雨降って地固まる
ここは、神社横のフリースクール。
ここのところ、ずっと雨が降り続いている。
「今日も午後の訓練しないのかな?」
龍姫が退屈そうに窓の外を眺めて言った。
「雨がやまないと難しいよね、またトランプ大会でもする?」
子供たちは、連日の雨で日課の玉を磨く訓練が中止になり、トランプやウノなどで暇をつぶしていた。
「じゃあ、カルタをしましょう!」
「うひゃああ!」
田中先生が、いつものように気配なく龍姫の横に立っていた。
龍姫は毎回新鮮に驚いているが、愛子と神子は神出鬼没な田中先生に段々慣れ始めていた。
「それって、百人一首ですか?和歌は玉を磨くのに効果が高いって先生も言ってた。」
神子の発言に田中先生は「これです」と幼児向けのひらがなカルタを出してきた。
「別の部屋に狐鉄君を待たせています。今日は彼の勉強に付き合ってもらおうと思いまして。」
三人の子供たちは顔を見合わせたあと元気に「はい!!」と返事をした。
ホールに行くと、緊張した顔の狐鉄が正座の姿勢で、青い顔でうつむいていた。
カルタで遊ぶだけだと思っていた三人はぎょっとした顔で狐鉄と田中先生を見比べた。
「あの、田中先生これは・・・・・・?」
田中先生は困ったように眉毛を動かしてため息をついた。
「狐鉄くんはどうしても勉強に苦手意識があるみたいで、遊ぶって言ったら喜んでついてきたんですけど、カルタのひらがな見たら固まっちゃったんです。」
まるでとんでもない叱られ方をしたような顔の狐鉄に、愛子が駆け寄った。
「大丈夫だよ、一緒に遊ぼ。私、狐鉄と遊びたい。」
「でも・・・・・・。」
狐鉄は自信がないのか、しょんぼりとうつむいたまま、膝の上に乗せたこぶしを震わせている。
人間に擬態しているため、耳は人の耳形に変わっているが、狐耳がしょぼんと垂れているように感じる。
その様子を見て、愛子は田中先生のほうに振り返ると、
「田中先生、カルタ貸してください!」
と言うと、田中先生の返事とほぼ同時くらいにカルタを受け取り、その中から何かを探し始めた。
小さく、あった、とつぶやいて出てきたのは、「あ」だった。
「狐鉄、これは『あ』だよ。愛子の『あ』。私だと思ってこれだけでも覚えて。」
愛子は狐鉄の前にしゃがんで、狐鉄のこぶしをひらくと、カルタの絵札を渡した。
狐鉄は絵札を見つめ何度も「あ、愛子のあ。」とつぶやいた。
次第に、狐鉄の表情が明るくなってきた。
その様子を見ていた、龍姫と神子も、狐鉄の前に駆け寄り、
「これも!龍姫の『た』だよ!」
「神子の『か』。覚えて。」
と愛子の持っていたカルタから該当の絵札を抜き取り、狐鉄に手渡した。
「なんだよ~!急に増えたら忘れるだろ!」
四人はいつも通り仲良くはしゃぎ始めた。
「本当に、子供ってすごいですね。私にはできなかったやり方でした。」
田中先生がほほ笑みながら静かにつぶやいた。
窓の外では雨が上がり、晴れ間から鳥のさえずりが聞こえてきていた。




