52話 理容師さん
というわけで、俺達は今現在紫恵の家へと向かっている訳だが…………その歩き方に問題がある。
女の子が2人いる訳だし、その2人が並んで歩き俺はその後ろにでもついて行けば良かったはずだ、しかし、何故かその歩き方をしようとしても少し経てば2人が俺の両隣に陣取っているのだ。
なんというか、ソ連とナチスドイツに挟まれたポーランドのような気持ちだ…………。
このままでは併合されてしまう、ということで俺は何度も脱出を試みるも、それはどちらかによって阻まれてしまう。
二人いわく、俺の見た目は女の子なんだし、並んで歩いてもさほど違和感は無い、だから大丈夫だ、ということらしい。
確かに絵面だけ見たらJK3人組が仲睦まじく帰宅している様子のようだ。
しかし、その実情は違う。
「おい、ちょっと俺を解放してくれないか?」
俺は一縷の望みをかけて、二人に訴えかける。
「えー? 何言ってんの? いいじゃん、このほうがバランス取れてるし」
「そうそう、並んで歩いた方が会話もしやすいしね」
…………二人はまったく譲る気がなさそうだ。
バランスって何だよ? 俺の自由と尊厳を犠牲にしたバランスなんて、そんなものは釣り合いが取れていない。
「別にさ、そこまで俺と一緒に歩きたいわけじゃないだろ?」
「うーん……どうだろ?」
「さあ?」
二人は示し合わせたかのように首をかしげる。
俺は頭を抱えたくなった。
そんなことをしているうちに、紫恵の家が見えてくる。
そこまで来ると、俺はもう諦めるしかなかった。
結局、抵抗むなしく、俺は二人に挟まれたまま紫恵の家の前まで到達する。
「さ、入ろう入ろう」
「……お邪魔します」
もうこうなったら仕方が無い、できる限りダメージが少ないように振る舞うしかない。
恐らく、紫恵のお父さんも男がいきなり家に来るということはよく思わないはずだ。
しかし、幸いな事に俺の見た目はほとんど女の子、しかも声もそこまで低い訳では無い、こうなればもしかしたら少し高い声を出しながらご飯をいただき、ボロが出ないようにできる限り喋らないようにしていれば多分俺が男の子だということはバレないだろう。
俺の尊厳やらなんやらは粉々に砕かれる訳だが、この際仕方が無い。
「お父さん、居るー?」
紫恵は自分の家だからかなりズカズカと入っていく。
俺と命は一応客人な訳だからそこまでズカズカと入っていく訳にはいかない。
ちゃんと靴を揃えたりし、自分の家ではしないような落ち着いた歩き方で紫恵について行く。
特に俺は女の子っぽさを出すために少し淑やかな感じの歩き方をした。
家に入ると、少し独特なアロマの匂いが漂ってくる、とてもいい匂いだが、なんだかどこかで嗅いだ事があるような…………。
嗅覚っていうのは記憶効率がいいらしいし、多分どこかで嗅いだことのある匂いだと思うんだが…………。
そんなことを考えていたが、その答えはすぐに出る事になる。
紫恵の声に反応して奥から少し高い声が聞こえてくる。
「お、おかえりしーちゃん! 友達連れてくるんだって? ご馳走用意してるよ!」
「分かった、ありがとうね! 今行くから!」
紫恵は俺達には見せないような、少し違う砕け方をした喋り方で話しかけている。
……あれ、お母さんかな?
もしかしたらお父さん今家に居らず、お母さんだけが居るのかもしれない。
どっちにしろ気まずい事には変わりないので女の子の振りは続行するが……少し話が違うことに違和感を覚える。
「あ、ほら、こっちこっち、入ってきてー!」
紫恵がリビングの扉を開け俺達を待っていた。
「お邪魔します」
俺は緊張しながらそう言って部屋に入った。
部屋に入ると、長身の綺麗な女性が俺達のことを出迎えてくれた。
……この人、どこかで見た気が…………。
「あぁ、いらっ……しゃ、い」
その女性は俺達のことを見て固まった。
そして、頭からダラダラと汗を流しだす。
「じゃ、じゃ、私はこのくらいで…………」
女性が奥へと行こうししていると、おもむろに命が口を開いた。
「あ、この人もしかして……理容師さん?」
ん? 理容師さん…………なんか引っかかるぞ?
俺は少し記憶を辿ってみた。
「…………あ、まさか」
俺はこの人に見覚えがあった、それもそのはず、この人は…………俺をこのおとこの娘の姿に変えた張本人であるからだ。
よく考えたらこの場所もあの理容室の近くにあるし、あのアロマの匂い、明らかにあそこの匂いと同じものであった。
「…………まぁまぁ、ちょっとゆっくり話しましょうか?」
俺はにこやかな笑みを浮かべながらその女性に近づいていく。
すると、少し驚いたように紫恵が話し始めた。
「え、2人ともお父さんと知り合いだったの!?」
「…………え?」
「…………お父さん?」
俺と命は目の前の女性を眺める。
どう見ても美人の女の人にしか…………。
そこで俺は思い出す、俺という一例があるという事を。
まさか、この人も…………。
「はい、ごめんなさい、こんな見た目だけど、一応……紫恵の父です」
そう、この人も俺と同じ、おとこの娘だったのだ。




