77話 夢の中へ
「……ふぅ」
配信を終えた俺は慣れない手つきでこの動画のアーカイブを残す設定にする。
こうすることによって、まず間違いなく命に嫌がらせをしているヤツらはみんな俺の動画を、俺の顔を見る事になるだろう。
そうすれば……まずは作戦の一段階目が完了する。
作品の一段階目はそう……俺の顔を認知してもらうことである。
決して承認欲求を満たしたいからとかでは無い。
というか命に嫌がらせされているヤツらに見られたいなんて1ミリも思わない。
だが、これは命に嫌がらせをしているヤツらへの報復の為には非常に重要な事なのである。
俺のこの前手に入れた超能力である『ドリーマー』の使用条件はずばり俺の事を見た事があるやつ、であり、俺がその人を認識しているということでは無い。
つまり、相手が俺の事を見たことがあればそれだけで相手を俺の夢に誘うことが出来るのだ。
それがどうしてわかったのかと言うと、この前『ドリーマー』を使い夢を見た時、そこにいた人達が要である。
教室に行く夢を見ていた時、そこには明らかに俺が知らない人間が何人もいることがわかった。
夜間学校はそこまで人数が居ないにも関わらず、教室の中にはかなりの人数がいたように見える。
つまり、そこには俺が知らない人物も混ざっていたと言っても過言では無いだろう。
俺は学校に長居するタイプでも無いし、まず他の人と会う前にさっさと帰ることにしている、しかも朝は出来るだけ人に合わないようにするために遅めに登校している。
そのためほかのクラスの生徒を見る事もまず無いし、見たことがある生徒だとしてもそこまでの数が居るとは考えにくい。
俺は彼らを知らない。
でも、彼らは俺を知っている。
それだけで、『ドリーマー』は発動条件を満たしてしまうのだ。
俺はかなりのイメチェンを果たしているのもあって少し学校内で話題になっていたみたいだし、俺の事を写真などで見た生徒もあそこに居たに違いない。
夢の中で干渉する。それは単なる妄想や幻想のレベルではない。
現実の精神にも確実に影響を与える、“現実”だ。
それは紫恵のあの反応からも伺う事が出来る。
そう『ドリーマー』は効くのだ。
だからこそ、まずは俺の顔を晒す必要があった。
命に嫌がらせをしているヤツら全員に、嫌でも俺の顔を記憶に焼きつけさせる必要がある。
そのために動画配信を選んだ。やつらが絶対に見るような内容を配信し、アーカイブに残す。
……その動画を見た瞬間から、そいつらは全員“対象”となる。
対象となった奴らは何とか俺の夢の中に引きずり込むことが出来るはずた。
そこまで出来れば後は夢の中で何とかするだけだ。
だが、さっき一段落目が完了したと言ったのには理由がある。
それは、夢の中で特定の人物を探すというのが難しいということだ。
命へ嫌がらせをしているヤツらの顔を知らない以上、何とか夢の中で出会っても本当にそいつが目的のやつなのかが分からない。
もしかしたら俺の事をぐうぜん道端やバイト中に見かけた何も悪くない一般市民かもしれない。
そういう人に当たってしまったらさすがに少し可哀想だ、だが…………。
命はもっと可哀想だ。
誰か間違えてしまったとしても少なくとも俺の夢に出てくるということはその中の誰かがやつらだ。
そうなれば、最悪虱潰しに探していけばいつか必ず見つかるはずだ。
見つけた後はもう楽勝だ。
俺は夢の中では神のような力を得ることが出来る。
そうなると…………もう、復讐は完了したも同然だ。
「…………とりあえず寝よう」
最近はエナドリをあまり飲んでいないからかそこまで夜寝れないなんてことは無い、だが、今日は少し緊張もあってか中々寝付くことが出来なかった。
頭の中に描いた“シナリオ”は完璧だ。
俺が眠りにつけば、そこはもう俺の領域。
『ドリーマー』によって織り上げられた夢の中では、俺は支配者だ。
あとは、そこに奴らを引きずり込み、ひとりずつ確認して処理するだけ。
緊張やらなんやらで目が冴えるが、それでも何とか布団の中に潜り込み眠ろうと尽力する。
北国の寒さはそこにいるものの体力をじわじわと蝕み、やがて眠りに付かせる。
うちは暖房代をケチっているため冬場はまぁまぁ寒くなる。
その中の唯一の暖かさを誇る我がオフトゥンに包まれていると段々と眠気が俺を襲ってきた。
……良かった、ちゃんと眠れそうだ。
俺はオフトゥンに感謝しながらもそっと目を閉じる。
あとちょっと、あとちょっとでちゃんと救ってやる、だから……もうちょっと待っていてくれ。
そして、これが終わったら…………。
俺は色々な考えが頭の中を過ぎりながらも何とか眠りについた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺の意識が夢の中に入ってきたのを感じる。
俺の周りは前回と同じように透明の粒粒で満たされている。
俺は口角を上げた。
決して笑っている訳では無い……いや、楽しみではあるかもしれない。
命に嫌がらせをしていたヤツらに報いを与えることが出来るんだ、楽しみでないとは言えまい。
俺は意気揚々と行動を開始した。




