序章〜5歳児〜3
「僕はアレン、よろしくね。」
「わたくしはステラ・アストラウトともうします。」
そう挨拶を返すと、私はすぐに壁の華と化すべく壁にもたれました。
すると、アレン様も同じように壁に寄りかかり、近くを通り掛かったメイドさんからグラスを二つ貰うと、一つを私に向けてきました。
「オレンジジュースは嫌い?」
「いえ、ありがとうございます。」
私は軽く会釈しグラスを受け取ると、その場で一口。
生オレンジ100%絞りは香り高く、フレッシュな甘味が口に広がります。
これは中々の一品……。
私が満足しているのを見てか、アレン様も一気に飲み干し、すぐ脇にあったテーブルにコトリとグラスを置いた。
「うん、やっぱり美味しい。」
しかし、何故ここに居るのでしょう、推定10歳の彼と5歳児である私とではかなり身長に差があり、かつ女である私。
普通なら同じ歳頃の男の子同士で遊んだりするでしょうに……。
「口に出てるよ。」
「えっ!」
知らず知らず口に出していたらしいです。
「そうだね、僕が行ってもつまらないからかな、そしたら君がいたから近いもの同士話し相手になって貰えないかなって。」
「なるほど……しかしわたしは5さいですよ?」
「ええっ!?」
素っ頓狂な声を上げたアレン様は大きくのけ反り、その身体全体で驚きを示してくれました。
「?」
「すまない、君があまりにも……。」
「……???」
ほう、あれですか5歳児とは思えない程老け顔だと、戦争ですね?
「いやいやいや、そう言う意味じゃないんだ。」
「では、どういういみでございますか?」
「えっとだね……。」
しどろもどろになる少年を私は半眼で睨みながらオレンジジュースを一口。
「だって、大人びて見えたからであって、決して老けているとかは全然思ってないから!」
「そーでございますか、ではわたくしはこれでしつれいいたしますわ。」
「あっ、ちょ」
私は必死の呼び止めに目もくれず、お父様とお母様の下に歩いて行きます。
その時でした。
―アストラウト侯爵の御息女様よ―
―まあ、不憫ね……。―
―御両親はあんなに美男美女なのに、その娘はあんなに地味で……―
―拾い子という噂を聞きましてよ……。―
―よくもまあこのお茶会に出席なされようと……―
それは私の足を止めるには十分すぎた陰口でした。
確かに私の容姿は両親の様に美しくない。
でも、それで大好きな両親が不憫と言われるのは悲しくて、悔しかった。
でも、泣きたくない。
泣いたら、負けてしまう気がして。
ざわついた心を沈めてから、私は両親と合流し、疲れたからとちょっとだけワガママを言ってその場を後にしました。
私が表舞台に出てしまうと、大好きなお母様やお父様が変に言われるのは嫌なので、私は、この時を最後に前に出るのはやめようと誓いました。