未来へ進んで
神社わきのフリースクールに珍しく来客があった。
「こんにちは!僕は君たちの所属している学校の保健室の先生です!佐々木と言います。」
現れたのは、前髪を真ん中でわけ、後ろは刈り上げたさっぱりとした髪型で、パリっととしたシャツをスラックスにインした中年の男性だった。真面目そうだが、笑い皴が優しげで人懐っこそうな男性だ。
子供たちは、その男性のほんわかした空気感に、懐かしいような感覚を覚えた。
「皆さん、彼は、私の教え子だった一人なんです。皆さんの進路のいい目安になるかと思い、今日は来ていただきました。」
田中先生がそう言うと、龍姫は田中先生と佐々木を何度も見比べてぶつぶつ言っていた。神子は佐々木を検分するような目で見ている。愛子は佐々木が近所のゴールでレトリーバーに似ていると思いながら見ていた。
「田中先生、今回の子たちも面白いですね。」
佐々木は笑い皺をさらに深くして、くくくと笑った。
「ごめんね、佐々木君。ほら、君たち、あんまりぶしつけな視線を向けないの!」
田中先生の言葉に龍姫が大きい声を出した。
「だって!田中先生って本当にいくつなんですか!?」
田中先生は、とぼけた顔で首をかしげて見せた。
「おや、龍姫さんは僕が老けてるっていうのかな?先生悲しいな。」
佐々木は、泣きまねをしておどけて見せた。
「そういうつもりじゃないんです!」
龍姫はわたわたと両手を振って慌てて見せた。
「まあ、冗談はこれくらいにして、佐々木君、彼女たちに自分のことを話してもらえるかな?」
田中先生がパチンと手を叩くと、佐々木が静かに語り始めた。
僕が小学校に上がったころ、地元の子供たちの間で、秘密基地づくりが流行していた。例にもれず、僕も秘密基地づくりに熱中してね、森の奥によく入り込んでいたんだ。ただ、私有地が多かったからね、子供の秘密基地なんかすぐに壊されたよ。だから、僕は、新しく秘密基地を立てる場所を求めて、山に登ったり、さらに深い森に入り込んだんだ。
地元からは少し遠い山の森の奥に分け入ったとき、洞穴を見つけたんだ。一瞬、熊の住処かとドキッとしたんだけど、よく見ると、人が掘った手掘りの洞穴だった。長い間使われていない様子だったけど、古いナベや焚火の跡があった。後から知ったんだけど、そこは、昔使われていた防空壕だったんだ。
僕は新しい秘密基地になりそうだととても興奮してね、何の躊躇もなく洞穴あの奥へと入っていったんだ。
ずんずん進んでいくと、向こう側が明るくなってきて、洞穴の向こう側に出た。そこは、僕が今まで見ていた地元の景色とあまり変わらないように見えた。まだ、小学校に上がったばかりの子供だったからね、僕は隣町に出たんだと思った。こんな抜け道があったことをさっそく友達に教えようと思って、元の洞穴に戻ろうと思った。だけど、確かにその洞穴から出てきたはずなのに、ほんの少し進んだだけで行き止まりになってしまった。困った僕は、誰かに助けを求めようと思った。さっき、田んぼの先に人の姿があったのを見たからね、迷子になったことを伝えれば、家に帰れると思ったんだ。
そこの人たちに、僕の住所を伝えたんだけど、そんな土地は知らない、本当にそこから来たのか?と言われてしまってね、僕もまだ子供だから自信がなくてね、心細くなってしまったんだ。
ただ、佐々木という苗字は知っているということで、その家に送って行ってもらったんだ。そこの人たちは、車を持っていないというので、僕は、荷車に乗せてもらって、その佐々木宅に連れて行ってもらったんだ。
そこは、僕が知っている僕の家によく似ていたけれど、微妙に違っていた。なんだか古いんだ。
そこで、佐々木宅の主人という人に会ったのだけれど、僕のおじいさんによく似ている知らない大人だった。だから僕は、きっと親戚の人だろうと思った。とりあえず、僕の身元ははっきりしないから、その家で預かられることになった。僕は、その家に暮らしながら、家族を探すことにしたんだ。
二月ほどしたころ、その家に、綺麗な女性が訪ねてきて、僕の身元が分かったから、家に帰したいと言った。僕は、もうその家の人たちに懐いていて、離れがたかったんだけど、そのうちまた会えるって言われて、家に帰ったんだ。
「そういえば、僕、どうやって帰ったか覚えてないんですけど、田中先生覚えてます?」
田中先生は口の前で指を一本立てて「企業秘密です。」と答えた。
佐々木は、また、子供たちのほうを向くと続きを話し始めた。
僕はね、いわゆる神隠し状態だったようなんだ。あの場所は、僕らのご先祖様たちが住んでいる場所、つまりあの世だったようだね。僕は二月もそこで過ごしてしまって、あちらの食べ物も食べてしまっていた。だから、自然と、普通の人には見えないものが見えたり、聴こえたりするようになってしまっていた。今の君たちと同じだね。だから僕は、学校が終わった後、この神社に通って、田中先生に力の閉じ方を教わったんだ。僕にとって、霊力は悪さしかしない、よくないものだったからね。今では、僕は不思議なものを何も見ず、聴かず、感じず、過ごすことができている。
子供たちは、静かに佐々木の話を聞いていた。
「佐々木先生、預かってもらっていた人たちにはまた会えたんですか?」
愛子が、心配そうに尋ねた。
「いや、まだ会えてないね。あんまり早く会えたら、怒られそうだからね。」
佐々木は少し寂しそうに答えた。
「佐々木君、ありがとう。この子たちもいろいろ参考になったと思う。この子たちが学校に行くときは、助けになってあげてね。」
佐々木と田中先生は静かに微笑みあった。
「さ、あとは宿題です!自分の将来について、しっかり考えてきてください!起立!礼!佐々木先生ありがとうございます!」
「「「佐々木先生ありがとうございます!」」」
子供たちは各々自分の将来を考えながら、佐々木の背中を見送った。来た時よりもずっと大きく見えるその背中を。




