89話 みんなでバ先へ
「ナイトシティーさん……俺達これからどうすれば良いんだよ!」
大柄な男は叫んだ。
その顔にはいつものような自信に溢れた笑みは無く、完全に怯えた様子だった。
「もう……俺達にはあんたしか希望は無いんだ…………!」
「…………」
真昼間のカラオケ店、彼等はその一人の男に縋った。
彼等の切実な思いに答えるべく、ナイトシティーと呼ばれた男は立ち上がる。
「大丈夫、お前らには俺が付いてる…………齋藤ちゃん、ふざけた名前のやつだ…………そんな奴にお前らを害されるわけにはいかない!」
声高らかに叫ぶその声には確かな正義が混じっていた。
「けど、夢の中で攻撃されるなんて、どうやって対策をしたら…………!?」
「心配するな、俺達には彼女が付いている…………きっと、大丈夫だ!」
「っ! 彼女……そうか、分かった!」
ナイトシティーの言葉に大柄な男は希望を取り戻したかのように顔を明るくした。
「…………だが、準備にも暫し時間がかかる……お前らが悪夢から醒める手助けはするから、それまでは何とか我慢してくれ…………!」
「…………わかり……ました、またあんな事があったら正気を保てないかもしれない…………だが、あんたが助けてくれるっていう希望があるだけでも少しは救いがあってもんだ!」
「ははは、だろう? 俺に任せておけば全て解決するからな!」
ナイトシティーは笑った。
彼らの間には奇妙な一体感が生まれていた。
それは、彩斗が最も危惧していたものであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………そろそろバイトだけど、流石に今日は休ませてもらおうか?」
「…………彩斗くんが付いてきてくれるなら行く」
「いいのか? こんな事があったばかりだし、外に出るだけでも辛いんじゃないのか?」
「ううん、大丈夫、お店にも迷惑かかっちゃうし…………」
うぅ、なんて真面目な子なんだ!
俺だったらそれを理由に有給貰いまくって休みまくるぞ!?
命のバイトの後は直ぐに俺のバイトが始まるわけだし、俺的には別に構わない。
が、本当に大丈夫なのだろうか?
もし無理して出ようとしているのなら俺が止めるべきだ。
「…………いや、今日は休んだ方がいい、外は危険かもしれないし……」
「いや、うちにいるより多分コンビニで働いている方が安全なんじゃないかな? 人も居るし、彩斗くんが目を光らせてくれていれば大丈夫だよ」
「…………命がそう言うなら」
少し思うところはあったが、命の意思だ、俺がどうこういうことでもないか。
俺達がそう話していると、紫恵が俺達の方をチラチラと見ている事に気がついた。
「……どうしたんだ?」
「えっ!? あ、いやぁ、その…………」
紫恵はしどろもどろになりながらも何かを隠そうとしているようだった。
「ふ、2人は一緒に行きなよ! 私はとりあえず家帰るからさ!」
「……いや、ダメだろ、もしかしたらお前もあいつらに狙われてるかもしれないってのに、1人にはさせられない」
「いや! け、けど…………と、とにかく2人で一緒に居なよ!」
紫恵は少し顔を赤くしながらそう言う。
「いやいや、それは……」
「彩斗くん、ちょっと待って」
俺が反論しようとすると、命が手を前に出して俺を制してきた。
ムッとしながらも何か考えがあるのだと思い俺は大人しく引き下がる。
「…………紫恵ちゃん、なんでそんな事言うの?」
「なんでって…………命ちゃんがこんな状況なのに私が我儘言ってらんないよ…………」
「それってさ、私の事下に見てるって事?」
「えっ!? いやいや、違うよ!? なんでそんな……!」
「じゃあ同情で私に譲ったりしないで……そんな事されても嬉しくないよ、だって私たちライバルでしょ?」
「……!?」
命の言葉に紫恵はハッとしたような顔をする。
そして少し何かを考えたあと、グッと拳を握って命の方を見上げる。
「…………分かった、もう譲ってあげないからね?」
「ふふん、譲るって、あなたの物じゃ無いでしょ? どっちかっていうと私の方が…………」
「あー! あー! そういう事言っちゃうんだ!」
「いいじゃん、だって事実私の方が……」
「あーもう、お黙りなさいっ!」
「お、おい、喧嘩はやめ……」
「「彩斗くんは黙ってて!」」
「は、はい」
こ、これは、喧嘩する程仲がいいとか言うやつなのか?
うん、きっとそうだ、そうに違いない。
俺の言葉に対して息ぴったりなところを見ると、蟠りは完全に解けたのだろうと安心する事が出来た。
「それじゃ…………私も一緒に着いてってもいい?」
「え? あぁ、別に仕事の邪魔をしないなら良いぞ」
「やったぁ!」
紫恵は心底嬉しそうにする。
そんなに嬉しがることか? とは思ったが、それ以上言うのは嬉しがってる人の前では無粋なことだと思いそれ以上は言わない事にした。
「……命ちゃん」
「なに?」
「ありがとね…………これからも仲良くしよ?」
「……もちろん」
2人は顔を見合せて微笑んだ。




