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凡人がなるルイ16世  作者: 山口祐輝


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38/79

第三十八話 特権と義務

一七八九年八月。

ヴェルサイユ。

フランス王国の財政が国民議会へ公開されてから、議場の空気は大きく変わっていた。

年間歳入を上回る支出。

およそ四十億リーブルに達する債務。

歳入の半分近くを奪う利払い。

複雑に分かれた徴税制度。

徴収された税と、実際に国庫へ届く金額の差。

王室費を削減するだけでは、財政危機を解決できないことが明らかになった。

国家が必要とする金額を集めるためには、税制そのものを作り直さなければならない。

だが、税制について議論しようとすれば、必ず一つの問題へ行き着いた。

特権。

聖職者。

貴族。

地方。

都市。

ギルド。

官職。

フランス王国では、身分や地域、職業によって、異なる権利と負担が認められていた。

同じ広さの土地を所有していても、所有者の身分によって税負担が違う。

同じ商品を運んでいても、通過する地方によって関税が違う。

ある都市に認められた権利が、隣の都市には認められていない。

ある職業へ就くためには、特定の身分やギルドへの所属が必要とされる。

国王政府が全国へ同じ税を課そうとしても、「我々には古くからの免除がある。」という反対に突き当たる。

国民議会で始まったのは、単に貴族を廃止すべきかという議論ではなかった。

なぜ、一部の者だけが特別な権利を持つのか。

その権利には、どのような理由があったのか。

そして現在も、その権利に見合う義務を果たしているのか。

フランスの古い社会を支えてきた仕組みそのものが、問われようとしていた。

議場では、貴族代表と改革派の議員たちが向かい合っていた。

議長が木槌を鳴らす。

「本日の議題は、身分及び地域に認められている諸特権と、国家への負担についてである。」

「初めに、財政委員会からの報告を受ける。」

委員の一人が立ち上がった。

「諸君。」

「我々は、王国各地の税負担を調査した。」

「その結果、同じ名称の税であっても、地方と身分によって負担が大きく異なることが確認された。」

「特に、土地と所得を持つ者が、その支払い能力に応じて公平に負担しているとは言い難い。」

貴族席から、すぐに反発の声が上がった。

「貴族が一切の税を払っていないかのように言うのは誤りだ。」

「我々も人頭税を支払っている。」

「二十分の一税も負担している。」

「全ての貴族が免税されているわけではない。」

それは事実だった。

貴族は、あらゆる税を完全に免除されているわけではない。

人頭税を支払う者もいる。

二十分の一税を負担する者もいる。

地域や家系、所有する土地の性質によって、課税の実態は異なっていた。

しかし、多くの貴族は第三身分が負担するタイユを免除されていた。

道路労役などの負担から外されることもあった。

税額の査定や徴収において、身分上の影響力が働く場合もあった。

聖職者に至っては、通常の税制へ組み込まれる代わりに、教会全体として国王へ「無償贈与」と呼ばれる金を納めていた。

同じ王国の住民でありながら、同じ基準では負担していない。

それが問題だった。

一人の保守派貴族が立ち上がった。

年齢は六十歳を越えている。

軍服の胸元には、七年戦争で得た勲章が飾られていた。

「諸君。」

低く、よく通る声だった。

「貴族を単なる免税階級として語ることは、王国の歴史を忘れることだ。」

議場が静まっていく。

「貴族とは、税を払わない代わりに贅沢をするために作られた身分ではない。」

「かつて貴族は、王国のために剣を取った。」

「敵が国境を越えれば、自らの馬と武具を用意し、家臣を率いて戦場へ赴いた。」

「地方においては領民を守り、街道を維持し、争いを裁き、飢饉の際には穀倉を開いた。」

「国王の命令を地方へ伝え、王権の届かない場所で秩序を維持した。」

「我々の特権は、何の理由もなく与えられた恩恵ではない。」

「王国へ血を差し出す義務の代償だった。」

老貴族は胸に飾られた勲章へ手を当てた。

「私の父は戦場で死んだ。」

「私の兄も、オーストリア継承戦争で死んだ。」

「私自身も、国王の軍隊で負傷した。」

「貴族が納めてきたものは、金だけではない。」

「血の税を納めてきたのだ。」

貴族席から拍手が起こった。

「国家には、責任を負う階級が必要だ。」

老貴族は続けた。

「全ての身分を同じものにすれば、誰が国家のために先頭へ立つ。」

「誰が地方の秩序を守る。」

「誰が王国の伝統を次の世代へ伝える。」

「平等という美しい言葉のために、長い歴史によって作られた責任の仕組みまで破壊してはならない。」

その言葉には、単なる強欲だけでは片づけられない重みがあった。

実際に戦場へ立ち、家族を失った者の言葉だった。

貴族の全員が、宮廷で宴会を開いているわけではない。

国境の要塞で勤務する者。

地方の連隊を指揮する者。

裁判所や行政機関で働く者。

領地へ残り、村の秩序を維持している者。

今も古い義務を果たしていると自負する貴族は存在した。

だが、改革派の議員は引き下がらなかった。

第三身分から選ばれた法律家が立ち上がる。

「閣下が王国のために血を流されたことを、否定する者はいないでしょう。」

「ですが、我々が議論しているのは、閣下個人の功績ではありません。」

「生まれによって、全ての貴族へ与えられている権利です。」

改革派議員は、議場を見渡した。

「かつて貴族が戦士階級だったことは事実です。」

「しかし現在の軍隊は、封建領主が家臣を率いて集まる軍隊ではない。」

「国王の常備軍です。」

「兵士は給与を受け、訓練を受け、連隊へ編成される。」

「武器も補給も、国家が用意する。」

「しかも、戦場で死ぬのは貴族の将校だけではない。」

「名も残らない第三身分の兵士たちも、同じように血を流している。」

平民議員の席から拍手が起きた。

「貴族だけが血の税を納めていると言うなら、戦場で腕や足を失った平民兵士の血は、何と呼ぶのです。」

老貴族の顔が強張った。

改革派議員は続けた。

「地方統治についても同じです。」

「かつて、王の行政が地方まで届かなかった時代には、領主が裁判を行い、秩序を守る必要があった。」

「しかし現在は、地方長官がいる。」

「法律を学んだ役人がいる。」

「王立裁判所がある。」

「税を管理する官吏がいる。」

「国家は、以前ほど領主個人の軍事力と統治能力へ依存していない。」

「にもかかわらず。」

議員は声を強めた。

「領主裁判権。」

「狩猟権。」

「水車や共同炉を独占する権利。」

「領民から貢租を受け取る権利。」

「タイユを免除される権利。」

「軍や高位聖職、宮廷官職へ優先的に就く権利。」

「義務が国家へ移された後も、特権だけは家系へ残されている。」

議場が大きくざわめいた。

「無礼だ。」

「貴族の務めを何も理解していない。」

反発する声が飛ぶ。

改革派議員は止まらなかった。

「ヴェルサイユで暮らす大貴族の中には、領地へ何年も戻らない者がいる。」

「農民から地代と領主貢租を受け取りながら、その村の飢饉も知らない。」

「軍務に就かず、行政にも関わらず、宮廷で年金と官職を求める者もいる。」

「義務は失われた。」

「しかし、利益だけが残った。」

「それを特権と呼ばず、何と呼ぶのです。」

激しい怒号が起こった。

貴族議員の数人が一斉に立ち上がる。

「全ての貴族を宮廷貴族と同じにするな。」

「地方へ住む貴族の方が多い。」

「領地の収入だけで慎ましく暮らしている者もいる。」

「我々の中には、第三身分の富裕な商人より貧しい者さえいる。」

その指摘も事実だった。

ヴェルサイユへ出入りできる華やかな大貴族は、貴族身分全体の一部にすぎない。

地方には、小さな領地と古びた館しか持たない小貴族が多数いた。

家名だけは古くても、現金収入は少ない。

商売へ手を出すことを身分にふさわしくないと考え、土地から得るわずかな収入と領主権へ頼って生活している者もいた。

税の免除は、そのような小貴族にとって単なる贅沢ではない。

家計を維持するための支えだった。

議場が騒然とする中、一人の貴族議員が静かに立ち上がった。

ノアイユ子爵だった。

名門貴族に生まれながら、改革の必要性を認める人物である。

「私は。」

その一言によって、議場が少しずつ静まった。

「我が家が持つ租税上の特権を放棄する用意がある。」

大きなどよめきが起こった。

「国家の危機において、生まれによって負担を免れる理由はない。」

ノアイユ子爵は続けた。

「国王が王室費の削減を受け入れ、第三身分へ新たな負担を求めるのであれば、我々も同じ国家の一員として負担を引き受けるべきだ。」

「土地と収入を持つ者が、その力に応じて税を納める。」

「その原則へ、貴族も従うべきである。」

改革派の議員たちから大きな拍手が起こった。

一部の貴族も立ち上がり、賛同を示した。

ルイは、その光景を見ながら息を呑んだ。

史実では、一七八九年八月四日の夜、貴族や聖職者が次々に特権放棄を宣言した。

大恐怖によって農村が揺れ、領主館が襲われ、封建的権利を記録した文書が焼かれていた。

その混乱を鎮めるため、議員たちは一夜のうちに特権廃止へ走った。

だが、この世界では違う。

バスティーユ牢獄は襲撃されなかった。

パリの暴動が王国全体へ衝撃を与えることもなかった。

農村では食料不足と領主制への不満が残っているが、全国を覆うほどの大恐怖は発生していない。

穀物を積んだ荷車が止められる。

領主への貢租を拒む村が現れる。

浮浪者や盗賊が穀物庫を襲うという噂が流れる。

その程度の混乱は起きていた。

しかし、「貴族が雇った盗賊が農村を焼き払う。」という恐怖が地方から地方へ連鎖し、農民が武器を持って領主館へ押し寄せるほどには広がっていない。

議員たちは、背後から炎に追われていなかった。

だからこそ、特権について慎重に議論する時間が残されていた。

拍手が続く中、保守派の貴族が立ち上がった。

「美しい言葉だ。」

その声には、冷たい怒りが込められていた。

「だが、ノアイユ子爵。」

「貴殿は租税特権を失っても、生活に困らないではないか。」

拍手が止まった。

「貴殿の家には、広大な土地がある。」

「都市にも資産を持っている。」

「商業と金融へ投資することもできる。」

「一つの特権を捨てたところで、食卓からパンが消えることはない。」

「しかし、地方の小貴族は違う。」

保守派貴族は、自分の着古した袖を持ち上げた。

「私の領地は小さい。」

「収穫が悪ければ、農民だけでなく私の家族も困窮する。」

「館の屋根を直す金もない。」

「息子を軍へ送り出すため、馬と軍服を用意するだけで何年分もの収入が消える。」

「我々からタイユの免除を奪い、領主貢租まで奪えば、何によって生きろと言うのだ。」

「名門の富裕な貴族が、自分には不要な特権を華々しく捨て、その代償を貧しい貴族へ支払わせる。」

「それが平等なのか。」

議場が静まり返った。

今度は改革派も、すぐには反論できなかった。

特権身分の中にも、富裕な者と貧しい者がいる。

同じ改革であっても、受ける影響は違う。

大貴族が喝采を浴びながら放棄できる権利が、地方小貴族にとっては生活を支える最後の収入かもしれない。

しばらくして、第三身分の議員が立ち上がった。

「閣下の困窮が事実であるなら、国家はそれを考慮すべきでしょう。」

「では、我々の主張を理解したか。」

「いいえ。」

議員は首を横へ振った。

「閣下が貧しいから税を軽くすべきだというのであれば、それは理解できます。」

「しかし、貴族だから税を免除すべきだという理由にはなりません。」

保守派貴族の表情が変わった。

「同じ収入しか持たない者であれば、貴族も農民も、同じ基準で負担すべきです。」

議員は続けた。

「貧しい貴族の負担を軽くするなら、貧しい農民の負担も軽くする。」

「裕福な平民が多くの土地と財産を持つなら、貧しい貴族より多く支払う。」

「問題にすべきなのは、家名ではない。」

「土地。」

「収入。」

「支払う能力です。」

平民議員の席から拍手が起こった。

「閣下の家族を守るものは、貴族身分である必要はない。」

「全ての国民に適用される、公平な税制であればよいのです。」

保守派貴族は言葉を失った。

ルイは、そのやり取りを聞きながら、初めて問題の形が見えたように感じた。

前世の知識では、フランス革命とは貴族の特権に怒った民衆が起こした革命だった。

貴族は税を払わず、平民だけが重税に苦しんだ。

教科書では、その程度の短い言葉で説明されていた。

だが、実際の社会はもっと複雑だった。

全ての貴族が裕福なわけではない。

全ての貴族が税を払っていないわけでもない。

領主権の全てが、何の役割も持たない搾取として始まったわけではない。

かつては土地を守る義務があった。

戦場へ出る義務があった。

地方の秩序を維持する義務があった。

橋や水車、共同炉を整える責任を負う者もいた。

しかし、時代は変わった。

軍隊は国王の常備軍となった。

行政は官僚が担うようになった。

裁判も、王立の司法機関へ移りつつある。

領主が果たしていた義務の多くは国家へ移った。

それでも、領民から金や穀物を受け取る権利だけが残った。

制度が変化したのに、権利だけが変わらなかった。

それが問題だった。

「陛下。」

隣に座るネッケルが、小さな声で呼びかけた。

「これは財政問題でもあります。」

「ああ。」

「特定の身分へ一律の免除が残る限り、支払い能力に応じた税制を作ることはできません。」

「土地を持つ者へ土地税を課そうとしても、特権を理由に例外を求められる。」

「例外を認めれば、その不足を他の者が負担する。」

「その者たちが耐えられなくなれば、国家はまた借金へ頼ることになります。」

ルイは頷いた。

「だが、全てを一夜で奪えば反発する。」

「その通りです。」

「貧しい小貴族から領主収入を奪えば、彼ら自身が困窮する。」

「土地と結びついた権利には、売買や相続によって取得されたものもあります。」

「単なる身分上の免除と、財産として扱われてきた権利を、同じ方法で廃止することはできません。」

「補償が必要になるか。」

「権利の種類によります。」

ネッケルは答えた。

「人間の身分そのものへ課された隷属的な負担。」

「農民が領主の許可なく結婚や移住をできないという権利。」

「そのようなものまで財産として守るべきではありません。」

「しかし、土地を購入した時に代金へ含まれていた地代や貢租を、何の補償もなく消せば、国家が私有財産を奪ったと見なされます。」

「国家の信用にも関わるか。」

「はい。」

特権を廃止すれば公平になる。

だが、財産として売買されてきた権利を突然無効にすれば、今度は所有権への信用を壊す。

何かを正そうとすれば、別のものが崩れる。

ルイの胸に、重い不安が広がった。

議場では、さらに別の議員が立ち上がっていた。

「そもそも、特権とは貴族だけのものではありません。」

地方出身の法律家だった。

「ブルターニュにはブルターニュの特権がある。」

「ラングドックには独自の制度がある。」

「都市には関税や市場に関する権利がある。」

「ギルドには、特定の職業へ新たな者が入ることを制限する権利がある。」

「大学、裁判所、官職保有者も、それぞれ特別な権利を持つ。」

「全ての特権を廃止するとは、それらも全て消すという意味ですか。」

ブルターニュの代表が立ち上がった。

「我々の地方特権は、貴族が農民から搾取するための権利ではない。」

「フランス王国へ併合された時に認められた、歴史的な自治の保障だ。」

「国王が一方的に税を課すことを防ぎ、地方の代表が負担を決める。」

「それまで特権として廃止するなら、地方の自由を奪い、全てをパリの命令へ従わせることになる。」

その指摘によって、議論はさらに複雑になった。

特権の中には、不平等を守るものがある。

一方で、国王の専断から地域や団体を守る役割を持つものもある。

全ての特権をなくせば平等になるとは限らない。

国王の権力だけが強くなり、地方の自由が失われる可能性もあった。

別の改革派議員が立ち上がった。

「ならば、少数だけに認められた自由を、全ての国民に認めればよい。」

議場が静まった。

「国王から不当な税を課されない権利。」

「自分たちの代表を通して負担を決める権利。」

「法律によらず自由を奪われない権利。」

「それらを特定の身分や地方だけの特権として守るのではなく、全てのフランス人に共通する権利とする。」

「特権を奪うのではない。」

「特権を、国民全体の自由へ変えるのです。」

議場に大きな拍手が響いた。

ルイの背中に冷たい汗が流れた。

全ての国民に共通する権利。

それは、やがて人間と市民の権利として宣言される考えだった。

前の人生で、その言葉がどのように王権を変えていったのかを知っている。

法の前の平等。

主権は国民に属する。

生まれによる特権は認められない。

その原則を最後まで押し進めれば、国王という身分も問われる。

なぜ、ルイという一人の男だけが、生まれによって王となるのか。

なぜ、国民の上に立つ権利を持つのか。

貴族の特権を否定する論理は、やがて王権へ向かう。

ルイの耳の奥で、別の議場の声が蘇った。

王政廃止。

共和国成立。

ルイ・カペー。

死刑。

椅子の肘掛けをつかむ手へ力が入った。

呼吸が浅くなる。

逃げたい。

議論を止めさせたい。

貴族の特権を守れば、その先にある王権への問いを封じられるかもしれない。

だが、特権を守るために財政改革を失敗させれば、国家破産と民衆の怒りが待っている。

その先にも処刑台がある。

どちらを見ても、最後には同じ場所が見えた。

ルイは目を閉じた。

マリー・アントワネットの言葉を思い出す。

死を避けることだけを目的にしないでください。

どのような国を残したいのか。

何をすれば、国民に対して恥じずにいられるのか。

それを考えましょう。

ルイは震える足で立ち上がった。

国王が発言を求めたことに気づき、議場が静まっていく。

「余は。」

声が掠れた。

一度息を吸い、言い直す。

「私は、貴族が何の義務も果たしてこなかったとは思わない。」

貴族議員たちが国王へ視線を向けた。

「王国のために戦い、血を流した者がいる。」

「地方へ残り、領民と共に凶作へ耐えた者がいる。」

「行政と司法を支えてきた者もいる。」

「その功績を、今の制度が古いというだけで否定するべきではない。」

保守派貴族の表情がわずかに和らいだ。

「だが。」

ルイは続けた。

「功績は、その功績を挙げた者へ報いるべきだ。」

「祖先が戦場で血を流したことを理由に、何代後の子孫まで税を免除される仕組みが、永遠に続いてよいとは思わない。」

議場がざわめいた。

「義務のために与えられた権利であるなら、義務が失われた時、その権利も見直されなければならない。」

「軍務に就く者には、身分にかかわらず給与と名誉を与える。」

「行政に携わる者には、その職務に応じた報酬を与える。」

「国家へ功績を挙げた者を評価する。」

「だが、果たしていない義務への報酬を、生まれだけによって受け継がせることはできない。」

貴族席から反発の声が上がった。

「陛下は、貴族身分を否定なさるのですか。」

「そうではない。」

ルイは答えた。

「家名を誇ることを禁じるつもりはない。」

「祖先の功績を記憶することも、称号を名乗ることも、それだけで国家を貧しくするわけではない。」

「問題は、その名誉が、他の者へ不公平な負担を押しつける権利と結びついていることだ。」

「名誉と免税は、同じものではない。」

議員たちが静かに聞いていた。

「貧しい貴族を、さらに困窮させるために改革するのではない。」

ルイは続けた。

「貧しい者であるなら、貴族であっても平民であっても、負担を軽くする。」

「裕福な者であるなら、貴族であっても平民であっても、その力に応じて負担する。」

「貧しい貴族を守るのは、その者の家名ではない。」

「全ての国民へ適用される、公平な税制であるべきだ。」

改革派から拍手が起こった。

しかし、ルイはその勢いに任せて即時廃止を宣言しなかった。

「ただし。」

議場の拍手が止まった。

「全てを一つの言葉で特権と呼び、一夜で消すことにも賛成できない。」

急進的な議員が立ち上がった。

「陛下は、また改革を先送りなさるのですか。」

その声を聞いた瞬間、ルイの心臓が大きく跳ねた。

先送り。

優柔不断。

決断できない王。

前の人生で何度も浴びせられた言葉だった。

「違う。」

ルイは震えを隠せないまま答えた。

「何を変えるのかを決めずに、変えたと宣言することを拒んでいる。」

「税の免除。」

「官職を独占する権利。」

「領主裁判権。」

「狩猟権。」

「水車や共同炉の使用を強制する権利。」

「土地に付随する貢租。」

「人間の身分そのものへ課された隷属的な義務。」

「地方自治を守る権利。」

「それらは同じものではない。」

「直ちに廃止すべきもの。」

「全国民へ広げるべきもの。」

「補償を伴って整理すべきもの。」

「公的な職務へ置き換えるべきもの。」

「一つずつ分けなければならない。」

「その間に、特権は残り続けます。」

急進派議員が反論した。

「時間を与えれば、利益を持つ者たちは改革を骨抜きにする。」

「それも分かっている。」

ルイは答えた。

「だから、期限を設ける。」

「調査だけを何年も続けることはしない。」

「国民議会に特権整理のための委員会を設け、税制上の特権については、次の課税年度までに統一原則を作る。」

「身分を理由とする税の免除は廃止する方向で審議する。」

「領主権については、人身的な隷属と土地に付随する権利を分け、補償の必要性を検討する。」

「地方の自由を守る権利については、廃止するのではなく、全国民へ認められる権利へ作り直す。」

議場には、完全な賛同も完全な拒絶もなかった。

急進派には遅すぎる。

保守派には速すぎる。

富裕な改革貴族には受け入れられても、地方小貴族には不安が残る。

平民議員にとっても、補償のために国民の税が使われるなら納得できない。

それでも、議論の方向は定まり始めた。

生まれではなく、負担能力に応じて税を課す。

公的な職務は、身分ではなく能力と功績によって与える。

義務を失った権利は見直す。

一部の者だけが持つ自由は、可能であれば全ての国民に共通する権利へ変える。

それは、旧制度を一夜で燃やす革命ではなかった。

だが、古い制度をそのまま残すことでもなかった。

議会はその日、特権の種類と根拠を調査する委員会の設置を決めた。

委員会には、貴族、聖職者、第三身分の代表が加わる。

最初に整理される項目は、五つに分けられた。

身分による租税免除。

軍、行政、司法、教会官職へ就くための身分制限。

領主が農民個人へ課す人身的義務。

土地と結びついた地代及び領主貢租。

地方、都市、団体が持つ自治及び営業上の特権。

分類が読み上げられるたび、議場から異なる反応が起きた。

誰もが、自分の守りたい権利だけは他の特権と違うと考えていた。

貴族は、軍務と名誉を守ろうとする。

聖職者は、教会の自治と十分の一税を守ろうとする。

地方代表は、古い協約によって得た自治を守ろうとする。

都市は、市場と関税の権利を守ろうとする。

ギルドの親方は、自分たちの営業独占を技術と品質を守る制度だと主張する。

第三身分の中にも、失いたくない特権を持つ者はいた。

特権とは、貴族だけの問題ではなかった。

フランス王国そのものが、無数の例外を積み重ねて作られた国家だった。

議会が閉会した後、ルイとネッケルは長い廊下を歩いていた。

窓の外には、夏の夕暮れが広がっている。

「難しいな。」

ルイが呟いた。

「はい。」

「正しいことを言えば、皆が従うと思っていた。」

「正しいことによって損をする者がいる限り、言葉だけでは動きません。」

ネッケルは答えた。

「特権を失う者にとって、改革とは正義ではなく損失です。」

「だから補償が必要になる。」

「ですが、全てを補償すれば、財政が耐えられません。」

ルイは苦笑した。

「金がないから特権を改革する。」

「特権を改革するには、また金が必要になる。」

「その通りです。」

二人はしばらく無言で歩いた。

「国家とは。」

ルイが言った。

「古い建物を修理するようなものだな。」

ネッケルが国王を見る。

「柱を全て一度に引き抜けば、屋根が落ちる。」

「だが、腐った柱を残せば、いつか建物そのものが崩れる。」

「どの柱が重さを支えていて、どの柱がもう役目を失っているのか。」

「それを見分けなければならない。」

「見分けている間に、建物が崩れ始める可能性もあります。」

ネッケルの言葉に、ルイの表情が曇った。

地方から届く報告は、まだ大恐怖と呼ばれるほどではない。

しかし、農村の不満が消えたわけではない。

凶作。

パン価格。

領主貢租。

十分の一税。

狩猟による畑の被害。

領主だけが使える森。

領主の水車を使うために支払う金。

農民たちは、自分たちが何重にも負担を負っていると感じていた。

今は領主館を襲っていない。

権利文書を焼いてもいない。

だが、議会が何も変えないと分かれば、いつまでも静かに待つとは限らない。

「改革の速度。」

ルイが呟いた。

「遅すぎれば、人々は変化を諦める。」

ネッケルが言った。

「そして、自分たちの手で変えようとする。」

「速すぎれば。」

「行政と秩序が崩れます。」

「その間に、ちょうどよい速さがあると思うか。」

ネッケルは少し考えた。

「最初から決まっている速さはないでしょう。」

「人々がどれほど待てるのか。」

「制度を変える準備がどこまで整っているのか。」

「それを見ながら決めるしかありません。」

ルイは窓の外へ目を向けた。

遠くの空が、赤く染まっている。

夕焼けにすぎない。

それでもルイには、どこかの領主館が燃えているように見えた。

「怖いな。」

ルイは正直に言った。

「特権を守れば、民衆が怒る。」

「特権を奪えば、貴族が敵になる。」

「平等を認めれば、次には王の地位が問われる。」

「どの道を選んでも、余の足元が崩れていくように感じる。」

ネッケルは慰めるような言葉を口にしなかった。

「崩れているのは、陛下が改革を始めたからではありません。」

「古い支えが、すでに重さへ耐えられなくなっているのです。」

「見なければ、崩れないわけではありません。」

ルイは静かに頷いた。

その夜。

特権整理委員会の机には、王国中から集められた文書が積み上げられた。

領主権の一覧。

租税免除の証書。

都市の特許状。

地方と王権の間で結ばれた協約。

ギルドの規則。

裁判権の記録。

数百年にわたって積み上げられた権利を、一つずつ読み解かなければならない。

その中には、明らかに時代遅れとなったものがある。

今も地域の自由を守っているものがある。

人々の生活を支えているものもあれば、人々を縛りつけているものもある。

そして最も困難なのは、領主が土地から受け取っている貢租だった。

農民にとっては、不公平な封建的負担である。

領主にとっては、代々相続し、時には金を払って取得した財産である。

一方は、直ちに無償で廃止せよと求める。

もう一方は、奪うなら補償せよと求める。

大恐怖が議会を追い立てないこの世界では、一夜の熱狂によって全てを放棄させることはできなかった。

だからこそ、フランスはより難しい問いへ向き合わなければならなかった。

特権を廃止するのか。

権利を買い戻すのか。

補償を誰が支払うのか。

そして、農民はその結論を待ってくれるのか。

革命は、まだ大きな血を流していない。

だが、流血がないことは、時間が無限に残されていることを意味しなかった。

一夜で特権を廃止するか。

補償を伴う段階的な改革とするか。

次に議会が下す決断は、古い制度を修理できるのか、それとも根元から倒すことになるのかを決めようとしていた。

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