税を集めるもの
第50話 「税を集める者」
1789年12月末。
パリ。
通し番号の付いた納税証明書が、試験的に導入されてから数日が経過していた。
対象となったのは、パリ周辺にある三つの徴税所。
まだ王国全体から見れば、点にすらならないほど小さな試みだった。
それでも、変化はすぐに現れた。
徴税官が受け取った金額。
納税者へ渡した証明書。
徴税所に残された控え。
一日の終わりに数えられた現金。
それらを照合することで、少なくとも徴税所の窓口で集められた金が、帳簿へ記される前に消えることは難しくなった。
無効となった証明書も捨てることは許されない。
大きく線を引き、理由を記し、帳簿へ残す。
一つでも番号が欠ければ、翌日には地方本部から問い合わせが届く。
徴税官たちは、これまで以上に慎重に金を数えるようになった。
税を支払う者たちにも変化があった。
「その金額は、どこへ書いてある。」
御者が徴税官へ尋ねる。
「ここだ。」
徴税官は、徴税所の壁に掲げられた税率表を指した。
御者は文字を読めなかった。
しかし、葡萄酒を示す樽の印と、その横に書かれた数字を、同行していた商人が確認する。
「間違いない。」
商人が言う。
「なら、払おう。」
以前なら、徴税官から金額を告げられれば、納税者にはそれが正しいか確かめる方法がなかった。
今は不完全ながらも、壁に掲げられた税率表がある。
支払った後には、金額と番号を記した証明書が渡される。
わずかな違いだった。
税が安くなったわけではない。
複雑な関税がなくなったわけでもない。
それでも、何を根拠に、いくら支払ったのかを確かめられるようになった。
そのことは、徴税官と納税者の関係を少しずつ変え始めていた。
だが、試験導入によって見えてきたのは、不正の防止だけではなかった。
徴税制度調査委員会へ、一つの報告書が提出された。
表紙には、短い言葉が記されていた。
『徴税費用について』
パリ。
国民議会。
議長が木槌を鳴らす。
「本日の議題は、徴税請負制度の今後についてです。」
議場には、いつも以上に多くの議員が集まっていた。
机の上には、試験徴税所から送られた帳簿の写しが置かれている。
前回の調査では、三つの異なる帳簿と、そこから消えた領収書が発見された。
しかし問題は、一人の徴税所長が行った不正だけではなかった。
徴税所が実際に集めた金。
徴税に必要だとされた費用。
地方本部へ送られた金。
国庫へ納められる金。
請負人に残る利益。
統一された帳簿によって、これまで別々に存在していた数字が、ようやく一つの流れとして見え始めていた。
ネッケルが演壇へ立つ。
「諸君。」
「試験導入された納税証明書について、最初の報告が届きました。」
「証明書の発行には、これまでよりも手間がかかっております。」
「一件ごとに二つの記録を作らなければならず、徴税所によっては荷馬車を待たせる時間が長くなりました。」
「新たな用紙。」
「印章。」
「帳簿。」
「書記官の増員。」
「当然ながら、これらには費用がかかります。」
保守派の議員が立ち上がった。
「やはり、無駄な制度だったのではありませんか。」
「一人の徴税官が不正を働いたからといって、王国中の徴税所へ新たな仕事を増やす。」
「その費用も、結局は国民が負担することになります。」
議場の一部から賛同の声が上がる。
ネッケルは反論せず、次の書類を取り上げた。
「しかし、試験対象となった三つの徴税所では、帳簿に記録された徴収総額が、それ以前より増えております。」
場内がざわめく。
「税率を上げたのですか。」
「いいえ。」
「通過した荷馬車の数が増えたのですか。」
「大きな変化はありません。」
「では、なぜ税収が増えたのです。」
ネッケルは、机の上に置かれた納税証明書を見た。
「これまで帳簿へ記される前に消えていた金が、記録されるようになった可能性があります。」
改革派の議員が勢いよく立ち上がる。
「それこそ、徴税請負制度が腐敗している証拠ではありませんか。」
「ただちに廃止すべきです。」
「国民の税を、私企業の利益にしてはならない。」
「税は国家が直接集めるべきです。」
大きな拍手が起こる。
だが、ネッケルの表情は晴れなかった。
ルイは、その様子を見つめていた。
ネッケル自身、徴税請負制度に問題があることは誰より理解している。
最初に財政を預かった頃から、徴税請負人の権限を縮小しようとしてきた。
1780年には、酒類にかかる税や王領収入の管理を徴税請負組織から切り離した。
それでも、制度を完全に廃止することはできなかった。
なぜなら徴税請負人は、単に税を集めて利益を得る者ではなかったからだ。
彼らは国に代わって徴税所を建てる。
書記官を雇う。
監視員を置く。
密輸を取り締まる。
現金を輸送する。
そして実際の徴税が終わるより先に、将来の税収を見込んで国庫へ金を前貸しする。
深刻な現金不足に苦しむ王国にとって、その前貸しは命綱だった。
ルイは演壇のネッケルへ尋ねた。
「財務総監。」
「徴税請負制度を廃止し、国家が直接税を集めるとする。」
「その場合、何人の役人が必要になる。」
ネッケルは、すぐには答えなかった。
手元の人員表を確認してから口を開く。
「正確な人数は、制度の形によって変わります。」
「ですが、現在の徴税請負組織と、そこから切り離された管理組織を合わせれば、数万人が徴税業務に従事しております。」
議場がざわついた。
「数万人?」
「それほどいるのか。」
ネッケルは頷く。
「すべてが裕福な徴税請負人ではありません。」
「地方の徴税所で帳簿を書く者。」
「倉庫で塩を管理する者。」
「関門で荷物を検査する者。」
「国境で密輸を取り締まる者。」
「現金を運ぶ者。」
「地方本部で会計をまとめる者。」
「彼らの多くは、給与で家族を養う普通の職員です。」
改革派の若い議員が声を上げる。
「ならば、国家がその者たちを雇えばよい。」
「徴税請負人を取り除き、職員を国の役人にするのです。」
「請負人に渡っていた利益を、国庫へ入れられます。」
「それほど簡単ではありません。」
商人出身の議員が立ち上がった。
「国家が雇うなら、国家が毎月給与を払わなければならない。」
「徴税額が予定より少ない月でも。」
「凶作で商取引が減った年でも。」
「密輸が増えて税収が落ちた地域でも。」
「役人の給与は待ってくれません。」
「請負人は自らの資金で職員を雇い、国庫へ定められた額を前払いしてきた。」
「制度を廃止すれば、その危険をすべて国家が負うことになります。」
別の議員も続く。
「王国には、今月の支払いに使う現金さえ足りないのではありませんか。」
「新たに数万人を雇う金を、どこから用意するのです。」
改革派の議員は言葉に詰まった。
国庫に金がないから徴税制度を改革する。
しかし徴税制度を改革するためにも金が必要になる。
ルイは、机の上に置かれた財政報告書を見つめた。
軍人への給与。
行政官への給与。
国債の利息。
冬を越すための穀物購入。
すでに支払わなければならない金は山ほどある。
ここへ数万人分の給与が加わる。
それを考えただけで、胸が締めつけられた。
支払いに失敗する。
国の信用が崩れる。
兵士の給与が止まる。
パンが届かなくなる。
群衆が宮殿へ押し寄せる。
その先にある光景を、ルイは知っている。
怒号。
太鼓。
槍の先に掲げられた首。
そして最後には、自分自身が処刑台へ立たされる。
ルイの指先が冷たくなる。
呼吸が浅くなりかけた。
(落ち着け。)
(今すぐ、すべてを変える必要はない。)
(変えるための順序を考えるんだ。)
ルイは、震え始めた手を机の下で握り締めた。
その間にも議論は続いていた。
軍人出身の議員が立ち上がる。
「もう一つ問題があります。」
「国家の役人にすれば、不正がなくなるという保証はあるのですか。」
「請負人に雇われた徴税官が賄賂を受け取るなら。」
「国王や議会に雇われた徴税官も、同じように賄賂を受け取るでしょう。」
「上役が請負人から大臣に変わるだけです。」
場内から「そのとおりだ」と声が上がる。
「固定給にすれば、働かなくなる者も現れます。」
「どれほど税を集めても給与が変わらないなら、密輸人を追う危険を冒さなくなる。」
「徴税所で居眠りする者も出るでしょう。」
「それでは、請負制度より税収が減るかもしれません。」
改革派が反論する。
「だからといって、利益のために苛酷な取立てを行う制度を残すのか。」
「税を多く集めた者が儲かるなら、徴税官は国民を限界まで絞り上げる。」
「固定給の役人なら、少なくとも取り立てた額が自分の利益にはならない。」
「固定給を受け取りながら、裏で賄賂を取るだけかもしれない。」
「ならば監査すればよい。」
「監査官が買収されたらどうする。」
「その監査官を監査する者を置く。」
「その者まで買収されたら?」
議場に失笑が広がった。
だが、笑いで済ませられる問題ではなかった。
人間が金を扱う以上、不正の可能性は消えない。
制度を変えれば、悪人が善人になるわけではない。
ルイはゆっくりと立ち上がった。
「諸君。」
議場が静まる。
「一つ確認したい。」
「今の徴税所では、誰が税額を決めている。」
ネッケルが答える。
「税率そのものは法令や契約によって定められています。」
「ですが現場では、徴税官が商品を確認し、その種類と量を判断して税額を計算します。」
「その金を受け取るのも、同じ徴税所の者か。」
「はい。」
「帳簿へ記録するのも?」
「同じ組織の書記官です。」
「帳簿が正しいか検査するのも?」
ネッケルは一瞬、言葉を止めた。
「原則として、徴税請負組織の上級検査官が行います。」
ルイは頷いた。
「つまり。」
「税額を判断する者。」
「金を受け取る者。」
「帳簿を書く者。」
「その帳簿を検査する者。」
「すべてが同じ組織の中にいる。」
法律家出身の議員が、ルイの意図に気づいた。
「互いに独立していない。」
「そうだ。」
ルイは議場を見渡した。
「公務員にするだけでは、不正はなくならない。」
「請負人を追い出すだけでも、不正はなくならない。」
「一人の者、あるいは一つの組織へ、すべての権限を集めることが問題なのではないか。」
ルイは指を一本立てた。
「税率と課税の基準は、議会が法で定める。」
二本目。
「現場の徴税官は、その法に従って金を受け取る。」
三本目。
「帳簿は統一された様式で作り、地方と中央の双方へ送る。」
四本目。
「そして帳簿を検査する者は、徴税官と同じ上役を持ってはならない。」
議場の空気が変わった。
「税額を決める者。」
「税を集める者。」
「帳簿を調べる者。」
「それらを分けるのですか。」
一人の議員が尋ねる。
「そうだ。」
ルイは答えた。
「一人がすべてを握れば、その者が不正を隠したとき、誰にも見つけられない。」
「だが、三者が別々に記録を持てば、どこか一つを書き換えても数字が合わなくなる。」
軍人出身の議員が腕を組む。
「互いに監視させるということですか。」
「監視というより、互いに確かめられるようにする。」
ルイは言葉を選んだ。
「すべての役人を疑っていては、行政は動かない。」
「だが、誰一人疑わなくてもよい仕組みも存在しない。」
「人を信じることと、記録を確かめることは、両立するはずだ。」
ネッケルが静かに立ち上がった。
「陛下。」
「その仕組みを作るのであれば、王国は何もないところから始める必要はありません。」
議員たちの視線が集まる。
「1780年の改革によって、酒類に課される税と王領収入の一部は、すでに従来の徴税請負制度から切り離されております。」
「完全な国家直営ではありません。」
「しかし、国王のために収入を管理し、管理者や職員へ一定の給与を支払う方式へ近づけました。」
「そこには帳簿を扱える職員も、地方組織も存在します。」
改革派の議員が身を乗り出す。
「では、その組織を拡大すればよいのではありませんか。」
「可能ではあります。」
ネッケルは慎重に答えた。
「ですが、一度に全国へ広げれば混乱します。」
「現在の徴税請負契約も残っております。」
「国王と請負人が正式に締結した契約を、補償も協議もなく破棄すれば、王国は約束を守らないと見なされます。」
「今後、国へ金を貸す者はいなくなるでしょう。」
保守派の議員が頷く。
「契約は守らなければならない。」
「たとえ相手が徴税請負人でもです。」
「ならば、契約が終わるまで待とう。」
ルイが言った。
議場がざわめく。
「陛下。」
「それでは改革が遅れます。」
「現在の契約を明日破棄することはしない。」
ルイは続けた。
「だが、契約が終わった後も同じ制度を続けると、今ここで約束する必要もない。」
「残された期間を、国家が直接徴税するための準備に使う。」
ネッケルがルイを見る。
「準備、でございますか。」
「まず、現在の徴税請負組織で働いている者を調べる。」
「役職。」
「給与。」
「経験。」
「担当している仕事。」
「不正や懲戒の記録。」
「彼らを全員、請負人の手先として追い出してはならない。」
改革派の議員の一部が不満そうな表情を見せる。
ルイは、それに気づきながら続けた。
「徴税請負人と、徴税所で帳簿を書いている書記官は同じではない。」
「巨額の利益を受け取る出資者と、毎月の給与で家族を養う監視員も同じではない。」
「必要な経験を持ち、職務を誠実に果たしてきた者は、審査を受けたうえで国家の徴税官として雇う。」
「不正を働いた者は採用しない。」
「一人ひとりを調べるのですか。」
「そうだ。」
「身分や縁故だけで決めてはならない。」
「帳簿を読む能力。」
「計算する能力。」
「これまでの勤務記録。」
「それらを確かめる。」
地方選出の議員が立ち上がった。
「新たな役人を、パリだけで選ぶのですか。」
「それでは地方の事情が分からない者ばかりになります。」
「地方からも採用する。」
「ただし、同じ土地に長く置き続ければ、地元の商人や有力者と癒着するかもしれない。」
「一定の期間ごとに担当を替えることも検討しよう。」
商人出身の議員が尋ねる。
「給与はどうするのです。」
「徴税額に応じた歩合を残すのですか。」
ルイは首を横に振った。
「少なくとも、国民から多く取り立てるほど自分の収入が増える仕組みにはしない。」
「基本は固定給とする。」
「それでは働かない者が出るという意見がありました。」
「だから、徴収額だけで働きを判断してはならない。」
「帳簿に誤りがないか。」
「証明書と現金が一致しているか。」
「納税者から正当な苦情が出ていないか。」
「定められた期日までに報告を提出したか。」
「それらを勤務の評価に使う。」
ルイは、自分の口から出た「評価」という言葉に、わずかな違和感を覚えた。
前世では当たり前だった考え方。
だが、この時代の官職は、売買され、世襲され、財産のように扱われることがある。
職務を果たしたかどうかで任用を続けるという考えそのものが、大きな改革だった。
法律家出身の議員が口を開く。
「役人を解任できるようにする必要もあります。」
「官職そのものを所有物とすれば、不正を働いても簡単には辞めさせられません。」
「そのとおりだ。」
ルイは頷いた。
「徴税官の職は、売ってはならない。」
「国民から税を受け取る権限を、個人の財産にしてはならない。」
議場のあちこちから拍手が起こる。
だが、財政問題はまだ残っていた。
ネッケルが口を開く。
「陛下。」
「制度の形は見えてきました。」
「しかし、国家が徴税を始める最初の日には、まだ十分な税が集まっておりません。」
「それでも役人の給与。」
「徴税所の維持費。」
「現金輸送の費用。」
「すべてを先に用意する必要があります。」
「請負人が担っていた前貸しを、何で置き換えるのでしょう。」
再び議場が静まった。
結局、そこへ戻ってくる。
金がない。
国が自ら税を集めるためにも、最初の金が必要だった。
ルイはネッケルへ尋ねる。
「一つの地方だけなら、どれほど必要だ。」
「地域によります。」
「ですが、王国全土を一度に直営化するよりは、はるかに少なく済みます。」
「ならば、最初から全国で始めない。」
ルイは答えた。
「すでに管理方式へ移されている税と地方組織を使い、一つの地域で完全な公的徴税を試す。」
「徴収する税率は変えない。」
「現場の職員も、審査に通った者はそのまま雇う。」
「変えるのは、誰のために働くか。」
「請負人のためではなく、国家と法律のために働いてもらう。」
「そこで実際に必要となった給与と経費を記録する。」
「請負制度の下で必要だった費用と比べる。」
「税収が減るのか。」
「増えるのか。」
「不正は減るのか。」
「別の不正が生まれるのか。」
「すべてを確かめてから、次の地方へ広げる。」
慎重派の議員が尋ねる。
「試験に失敗した場合は?」
「失敗した理由を公表する。」
ルイは即座に答えた。
「そして制度を直す。」
「公的徴税が、必ず請負制度より優れていると決めつけて始めるのではない。」
「どちらが国民の負担を減らし、国庫へより確実に金を届けられるのかを確かめるために行う。」
「もし国家の役人が請負人以上に金を浪費するなら、それも隠してはならない。」
その言葉に、改革派の一部から戸惑いが広がった。
彼らは公的徴税こそ正しいと信じている。
しかしルイが求めているのは、正しさを宣言することではなかった。
実際に機能するかを確かめることだった。
一人の老議員が、ゆっくりと立ち上がった。
「陛下。」
「徴税官は、誰の使用人になるのでしょう。」
「国王の使用人ですか。」
「議会の使用人ですか。」
「それとも地方の使用人ですか。」
その問いに、議場が静まり返った。
誰が任命するのか。
誰が給与を払うのか。
誰が命令するのか。
それは徴税の仕組みだけでなく、新しい国家の形そのものに関わる問題だった。
ルイはしばらく考えた。
かつてなら、「国王の使用人だ」と答えていただろう。
税は国王の収入であり、徴税官は国王の名によって民から金を集める。
しかし今、税を決める権利は議会へ移りつつある。
税は国王個人のための金ではない。
軍。
裁判所。
道路。
救済。
行政。
国民全体のために使われるべき金だ。
「徴税官は。」
ルイは、慎重に言葉を選んだ。
「国王個人の使用人でも。」
「議員個人の使用人でも。」
「地方の有力者の使用人でもない。」
「法によって定められた税を、法に従って集める者だ。」
老議員が目を細める。
ルイは続けた。
「任命するのは国家。」
「その人数と給与を認めるのは議会。」
「日々の業務を監督するのは行政。」
「帳簿を検査する者は、徴税を行う組織から独立させる。」
「そして不当な徴収を受けた国民は、地方自治体を通じて異議を申し立てられるようにする。」
「誰の使用人かと問われれば。」
ルイは議場を見渡した。
「法の使用人だと答えたい。」
議場の奥から、静かな拍手が起こった。
それは少しずつ広がり、やがて議場全体を包んだ。
議長が木槌を手に取る。
「提案を確認します。」
「第一に、既存の徴税請負契約を直ちに破棄しないこと。」
「第二に、契約終了後の自動的な更新を約束しないこと。」
「第三に、公的徴税へ移行するための準備機関を設置すること。」
「第四に、現在の徴税職員について、職歴と能力を調査し、公的徴税官として採用するための審査を行うこと。」
「第五に、税額の決定、徴収、会計検査を別の部門へ分けること。」
「第六に、一部地域で公的徴税を試験的に実施し、費用と税収を公開すること。」
議長は議員たちを見渡した。
「以上を、公的徴税準備法案として採決に付します。」
採決が始まった。
改革派の多くは賛成した。
請負制度の即時廃止を求めていた者の中には、改革が遅すぎるとして反対する者もいた。
保守派の中にも、現在の契約が直ちに破棄されないことを理由に賛成へ回る者がいた。
商人出身の議員たちは、試験導入の費用を公表するという条件を評価した。
やがて票が数え終わる。
議長が結果を受け取った。
「賛成多数。」
「公的徴税準備法案は、可決されました。」
議場に拍手が広がった。
それは徴税請負制度の廃止を決めた拍手ではない。
王国が、税を直接集める能力を持つための準備を始める。
その小さな決定を受け入れる拍手だった。
ルイは息を吐いた。
手の震えは、まだ完全には収まっていない。
それでも一つだけ、確かなことがあった。
これまで王国は、金を持つ者へ徴税を任せてきた。
なぜなら、国家自身に税を集める力も、先に費用を払う金もなかったからだ。
請負人の存在は、単なる腐敗の結果ではない。
弱い国家が、自らの不足を埋めるために生み出した仕組みだった。
ならば制度を変えるには、請負人を追い出すだけでは足りない。
国家が、その代わりを務められるようにならなければならない。
その日の夜。
パリ市内にある豪華な邸宅では、徴税請負人たちが集まっていた。
厚い絨毯。
銀の燭台。
壁に掛けられた高価な絵画。
長い机の上には、国民議会で可決された法案の写しが置かれている。
一人の男が、法案を読み終えて机へ投げ出した。
「契約が終われば、我々を切り捨てるつもりだ。」
向かいに座る年配の徴税請負人が首を横に振る。
「まだ決まったわけではない。」
「公的徴税が失敗すれば、国は再び我々を頼る。」
「失敗しなければ?」
誰も答えなかった。
別の男が静かに口を開く。
「彼らは、我々の利益だけを見ている。」
「我々が、どれほどの資金を国庫へ前貸ししてきたのかを忘れている。」
「国王が戦争を始めるとき。」
「債権者への利息が足りないとき。」
「穀物を買い付ける金が必要なとき。」
「最初に金を出したのは誰だ。」
「我々だ。」
「そのとおりだ。」
年配の男が頷く。
「国は、自分で税を集められると思い始めた。」
「ならば、一度やらせてみればよい。」
若い徴税請負人が、不安そうに尋ねる。
「次の前貸しを止めるのですか。」
「それでは国家が支払い不能に陥る。」
「我々まで、王国を滅ぼした者として憎まれます。」
「止めるとは言っていない。」
年配の男は薄く笑った。
「条件を付けるのだ。」
「契約を更新するなら、必要な金をすぐに用意する。」
「更新しないのなら、国には自分の力で金を探してもらう。」
部屋が静まり返る。
それは脅迫ではない。
少なくとも、書面の上では。
徴税請負人には、国へ金を貸す義務などない。
融資を断ることも、契約の更新を条件にすることも、商取引としては不自然ではなかった。
だからこそ厄介だった。
「国王は受け入れるでしょうか。」
一人が尋ねる。
年配の男は、暖炉の火を見つめた。
「受け入れる。」
「国庫には金がない。」
「役人の給与も。」
「国債の利息も。」
「冬の穀物を買う金も。」
「理想は、支払期限を延ばしてはくれない。」
男は法案の写しへ手を置いた。
「国王と議会は、税を集める者を選べると思っている。」
「だが、彼らはまだ分かっていない。」
「税が集まるまでの間、国家を動かす金を持っているのが誰なのかを。」
翌朝。
ネッケルの執務室へ、一通の書簡が届けられた。
徴税請負人たちからの正式な提案書。
そこには、国庫へ一千万リーブルを超える資金を直ちに前貸しする用意があると記されていた。
ただし。
その下には、一つの条件が添えられていた。
『現行の徴税請負契約を、契約満了後も更新すること。』
ネッケルは書簡を読み終えると、しばらく動かなかった。
国庫が必要としている金。
改革を止める条件。
その二つが、同じ紙の上に並んでいた。
徴税請負人たちの反撃は、剣でも暴動でもなかった。
王国が最も不足しているもの。
金によって始まったのである。




