なにかいる・・・
かたっ…。
軽い音を立て、勝手口の戸を開ける。
すっと、一歩入ったところで、クロは怪訝な顔でその足を止めた。
「なんだクロ?」
銀河が呼びかけるが、怪訝な顔のまま周囲をきょろきょろする。
「クロー、後つかえるからー、進んでー」
「あ、ああ……」
クロのすぐ後ろには銀河がいて、続いて紅、アオ、黄魚が来ていた。
「どうしたんだ、クロ?」
「なに…探して、るの?」
「いや……。うん、なんだろ?」
「?」
後ろのメンバーが勝手口から中に入り、履物を片して上に上がっても、クロはまだ土間できょろきょろしていた。
「クロ?」
「……」
「クーロー!」
「ああ、うん……なにか、いた気がしたんだ……」
「何が?」
「それがわからないんだ……。でも、白波に似た気配がした気がするんだよ。でもいなくて……」
首を傾げるクロだが、そんなクロに他の座敷童達の方が首を傾げる。
「白波はまだ囲炉裏部屋だろ?」
「緑花はー、ゆっくーり食べる派だもーん。側にーついてるよー」
「そうだな……。それにワシは何も見んかったぞ?」
銀河はクロのすぐ後ろにいた。
「……似た、気配…て、何?」
「なんだろ?」
黄魚の問いにクロは一緒に首を傾げる。
「白波…ワープ、した?」
黄魚がこてんと首を傾げるように言う。
「いや待て。それはないから!」
「白波はー、一応人間ー」
「クロしっかりせいよ?」
「ご、ごめん……」
紅に一応とつけられてしまう白波だが、スズメ曰く、確かに人であるらしい。
「台所って、白波が一番よくいる場所だから、気配が染みついてるのかなぁ?」
「それはあり得ると思うが……」
銀河は感じたことは無いと言う。
「気にせいか……。実のところ、さっきもほんの一瞬だけだったし……」
「あたし知ってるー!それってー、勘違いーってヤツー」
紅の言葉に苦笑いするしかない。
だが……。
「早く、行かないと…家に帰る、の。遅くなっちゃう……」
「あ、待ってよー、黄魚ー」
「オレももう一個、もーらおーっとっ!」
「アオ……食い過ぎではないか?」
囲炉裏部屋に急ぐ黄魚に続いていく他の座敷童たち――。
クロは気になって、もう一度土間の方を振り返り、部屋から出るのが最後になって……。
(内緒だよ……)
「え?」
声が聞えた――。
「クロどうした?」
囲炉裏部屋の戸に手をかけていた銀河が、足を止めたクロに気がついて声をかけるが……。
「あ……何も、ないよ」
クロはそう言って、銀河の後を追った――。
※ ※ ※
囲炉裏部屋に現れた黄魚に、スズメも白波も緑花も目を見開いたが……。
開口一番「葛饅頭…頂戴!三つ!」と言い放たれて、ただ笑うしかない。
しかも……。
「ううう…。やっぱり……離れると…気になる……」
要求どおり、お望み通りの葛饅頭の乗った皿を手にしたというのに、黄魚はそわそわしてちっとも落ち着きが無い。
「家ですか?」
「う、ん……」
お茶の準備をする白波に問われて、黒文字をせっせと動かしながら黄魚は頷く。
家つき座敷童の、困った本領発揮である。
守護家から離れると、自分のいない間に家に良からぬことが起きるのでは無いかと、とかく不安に駆られてしまうのだ。
「そんなに気になるくせに、どーしてこんなにしょっちゅう遊びに来るんだよ。来なきゃいいじゃん!」
アオの言葉はもっともなものなのだが、黄魚はだって…と頬を膨らます。
「白波の、お菓子より……美味しい、お菓子無い……。お菓子、食べたい。緑花が…引き籠るの、やめたのも、見たかった……」
「あー、それは……。うーん、しかたないかもぉー?」
「紅ぃ!甘やかすなー!」
「だってー」
黄魚を挟んで、アオと紅はわちゃわちゃしているが、黄魚は食べ終えた皿を白波に「ごちそうさま」っと返し、すぐ立ち上がる。
「おやおや……。お粗末さまでした」
白波が皿を受け取りながら、慌ただしい黄魚に苦笑いを浮かべる。
「お茶はどうします?」
「早く帰り…たいから、今度、もらう」
「日空けてお茶飲んでも、意味なくね?」
アオが首を傾げるが、そそくさと黄魚は戸口に移動している。
「あら、もう帰るのね、黄魚……」
緑花は黒文字を手にしたまま、少し唖然と黄魚を見る。
「緑花、の顔見て、お菓子も食べた」
「そう…」
食うの早すぎるだろ!とアオが叫んでいるが、黄魚はまるっきり気にした様子はない。
てこてことクロの横まで来ると言った。
「出来損ないの子、ちょっと…ましになったって……」
「え?」
「お父…さん、センターに来て…言ってた……」
出来損ないの子――華子のことだ。
「出来損ないとか言うな」
言われても仕方ない性格をしているとわかってはいる、けれど……他所から言われるとやっぱり腹が立つ。
「わかった……華子ちゃん」
「うん」
「たい…しょ、手続き…に来てた」
「そっか…」
華子が問題を起こして、来るな!と言われたリハビリセンター――。
黄魚の家の子は今も問題なく治療に通っているそうで、華子の父親が、退所の手続きに来たという。
(盛大にトラブル起こしての、急な強制退所だったからなぁ……)
恐らく金銭的にも、他のことでも、色々事後処理があった事だろう。
その際、まだ歩くことも、立つことも出来ないが、ほんの少し訓練をする気になったようだ……みたいなことを言っていたという……。
「ありがとう…。それ、教えに来てくれたんだな……」
「……白波の、お菓子……食べたかった、から…」
黄魚はそう言って、囲炉裏部屋から出て行った。
「ツンデレ?」
出ていく黄魚を見送ってアオがクロに聞く。
「ん?普通に照屋さんって、ヤツだなーあれは」
それに、白波のお菓子を食べたかったり、待ち人がやっと来た緑花の顔を見たかった…という気持ちも確かにあっただろう。
「そんなことよりクロ……」
ゆっくりお茶を飲んでいた緑花が、クロの方に視線を向ける。
「なに?」
「せっかく黄魚が、あなたの気になる子の情報教えてくれたんだから、井戸見に行けばどう?その子のこと、見えるかもよ?」
にっこり笑ってそう勧められたが……。
「………今は、遠慮しとく……」
紫鏡の付き添いで、結構あの井戸を覗く機会はあったけれど……。
最初のトラウマがきつすぎて、まだあの井戸を積極的に覗く気にはなれない――。
しかもそれは、その当の華子がトラックに吹っ飛ばされる様子なのだ。
「意気地なしねぇ!」
にんまり笑ってそう言う緑花は、きっと意地悪系座敷童だと思うクロだった……。
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