72話 夢の検証
「…………ねぇ、私の傍に居てくれるんじゃ無かったの? 夢から起きるって…………もしかして私の傍から離れるってことじゃないよね?」
「えっ、あっ、いや、そういうことじゃないぞ!?」
命があまりにも悲しそうな表情をするので俺は堪らずそう返した。
「ていうか、起きたら同じ部屋に居るんだからすぐに会えるだろ?」
「……あ、そっかぁ」
俺がそのことに気づかせると、命はにへらぁと笑った。
くっ、この命普段の現実の命よりも更にゆるふわ感が増してなんか可愛いぞ……!?
いや、可愛いのは良い、だがそれ以上に普段はあまり見せないレベルの悲しそうな顔をしてくるのが心に来る!
恐らく命も夢の中だからと包み隠したりせずに自分の感情を表に出しているのだろう。
…………ってことは、つまり普段は悲しいような表情とかを俺に見せないようにしているってことだよな?
やっぱり心配かけるからとかそういったことを考えてしまっているのだろうか?
…………それだったらもっと俺が頼りがいがある人間にならなきゃだな。
とにかく、俺は一旦起きてこの夢の世界から出なければいけない。
……だが、これはどうすれば起きる事が出来るんだ?
そんなことを考えていると、命がふいに視線を落とした。
「……ねぇ、もしこのままずっと夢の中にいられるとしたら……どうする?」
「え?」
「現実には戻らないで、ずっと、私とここにいられるって言ったら……どうする?」
命の声は静かで、どこか冷たいくらいに透き通っていた。
「そりゃ……起きるかな」
「え?」
「だって、ここに居たまんまだったら…………何も解決しないだろ?」
「…………どういう事?」
さっきの悲しそうな顔とは違い、そこには奥から滲み出るようなどす黒い悲しさがあった。
俺はその命を救うべく言葉を紡ぐ。
「だって、ここは現実じゃないだろ? 命に嫌がらせをしてくるやつは現実にいる…………だったらさ、そいつらが何とかならない限り命が本当に安心出来ることは無い……だろ?」
「…………まぁ、そうだね?」
「だからさ、俺に任せてくれよ、起きたら……ちゃんとなんとかするからさ!」
「…………そっかぁ」
命は少し寂しそうな顔をしながら笑った。
「うん、分かった、じゃあ起きよっか!」
「え? 起きようって、俺起き方分からないんだが?」
「いいよ、きっと起きれるよだって…………多分もう朝だからね!」
いやいや、分からないんだが!?
俺がわけもわからずに居ると、命はこちらを向いてニコッと笑った。
その瞬間からだろうか。
俺の視界はどんどんと狭まっていき、聞こえる音にはノイズが走って行く。
「……っ、み、命……」
「あぁ、夢が終わっちゃうね」
「………そうか………」
命はやけに冷静だ、いや、俺がおかしいのかもしれない。
『ドリーマー』を使うことによって夢を操作できるぎ故の現象なのだろう。
消えゆく視界の中で、命が何かを言っているのだけが聞こえてくる。
「ねぇ、彩斗…ん、私、彩斗………ことが…………」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……きて、起きて、彩斗くん、催眠術の結果教えてよー?」
「……んん? え、誰……」
「誰って、私だよ? 命だよ、忘れたの?」
「あぁ、いや、なんで俺の家に……いや、あー、そうか、泊まってたのか」
寝起きのため一瞬意識が混濁しているが、何とか俺はその事実を思い出す。
……うーん、男女が同じ屋根の上で寝たのにも関わらずどっちもぐっすりか……。
まぁ、俺は何か変なことをする気とかでは一切無かったし良いんだけどね!?
なんかちょっとだけ期待してたとか、そういうことはないんだからね!?
「それで、催眠術はどうなったの?」
命がワクワクした様子で聞いてくる。
「あー、えっと俺が今回見せようと思ってたのは……俺が命の夢に出てくるっていう催眠だ。当たったか?」
「え、うん、すごい…………けど、それくらいだったらたまたまでもおかしくないよね? 最近はよく合ってるわけだしさ」
まずは軽いジャブとして俺が出てきた事を確認してみたが、これは当たったみたいだ。
「じゃあ次は…………初め悪夢を見ていたけど、俺のおかげでそれは晴れたな?」
「…………おー、当たってるけど…………え、まさか悪夢を見せたのってもしかして彩斗くんが原因だったりする?」
訝しげな目で俺を見る。
いや、分かんないけど多分違うと思う。
俺が命の所へ行った時にはもう既にそこは悪夢の世界だったし、俺のせいでは無いと思う。
それでもなお命は訝しげな表情を続けるため、俺は慌てて弁明を始める。
「俺はただ、命が悪夢を見ていたらそれを晴らす催眠術をかけただけだ……悪夢を見せようなんてして無いからな、本当に!」
命のじとーっとした視線が痛い。
でも、すぐにその視線はふっと緩んだ。
「ふふっ、冗談だよ。彩斗くんがそんなことするわけないもんね」
「お、おう……おどかすなよ、マジで」
命は小さく笑いながら、俺の方へ少し身を寄せる。
「でも、彩斗くんが来てくれたのは嬉しかったよ……夢の中でも、ちゃんと私を助けてくれたからね………」
「おぉ、それは良かった、夢の中の俺はさぞイケメンだったんだろうな!?」
「んー? いや? そうでも無かったよー?」
いや、お前が俺をあの姿にしたんだろ、と言いたいところだが、夢を操作できることを知られる訳にはいかないので、歯痒い気持ちになりながらも俺は何も言うことが出来なかった。
その後、色々話を聞いていたが、やはり命はあの夢の事を覚えているようだ。
つまり………『ドリーマー』では他人の夢を操作することが出来るのだ。




