74話 陰キャは女の子を褒めることは出来ないんね
「紫恵、待て! 一旦待て! こんな所で話す話じゃないだろ!? 一旦教室の外に…………」
「良いから! 今! ここで! 夢みたいに言ってよ!」
「あー、もう、埒が明かないな!」
俺は俺の手を掴んで離さない紫恵を引きずるようにして教室の外に出る。
紫恵はとんでもなく力が強かったが、今では俺の筋力もかなり鍛えられている。
『ボディートレーナー』『成長の恵み』『柔軟の恵み』これらの超能力のおかげで俺の筋トレスピードはとんでもない速度まで加速していた。
しかも『ビューティーコンサルタント』のお陰で筋肉は付きつつもかなりスッキリとした感じの見た目に纏まっているし、その形もかなり良いものとなっている。
つまり、見た目だけでなくちゃんと実用的な筋肉が付いてきているのである。
よって、混乱して力もあまり入れられていたい紫恵を引っ張る程度なら出来るようになっているのだ。
「はぁ、はぁ……ちょっとは落ち着いたか……?」
「うぅ、夢の中の彩斗くんはもっと優しかったのに………」
「ここは夢の世界じゃねぇ! 現実見ろ!」
「うぅぅー!」
いや、唸られましても…………。
「とりあえずさ……一旦褒めてよ、それで何とか我慢するからさ!」
「…………俺にメリットが無さすぎる」
「なんでさ!」
もはやほぼ会話ができなくなってしまった紫恵に困り果てていると、そんな俺に救いの手が差し伸べられる。
「…………根浜さん、諦めなよ」
「っ!? 命ちゃん…………何さ、私は諦めないよ!」
「ふふ、そんなんじゃ彩斗くんに嫌われちゃうんじゃない?」
「そ、そんな事無いはず! ね、だよね、彩斗くん!?」
「え、あ、うん、嫌いじゃない…………というか、その程度じゃそこまで嫌いになったりはしないぞ流石に!」
女性二人で会話しだしたからきっと俺との会話は終わりを迎えたのだろうと思い早々に去ろうとしていた俺にそのキラーパスは受け止めきれず、一瞬変な返答をしてしまいそうになったが、何とかこらえた。
それでもなお命と紫恵の間にはバチバチと火花が散っているように見える。
この2人はなんでこんなに仲が悪いんだ……?
俺の数少ない普通に話せる友達なんだしもうちょっと仲良くして欲しいんだが…………。
「…………お前ら、喧嘩はやめろ、もうちょっと仲良くしろよ?」
俺は思い切ってその核心を突いてみることにした。
正直、聞いても地雷を踏むだけな気もしたけど、このまま放置してもどうせいつか爆発する。
なら、今、俺が火種に手を突っ込んで消火してやるしかないと思ったのだ。
「はぁ!? 別に仲悪くないし!」
「…………私は根浜さんのこと嫌いじゃないよ、ただ…………ちょっと気になることがあるだけ」
紫恵は食ってかかってきたが、命はいつもの落ち着いた様子でさらりとかわしてくる。
だがその“ちょっと気になること”ってのが気になるんですけど!?
「気になることって……?」
「…………ちょっと、ね」
命は俺を一瞬だけ見てから、視線を逸らした。
そして、そのまま淡々と続ける。
「……無理矢理迫ったりさ、そういうの、彩斗くんが困ってるって思わないの? 優しいから言わないだけで……」
「えっ……あ、あれは、ちょっとテンパってただけで……! そもそも彩斗くんがちゃんと聞いてくれないのが悪いんだし!」
「それでも、自分の気持ちだけ押しつけるのって、良くないと思うよ」
珍しく命の声に、少しだけ強さが混じっていた。
紫恵が言い返そうとしたけど、その一言にぐっと言葉を飲み込んで黙ってしまった。
「おいおい、命、俺の事を庇ってくれるのは良いが、ちょっと言い過ぎだぞ」
はい、元々は俺が悪いのでこれ以上紫恵が責められると何だか居た堪れないのです。
俺が注意すると命は驚くほどあっさりと引き下がった。
「うん、確かに言い過ぎだ、ごめんね」
「う、うん、良いよ、元はと言えば私が悪いんだし…………」
いいえ、僕が悪いです。
「……あ、彩斗くんもごめんね、夢での事が嬉しかったからつい現実でも言ってもらいたくなっちゃって…………ごめん、彩斗くんは何にも関係無いのにね…………」
「………………」
あー、もうなんだこれ、罪悪感が酷いぞ!?
俺がもし陽キャならここですかさず気の利いた褒め言葉みたいなのが出てくるんだろうが、生憎俺は生粋の陰キャなのだ、言葉が全く出てこない!
「…………いや、謝るな」
「え?」
「えっと、その、俺もちょっと頑固になってたかもしれない」
俺は無い頭のボキャブラリーから必死に陰キャが女の子に言ってもまだ気持ち悪くなさそうな言葉を選び抜く。
「えっと、その……紫恵は、綺麗だと思う……ぞ」
「………………」
「お、おい、なんか言えよ、結構勇気出したんだが…………」
俺が顔の暑さを感じながらもそれを振り切るために何とか言葉を放っていると、紫恵のかおがみるみるうちに笑顔に染っていく。
「うわーっ! 夢とは違うけど…………彩斗くんが褒めてくれたー!」
「お、おい、声でかいぞ!?」
「うー、ありがと!」
そう言って紫恵は俺に向かって抱きついてくる。
…………それを命は冷ややかな目で見つめるのであった。




