおい…なんの冗談だ…?」
龍は堕ちる。そしてその後ろの雲が…
―――――真っ二つに、斬れていた。
大きな音を立てながら、龍は地へとついた。
そして龍の目の前に、黒の少女が立っていた。
「…君は私を敵として、襲おうとした」
「だから私は、容赦しない」
そう言いながら、上へと構えていた大剣を龍へと振り下ろした。
その大剣は、魔銀で作られた武器ですら弾くというレッドドラゴンの鱗を紙のように斬り裂いた。
返り血を浴びた少女は、表情1つ変えること無くミンクとグレイへと振り返った。血だらけの筈の少女は、何故だか狂気的な美しさを持っていた。
「ねぇ…貴女は、いったいなんなの…?」
ミンクのその問へ、少女は静かに口を開いた。
「…リノン。周りからは、【断罪の氷姫】って言われてた。私を見た人は、皆そう言ってた」
2人からは、そう言った少女の眼は、酷く悲しそうに見えた。
見てくださりありがとうございます…
もしよろしければ下の星をポチーと押してくださったら嬉しいです…!!