本当に、反省しています?
「萌が、抱いた思いを忘れず進むのなら、そのうちに滝のことにも気づけるんじゃないかしら」
ゆっくりと葛饅頭を口に運びながら緑花は言った。
「滝ね…。崖にできたあの滝の水……あれ、里にあった泉と同じ効果あるのか?」
そう確認するクロに緑花は頷く。
「ええ、萌は泉の土も持って行ってたし、気づける要因は周囲にいくつもあるわ。それに気がつけるかどうかはあの子次第」
にんまり笑う緑花は、萌が気づけると信じているのだろう。
「もしー、気づかなかったらーどうするのー?」
「気づくにしても、また何百年もかかっちゃったりとか?」
「またー機おるのー?」
「今度は滝が枯れないようにするとかかぁ?」
滝もなんだかんだ色々な要因で、枯れることは多々あるものだ。
そんなこんなを、紅とアオは緑花を煽るように口にする。
「……私の知ったことではないわ」
「助けてーあげないのー?」
「ちょこっと、気づきの切っ掛けあげるとかさぁ?」
「しーまーせーんー!」
「「えーっ!」」
緑花の拒否に、紅とアオは口を尖らす。
「今さらそんなことしたら、この何百年もの間、私がやってきたことが馬鹿みたいじゃないの……。手助けなんて……しないわよっ!」
「えー」
「だってなぁ……」
「しません!」
きっ!と眦を逆立てた緑花の頭に、パタタっと飛んできたスズメが止まった。
「スズメ……」
「緑花よ、そういきり立つな。大丈夫だ。こっちが見たところ、あの娘ならそのうち気づく。それだけの引きの強さを持っておるよ」
「そ、そう……」
良かった……。
ほっと、緑花が息を吐く。
それからスズメは、紅とアオに向かって言う。
「そなたら、つまらぬことを煽るでない。己が家のことに干渉されるのは、そなたらも嫌だろう?」
「うぅー…ごめんなさいー」
「ごめん、緑花……。つい気になっちまって……」
しょんぼりと肩を落とす紅とアオだった。
※ ※ ※
「ごめんなさーい!」
「さーい!」
カン!カチン!
「調子に乗りました!」
「たー!」
コン!コン!
「羨ましかったから―」
「とっーてもー、羨ましかったー!」
「だからちょこっと意地悪言ってみたー」
「言ってーみただけよー」
カン、コン!カツン!カツン!
妙なリズムで歌うように、河原で石をそれぞれ積み上げているのは、アオと紅。
「あれって…、本当に反省しているのかな?」
「そのようだぞ」
そんな二人から少し離れて、銀河とクロは胡坐をかいて座っていた。
緑花は囲炉裏部屋にておやつ中だ。
「なんで石なんか積むんだろ?」
「反省の意を表しとるそうだ」
「意味が解らん!」
河原の石を積み上げることがなぜ反省の意になるんだ?と首を傾げるクロに、銀河は言う。
「賽の河原と言うのがあるだろう?親より先に死んだ子は、そこで石を積んで仏塔を建てさせられると言われておるじゃないか」
しかしせっかく石で仏塔を積んでも、積んだ端から鬼に崩されて仕上がらないとされている。
「けどそれは、人が想像で勝手に思い込んだことだよ」
実際にそんなところに行って、その景色を見て帰ってきたものなんていない。
「だが広く知られている話でもある、だからあの二人は石を積むことにしたのだろ」
つまり、自分たちはちゃんと反省していますよー!と、態度で表明している――ということらしい。
「オレとー」
「あたしはー」
「「元は人(人ー)」」
コツ!コツ!カン!コン!
「「だから(らー)これは(はー)最大に反省してるって(てー)意の表明だいっ!(なのー!)」」
カコン!ガコン!
高い音と共に石が積まれる。
「水子だったから、オレ……」
「あたしはー、口減らしー!」
二人が座敷童となる前身は人だった……だから――。
コン!
ガコンッ!
紅が置いた石をぐっと押し付けたまま俯く。
「あたしー…山にー捨てられたんだよねー……。そこでさー死んでたらー、山童になってークロのー仲間になってたかもー?」
「そっか……」
「でも、拾われたんーだ……。だけどー、山でー毒の実ー食べちゃっててー、せーっかくー拾ってもらえたのにー、死んじゃった……」
冷たい山で、一人で死んでしまうと思っていたのに、ちゃんと屋根の下で、布団の上で死ねることになった……。
しかも、拾ってくれた人が悲しんでくれた。他の家族になるはずだった人たちも惜しんでくれて……。
それが暖かくて、気持ちよかったから、座敷童になったのだと紅は言った。
「でもねー、良い人過ぎるのーうちの人たちー。すーぐ、誰かに騙されちゃったりー。人助けしすぎてー、びんぼーになっちゃうのー」
お人好し過ぎる血筋なのだと紅は言った。
座敷童の加護があっても、どうしようも無いほどに……。
「お金があったらー、あるだけ他人にあげちゃうのー。あたしがー幸せにしたいのはー、自分の家の人だけなのにー。見てるだけなのが、苦しくってー。もう人の世にいるのがー、イヤーになっちゃったのー!」
だから、ここに逃げてきた――。
そう言ったあと、紅が積んだ石から「ていっ!」と手を離すと、石積みはガラガラっと崩れた。
「あーっ!」
「よしっ!オレの勝ちだ!」
「わーん!!負けたー!」
ガッツポーズをするアオと、『ル』の字のように足を崩して座り込む紅――。
「……なぁ、銀河…あれってホントに反省してるのか?」
「はははっ……」
クロの疑問に、銀河は乾いた声で笑う。
と……。
ピュン!っと、小石が川から勢いよく飛んできて、アオの石積みに当たった。
途端にガラガラと石積みは崩れてしまう。
「えええーーー⁉」
ザバン!と川面から大きな魚影が跳ねる。
そしてその次の瞬間には、アオと紅の横に黄色い花柄の着物を着た幼子が、すちゃっ!と立っていた。
「アオのも…壊れたから、引き分け……ね」
にっこりと笑うのは――。
「あー、黄魚だー」
「今の石、黄魚か⁉何すんだよーっ!」
「ん-、嫌…がらせ?」
「なんでっ⁈」
「おやつ…食べに、来たの……」
「会話ー、成立してないよー?」
相変わらずマイペースな黄魚だった。
「……また、遊びに来たのか…」
「そのようだな……」
唖然としてしまったクロと銀河。
二人は、鮎姿(巨大)の黄魚が尾びれで石を跳ね飛ばして、アオの石積みを壊すのをしっかり見ていた。
「ああいうのって、座敷童としてどうなんだ?マイペース過ぎね?」
家の護りどうすんだよ――。
ついついぼやいてしまうクロ。
「人…変わるから、座敷童も…変わっていいと思うの……」
クロのぼやきを聞きつけて、そんなことをいう黄魚だった……。
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