亀帰宅
「さ、探しに行かないと!スズメお願いします!」
亀が一匹で外に出たと聞かされて、白波はおろおろしながら言う。
「自分で出て行ったのだ、自ら帰ってくるまで放って置けばよかろう」
戸の隙間――ちょうど猫が通れる幅に視線を向けてスズメが言う。
「そうね、それより……」
「そんなっ!」
何か言いかけた緑花の言葉を遮って白波が叫ぶ。
いつもの白波ならすることのない無作法……結構な取り乱しぶりだと、緑花は小さくため息をつく。
「もしこのルームが亀の帰って来る前に動いてしまったらどうするんです!帰って来て、家が無かったら……」
悲壮な顔で白波は訴えるが……。
「それは大丈夫じゃない?」
気楽な感じで緑花が言う。
白波ルームは主である白波を無視して勝手に動くことがある。
というか、白波はこのルームを意識して動かすことなんて出来ないのだ。
そのため、緑花や黄魚が遊びに行こうとここだと思ってやってきたら、いつの間にか他所に行っている――と言うことが確かにたまにあるが……。
「私達はよく驚かされてるけど、白波を困らせる動きはしていないもの」
絶体に――とまでは言い切る自信はないが、ルームの主である白波が大切にしている亀を残してこのルームが身勝手に動くとは考えにくかった。
そう白波に言う緑花だが、白波の悲壮な表情は崩れない。
「亀は元野良です。きっと人に捨てられたのでしょう……。そんな亀が帰って来たときに、もし家が無かったら……」
傷つくであろう亀の気持ちを慮って、白波は辛そうに顔を顰める。
「大丈夫だと思うけどなぁ……」
「もしそうなったら、こっちがなんとかしてやる」
スズメが言った。
「後で動いてくれる気持ちがあるのなら、今お願いします!」
後で探しに行くのも、今探しに行くのも同じ手間のはず――ならば、今一緒に行って欲しいと訴える白波。
「ねぇ……」
悲壮な顔でスズメに訴える白波に目を向けながら、緑花は割り込む。
「亀が気晴らしにちょっとお散歩に行ったんだとして、どうして袱紗なんて持って行ったのかしら?」
「はい?」
袱紗は人の手にすれば大きなものでは無いが、猫――亀にとっては結構大きなものだと思う。
「邪魔になると思うのよね……」
「あ、亀と決まったわけでは……」
亀が袱紗を持ち出した――と言うことに疑義を呈する白波だが……。
「他に考えられないじゃない?」
「……」
ばっさり言い切られて反論できない白波。
と――。
コトっと小さな音がして、戸の隙間から入って来たのは斑な茶色系の毛玉――猫。
その口元には緑色の丸い布包みを銜えていた――袱紗だ。
「亀っ!」
「あ、ほら!袱紗…て、え?」
亀に手を伸ばす白波、そして袱紗を目にして固まる緑花……。
そんな二人を制するようにスズメが亀の前にさっ!と飛び降りた。
「え、スズメ?」
亀を抱き上げようと身をかがめて出しかけた手を止め、スズメに視線を向ける白波。
スズメは亀から袱紗――袱紗に包まれた何かごと受け取ると白波に指示を出す。
「白波!躙口から向こうに行け!こっちもこれを連れすぐに向かう!」
「え?あ、はい……。一体、何が?」
スズメは袱紗を掴んでさっ!と飛び立つ。
白波は了承の返事をしつつも戸惑った表情のままだ。
そんな白波を横目に緑花は亀を抱き上げた。
「お手柄ね……」
そう言って緑花が亀を撫でる。
「あの…緑花?いったい何が……」
白波は何がなんだかわからないが、とりあえず亀の無事は確認できたので、スズメに言われた通り躙口へと向かいながら緑花に聞く。
「スズメが持って行ったあの袱紗に包まれてたのって、座敷童の核よ」
緑花がさらりと言う。
「は!?」
思いもしなかった言葉に白波はぎょっとする。
「ほとんど消えかけてたわ。実体を保てなくなって、もう核だけの状態になって……。あと一歩で完全消滅ってところまでいってたわ。でもこの子がそれに気がついて連れて来てくれたの」
目を見開き、ひゅっ!と音を立てて白波が息を吸った。
「亀をお願いしますっ!」
白波は身を翻すようにして躙口へと飛び込んで行った――。
優しく撫でてくれる緑花の腕の中で、亀は機嫌よくゴロゴロ喉を鳴らすのだった。
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