41、敵の行方
さて、翌日朝一番にエルフの隠れ里を出た。
俺たちが里の魔法門から出てきた瞬間俺の目に映ってきたものは……
「ん~……」
ロボに背もたれ寝ているハルカの姿だった。
「やべ……ハルカのこと忘れてた……」
「わ、私も……」
「い、急いでたしね……」
「しかし悪いことをしてしまいましたね……」
……しかし、ロボがすっかり大人しくなってるな。どういう風の吹き回しだ?
その後ハルカを起こし、そのハルカから説教を食らったのはさておき、瞬間移動で街の近くまで移動した。
ロボは置いてきたが、アイツは元々森の住人だし問題はなかろう。ルル達が事の顛末を説明してくれたのもありがたかった。
「そういえばハルカ、どうやってロボを大人しくさせたんだ? 人間を敵視してるみたいだったけど」
「うーん……分からない。あの後しばらくしたら急に大人しくなってくれたんだ」
「そりゃまた……おかしな話だな。やっぱりハルカには何かあるのかもな……」
街に入り、俺たちはすぐにハンターギルドに向かった。勿論、ガリウスに会うためである。
まだルル達を嫌悪してるのか、それとも俺たちが物珍しいのか、ギルドの扉を開けた瞬間不躾にこちらをジロジロ見てくるハンター連中を無視して、俺達は受付嬢のもとへ近づいた。
「すみません、ガリウス……ギルドマスターはいますか?」
「すみません、ギルマスは今朝早くにどこかに出かけてしまって……
もし何か御用でしたら、私からお伝えしますが……」
「ああいえ、お気遣いなく」
……チッ、入れ違いになったか。まあいい、まだ今日は始まったばかりだ。
「ところで、シャルロット様」
一旦ギルドを出た俺に、デュークが話しかけてくる。
「その、ガリウスとやらを捜索する意味はあるので?」
「……? そりゃそうだ、ヤツは敵の一部だ。ガリウスから芋づる式に組織を潰していかにゃあ……」
「ああいえ、そうではなく。アムゼンを探して殺せば、それでシャルロット様の目的……亜人族への感情統制の解消は達成できますが」
……確かに、一理あるか。
「それはそうだが……そういう奴らを放置しとくと拡大するかもしれんからな」
「クク、つまりその人間達も殺せと」
「……いやぁ、そこまでは。まあ、そいつは最後の手段だ。周囲への被害が出るようだったら殺しても構わない」
「ふむ……お優しいですね? 主に文句をつける訳ではありませんが、それでは足元を掬われますよ?」
優しいか……? 結構厳しめに言ったつもりなんだけどな……
「……とは言うものの、何の手掛かりもないからな……ガリウスを待つか?」
「それが良さそうね……時間はかかっちゃうけど、その方が確実」
「あの……アムゼンの居場所ならば既に分かっているのですが、そちらを優先させなくてもよろしいのでしょうか」
「それが分かってんなら先に言ってくれ!!」
悪魔と人間では感覚が違うのだろうか……有能だけど、若干天然入ってるな。悪い方向で。
「クク、では先にアムゼンを殺すというプランでよろしいので?」
「ああ……というかお前、一応同じ悪魔だろ。躊躇とかないの?」
「いえ、全く。昔はよく同族狩りもしてましたし、雑魚悪魔一匹潰したところで何の感情も湧きませんよ。シャルロット様……というか人間も、羽虫を潰すのに力も感情も費やさないでしょう?」
「そんなもんか……やっぱりちょっと感覚ずれてるな。仕方ないかもしれんけど」
「あの、デューク……さん?」
「クク、デュークで構いませんよ」
ルルが、俺とデュークの会話に割り込んできた。まだデュークにビビってるみたいだな。
「その、アムゼンって悪魔から、敵の正体も掴めないかな」
「ふむ……不可能ではありませんね。私が少し脅せば死ぬ前にベラベラ喋ってくれる見込みアリです」
「悪魔を脅すって……」
改めて俺、ヤバいの召喚しちまったな。悪魔がビビる悪魔って……
「で、アムゼンはどこに?」
「そうですねぇ……運のいいことにこの街に居ますね。ここから北東に……教会がありますね?」
「え、ええ。確かにある。まさかそこに?」
「はい。その地下ですかね。そこにヤツの気配を感じます」
「そんなことまで分かんのか……お前凄いな」
「クク、勿体ないお言葉です!」
……芝居がかってはいるが、本心ではあるみたいだ。
「しかし……教会に悪魔とは。一番縁がなさそうなんだけど」
「ええ、そうですねぇ……その点についてもアムゼンには灸をすえねば」
「許してやれよ……てか、やっぱり悪魔は神と敵対しているとかそんなんか?」
「まあ目の敵程度には。実際我々では、神には勝てないのですがね。単純な力で勝ろうとも、奴には権能がありますので。私の場合それを破り傷をつける程度は可能ですが、勝てはしません」
「経験者は語る……ってことでしょうか。神話と全く同じ話をしてますよ……恐ろしい」
「とにかく、面と向かって対立はしていないのです。
……が、その神を信仰する無力な人間に従う愚か者は我が同族には要らぬのですよ」
さて、教会の前に到着した。
さすがに、金がかけられている。石造りの立派な建物だ。
「しかし……どう入れてもらう」
「多分あたし達……亜人族は入れないよ。ここからはシャルに任せないと」
「そうですね……教会の人間とて差別がないわけではないでしょう」
「まあ、『今回の関係者』はガリウスのように差別意識もないのかもしれないけど」
とにかく、入ってみることにした。
教会の中に入るのは、俺とデューク。ガチガチの戦闘員だ。
一応ティアも俺の収納魔法に剣の姿で収まっているが、コイツは動かないだろう。
教会に入るとすぐに目についたのは、厳かな雰囲気の薄暗い空間と、精巧で美麗な女神を模したと思われる石像だった。
「……建築技術は見事なもんだな」
「シャルロット様も変わってらっしゃる。教会に入った第一印象がそれは普通じゃないですよ」
「お前に普通を説かれるとはなぁ」
「……おや、本日は何用ですかな、お嬢さん」
俺が教会内を見ていると、見知らぬ人物が話しかけてきた。
白い神官服に身を包んだ、聖職者と思われる男だ。
「あーいえ、その……」
「クク、私たちはこの教会の地下に用事があるのですよ。案内をしなさい」
「あっおい、もうちょっとオブラートに包め!!」
「地下……ですか? いったい何の御用でしょう」
聖職者の男は、心底不思議そうに聞いてくる。警戒はされていないようだし、この人は関係なさそうだな……
「いえ、教会の地下に何者かがコソコソと侵入したという噂を聞きまして。それを調べに」
「なんと……それは事実ですか? 別に侵入禁止というわけでもありませんが、コソコソとですか……
調査していただけるのでしたら、ありがたい。こちらへ。ご案内いたします」
「……クク、嘘がお上手ですね? お見事でした」
「バカにしてんのか……お前は直球過ぎんだよ。俺はお前のフォローしたの」
聖職者の男について行きながら、俺たちは小声で話し合った。
そして礼拝堂の裏の薄暗い階段を下り、俺たちは割とあっさり教会地下への侵入に成功したのであった___




