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双葉、警官と闘う

 警官が双葉に向けて引き金を引こうとしたその時、テニスボールほどの大きさの火球が警官の手元にぶつかり、警官は思わず拳銃を地面に落としてしまった。双葉は咄嗟に拳銃を遠くの方に足で蹴った。

「こんのおおお」

 双葉が強烈な回し蹴りを警官の腰に放った。警官は関節をグニャリと曲げたまま倒れると、口から緑色のゲル状の物体を吐いた。

「何だこれ、気持ち悪いぞ」

「双葉、大丈夫ですか?」

「ミリーか、さっきは援護ありがとな」

 緑色のゲルが警官の体から離れると、地面を滑るように進み、まるで双葉とミリーから逃げるようであった。

「逃げる気だな。追いかけるぞ」

「ええ」

 二人はゲル状の物体を追跡した。ゲルは坂道を上り、壁も全て木で造られた、今時珍しい一軒家の中に玄関の下の隙間から入って行った。家は木が所々腐食しており黒ずんでいた。築何十年かはするのだろう。先祖代々から受け継いだような歴史性を感じる造りだった。


「双葉、退いてください」

 ミリーは双葉を自分の隣に立たせると、指先を玄関の扉の前に突き出した。

「呪文・ウインドカッター」

 手の先から真空の刃が現れて、玄関の扉を切り裂いていった。そして半ば強引に家の中に入って行った。

「おい、犯罪だぞ」

「私には関係ないでーす」

 古くなった床は、歩くたびに軋んだ。今にも床底が抜けそうで思わず忍び足になってしまう。途中に階段があり、真っ直ぐ進めばリビングに、階段を登れば2階に進むことになる。ここで二手に分かれるのは危険だと判断した二人は、まずはリビングから探索することに決めた。しかしその矢先に、階段の上に横たわっている奇妙な物体を双葉は見つけた。

「おい、ミリー。何かあるぞ」

「呪文・ライトニング」

 ミリーの手の平に白い光を放つ玉のようなものが出現した。そしてそれは蛍のように飛ぶと、階段の方に行き、その物体を照らした。その物体を見た瞬間、二人の表情が凍り付いた。わざわざ光を当ててまで見たことを後悔する映像だった。


「嘘だろ。こんなのって・・・・」

「あまり見ちゃダメです」

 階段には、見た目で判断するに、150センチ前後の身長をした骸骨が、階段の上の方の段に倒れていた。白骨化するまでにどの程度の時間が必要なのか、二人には分からない。しかし少なくとも、非常に長い時間、ここに放置されていたことは確かだった。二人はリビングに向かうと、今度は椅子の上に座り、テーブルに顔を乗せた状態で止まっている、さっきと同じような骸骨がそこに放置されていた。

「ここは幽霊屋敷か・・・・」

「さっきの魔物もいません。2階に行きましょう」

 双葉とミリーは互いの顔を見合わせると、互いに強く頷いた。そして階段の上を、ミシミシと音を立てながら上った。途中で骸骨を跨ぐのは勇気がいったが、今はそれを気にしている場合ではなかった。

「見ろよ。書斎があるぜ」

 半開きになっている扉の先には、広い畳部屋があり、そこには本棚やデスク、さらにノートパソコンが開いたままデスクの上に置かれていた。その他、新聞の切り抜きが床に散乱しており、仕事で使われていた部屋のようだった。


 二人は部屋に入ると、まずノートパソコンを見た。電源は落とされており、線がコンセントに入ったままだった。部屋内の押し入れは黄ばんでおり、何処にでもあるような民家でしかなかった。

「一旦出よう」

「ええ、ここは危険な匂いがします」

 二人は部屋から出ると、階段を降って行った。その音を押し入れの中で息を潜めながら聞いている人物の存在には気付かなかったらしい。


「はあ・・・・はあ・・・・、全くなんて日だ。あんなガキどもとかくれんぼする羽目になるなんて」

 薄暗い押し入れの中は蜘蛛の巣が張っており、精神衛生上も長居したい場所ではなかった。しかし、二人が家から出る音を聞くまでは、ここから離れるわけにはいかない。稔は既に人間の姿に戻っており、布団の上にゴロリと横になった。そしてゆっくりと眼を閉じて考えた。

(奴らは警察に通報する気じゃないだろうな。警察など怖くはないが、あの数を撒くのは面倒だ)

 稔はふと手を伸ばして、枕を掴もうとした。すると何か水っぽい湿った物を掴んでしまい、慌てて手を放した。暗くて見えにくかったが、そこには真っ赤な核を中心に宿した。半透明な物体があった。

「これはバックの中に隠して置いたはず。どうやってここに・・・・」

 稔が核を掴もうとすると、核が突然、ブルブルと震え始めた。そして紫色の触手を合計で6本、体の側面から3本ずつ出すと、それで襖に取り付いて開けようとした。

「くっ、まずいぞ。今開けられるのは・・・・」

 稔は核を背後から掴んで、襖から引き剥がそうとしたが、その核は生きているのか、タコの吸盤のように襖を放そうとしない。それどころか、稔を遠ざけるかのように、耳障りな超音波を放った。


「キーキー」

「うぐ・・・・」

 稔は思わず手を放してしまった。同時に襖の戸が開き、核は触手を使って天井に張り付き、そのまま扉の隙間から廊下に出て行ってしまった。

「おい、待て。何処に行く気だ?」

 核はガラスを触手でカチ割ると、そのまま外に向かってピョンッと跳んで行ってしまった。どうやら何かを探しているらしい。慌てて追いかけようとする稔の顔が、突然背後から現れた双葉によって殴られた。

「ごほ・・・・」

 稔は咄嗟の行動に対処できず、足を滑らせて階段から落ちてしまった。そして木製の古い床を上に落ちると、そのまま床を突き破って、頭部から血を流していた。

「げほ、げほ・・・・」

 木の破片が喉に入り、咽ている彼の前に双葉とミリーが階段から降りて、彼の眼前に立っていた。

「何故だ。出て行ったはずじゃ・・・・」

「馬鹿か。お前が隠れていること何てバレバレだぜ。それにしてもまさか先生だったとはな」


 双葉は少し残念そうに眉を下げていた。

「君達は名探偵よろしく、僕を追い詰めてさぞ気分が良いだろうが。僕はここで終わらないよ。知っているだろう。あの赤い核はもう無いが。おかげで素晴らしい力を手に入れることができた。

「核が無いだと?」

 双葉は思わずミリーの方を振り返った。彼女も真剣な顔付きで双葉を見ていた。

「そうだよ。たった今、何処かに飛んで行きやがった。最も僕には関係ないが、これ以上、僕のような力を持った人間が増えても困るしね。何とか捕まえたいよ」

 稔がクルリと踵を返した。ミリーは咄嗟に指先を稔に向けて叫んだ。

「呪文・ファイヤーボール」

 先程よりも大きな火球が背後から稔の体を焼いた。

「ぐああああ」

 稔はうつ伏せに倒れると、全身を火だるまにして苦しんでいた。

「おいミリー。やり過ぎだ」

 双葉は思わず止めたがもう遅かった。彼の体は黒焦げになりそのまま息を引き取った。

「死んだのか?」

「はあ・・・・はあ・・・・、早く追いかけないと」

「うん」

 二人が家から出ようと玄関に向かって歩き出すと同時に、黒焦げの稔の死体が、突然立ち上がった。


「ゴボボボボ。ワタシハシナナイ。コノニクタイハボクノニクタイデハナイ」

「嘘だろ?」

「そんな・・・・」

 稔の体がグニャグニャと粘土のようになり、姿を変えていった。そして見たことも無いようなスーツ姿の若い男性になっていた。

「オマエタチハボクニアヤツラレテイタンダ。ボクノノウリョクニハ、ヒトニアンジヲカケテアヤツルコトガデキル。オマエタチハボクニアヤツラレ、カンケイノナイニンゲントタタカッテイタノダ」

 そこまで言い終えると、稔に操られている男の体が全身から真っ赤な血を放出し、そのまま後ろ向きに倒れてしまった。



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