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経緯通(いきさつストリート)  作者: さかがみ そぼろ
12/25

いきさつストリート#12


◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 鷲追(わしおい)「しっかしゴミ、ってのはどうにかなんねぇモンなのかな?」

 

 勇悟(ゆうご)「まあな。クズってのは何処に行こうが居るモンだ。」

 

 鷲追「いやそのゴミじゃなくて。パンとか買うと袋がゴミになるだろ?そのゴミだよ。」

 

 勇悟「ああ、ダイレクトにそういう話か。今更どうした?手づかみじゃ手も汚れるし仕方ねぇだろ。ゴミとは言え必要だからあるんだろうよ。」

 

 鷲追「オレとしてはパンさえ食えりゃ袋なんざ別になくたっていいんだよ。イチイチ食った後に袋を捨てるのが不思議に思ってよ。ゴミってのは捨てる為、その為だけに生まれてきた運命なのかね?ってな。」

 

 勇悟「柄にもなく、そんな事を考えたってどうにもなんねぇだろうよ。しかしお前がそういう事を言い出すとはな。敢渡(かんと)の受け売りか?」

 

 鷲追「まあアイツの影響も少なからずあるだろうがな。本当なら無くても構わない。しかしあったほうが便利だ。だが用さえ済めばお払い箱。なんとも自己中なモンだな、って思ってよ。」

 

 勇悟「まあな。でもそれパンの袋に限った事でもねぇな。世の中の大半のモンがソイツに該当しそうだよな。」

 

 鷲追「ピザ屋の宅配だってそうだろうよ?極論中身のピザさえ食えりゃいいんだが、実際には注文受けるヤツが居て作る人が居て運ぶ人が居てようやく自分の手元に届く訳だ。ピザ本体だけ自分チに飛んでくりゃそれに越した事ぁないが、そういう訳にもいかねぇんだよな。」

 

 勇悟「オレも小学生くらいの時にそういう事を考えた覚えがあるな。しかしそういった無駄があるからこそ、それが仕事にもなってんだろよ。」

 

 鷲追「お前の小学生当時の頭脳しかなくて悪かったな。しかし何とも因果な話だよな。まだ食器なんかは洗って使い回しが出来るからマシなんだろうけどな。箱だとか袋だとか容れ物は用済みになりゃゴミ箱行きだ。とって置いてもそのほとんどは使い道がねぇ。つまり最初から捨てられる運命にあるのにせっせと作られてる、って事だ。」

 

 勇悟「中身の品物の説明書きだってじかに書けねぇモンだって無数にあるだろうよ。飲み物に文字が書ける訳でもねぇ。缶ジュースだって中身のジュースさえ飲んじまえば缶は捨てるだけだよ。缶はオノレの使命を充分に果たしたんだよ。」

 

 鷲追「そう考えると仕事、ってのはいったい何なんだろうな?極論メシだって食った後は汚ねぇ話だがトイレ行きだろ?栄養だけ摂れりゃいいだけの話なのに最終的にはそういう事だろ?レストランのシェフや寿司屋の板前だってパッと見、気取っちゃあいるが、結果的に見りゃ人間を通してクソ作ってるみてぇな気がしてきてな。」

 

 勇悟「ははははは。あんまりオレを笑わせんじゃねぇよ。でもその考え方は当たってるな。実際にはウ○コになるまでのその過程が重要なんだろうけどな。不味(マズ)いモンだったら別段無理して食わねぇだろ?」

 

 鷲追「人が最低限生き延びるのに必要なモノ、って考えると無くても構わないモン、ってのは無数にあるんだよな。オレ達ゃよくよくまわりを見渡しゃそのゴミに囲まれて生きてるんだろうさ。そのオレ達もゴミとあんまり大差なかったりしてな。」

 

 勇悟「ゴミがゴミを作っている、それが世の中の縮図であり真理、って事か?服だっていっぺんに何着も着れねぇしな。でも1着しかなきゃ洗濯する時不便だろうし場所さえありゃ何着かあったほうが困らねぇだろ。必要っちゃ必要なんだろうよ。」

 

 鷲追「ゴミあってこその人間らしさか。その点イヌや猫だのはお気楽なモンだよな。わざわざゴミ作る必要すらねぇ。ま、作りたくても作れねぇんだろうけどな。」

 

 勇悟「ひたすらゴミを作り続けるからこそ人間か。お前もたまには的を射た事を言うな。確かにゴミを出さなきゃその辺のどうぶつと何ら違いはねぇだろうからな。」

 

 鷲追「人間そのもの自体がゴミを生み出す為に世に放たれたんだろうよ。作っては壊れるまで使って捨て、また作ってはボロボロになるまで使う。自分の身体も年とって役割を終えてゴミ同然になるんだ。オレ達ゃ生まれながらに最初からゴミになるべくして生まれてきたのさ。」

 

 勇悟「何とも穿ったものの見方だよな。で、結局はそのゴミになって世の中のお払い箱になるまでのその過程が重要なんだろうさ。誰だって率先して好き好んで不味いメシなんざ食いたがらないモンなんだろうからな。ゴミで大いに結構じゃねぇか。だったらひと際輝くゴミにでもなりゃいいだけだ。」

 

 鷲追「最期の最期でゴミじゃダメだろゴミじゃ。ひと際輝くゴミ!ドブネズミみたいに、美しく在りたい、ってか?」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 風呂板(ふろいた)「人は何故いづれ死ぬのに、死ぬまで生きねばならないのですかね?」

 

 無頼婆月(ぶらいばつき)「おやおや、珍しいね。先生ともあろうお方がこんなインチキくさい占い師にものを聞くなんてさ。さては何かあったね?」

 

 風呂板「健康を気にする、という事は、まだまだ長生きしたい、しかしそんなに生きて何になるのか?末期ガンの患者があれもしたかった、これもまだ途中だ、まだやり残した事がいっぱいある。そういったいろんな人の声を聞いてる内に、人とはいったい何なのか?最近そういう事ばかり考えさせられてしまいましてね。」

 

 無頼婆月「やれやれ。すっかり参っちゃってる御様子だわね。アンタも因果な仕事してるからねぇ。無理もない、って言えばそれまでなんだろうけどさ。」

 

 風呂板「つい先日、その道では有名な心理学の教授がウチの病院で亡くなりましてね。適切な治療を施せば助かる見込みは充分にあった。しかしその教授は薬剤の投与はおろか他のどんな治療も拒否したんですよ。自分の天命をねじ曲げてまで執着するほどの人生でもない、病に倒れるならばそれが自分に与えられた運命なのだろう、そう言って入院こそしてましたけど頑なに診察を拒否し続けまして、結局は還らぬ人となってしまいました。」

 

 無頼婆月「ふぅん。変わり者だねぇ。しかし気持ちは分かるよ。多少長生きしたって出来る事なんざたかが知れてるからねぇ。人である事を見限って次の未来にでも託したんじゃないのかい?スピリチュアルだとか宗教だとかに傾倒した人によくある考え方さね。だからって現世に絶望して自分に幻滅して自殺するのはあんまり褒められたモンじゃないけどねぇ。」

 

 風呂板「その人はいっぱい著書を発行してましてね。私も興味があってその何冊かを読んでみたんですけど、今にして思えばその著書がそのまま遺書みたいな感じ、って言うんですかね?現世でやるべき事、出来る事はほとんどやった、他に興味がある事は自分がもっと若くなければ成し遂げられない、自分は年を取り過ぎた、物語の続きは自分以外の誰かが引き継いで記してくれるだろう、後悔というよりは運命とは人生とはたった一本の道しか進めない、欲張った考えなど認められない、そんな感じの内容でしたかね?それを見て私もいろいろ考えさせられてしまいましてね。」

 

 無頼婆月「なるほどねぇ。遺すべき言葉は余す事なく言い残して世を去ったのなら、その人は自分の人生を全うした、と言えなくもないからねぇ。それで人はいづれ死ぬ。だのに何故生きていかなきゃなんないのか?そんな疑問を持つようになった、と?」

 

 風呂板「ま、その人だけじゃないんですけどね。中には70~80才を越えてもまだ死にたくない、生きていたい、というお年寄りも居ます事ですし、私も含めて人とは何ゆえ生きるのか?という根元的な課題に真剣に取り組もうと思いましてね。」

 

 無頼婆月「で、結局は分からず仕舞いで占い師の御告げに頼ろう、ってかい?典型的なミイラ取りがミイラになる、って奴だぁね。書物に感化されるって年でもないだろうに。」

 

 風呂板「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。ニーチェの遺した名言ですけどね。人は無用の知識を得れば得るほど余計な事をついつい考えてしまう、というのをつくづく思い知らされましてね。」

 

 無頼婆月「アルフレッド・ヒッチコックの『知りすぎていた男』って映画を見た事あるかい?いらない事に首を突っ込み過ぎてうっかり秘密を知っちゃったお陰で暗殺されそうになるハメに陥る事があるのが人生ってモンさね。とりあえずは死んでないからそんな疑問も持てる、それが生きてる理由にゃなんないのかい?」

 

 風呂板「IF、もしも、の話ってあるじゃないですか?私だって医者をしてなかったら何をしていたのか想像すらつきませんし、貴女だって占い師以外の人生って他に何か想像がつきます?私もその亡くなった心理学の先生の気持ちが良く分かるのですよ。しかし人生をやり直すには若返りの秘薬でも発明されない限り不可能ですし。」

 

 無頼婆月「アタシャもし占い師をやってなくても如何わしい立場である事には何の変わりもないねぇ。それで結局、何を占って欲しいのさ?単なる人生相談かい?それともただの世間話でもしに来たのかい?」

 

 風呂板「そうですね。貴女はそれを生業に生きている立場の人なんでしたよね。占って欲しいのは私が今まで通り医者を続けるべきなのか、それとも廃院して今からでも違う人生を送るべきなのか、私が医者をヤメてしまえば村には誰も他の先生など来てはくれないでしょう。不便でしょうが私が居なくなれば病気や怪我人は街の大きな病院に行くしかなくなる。本来なら占い師でなく私が街の精神科医に通院すべきなのでしょうが、私自身がそういった患者の面倒を見る立場にいるのも分かってます。過労気味なのも充分承知してましてね。早い話が休みをもらいたいのですよ。しかし開業医なので休日申請するのは私が私自身に対してでして。これなら雇われの身であったほうがどれほどマシだった事か。」

 

 無頼婆月「使命感が強すぎなんだろうさね。クソ真面目で職務熱心過ぎるのも極端な話、悪癖以外の何物でもないのさ。こんなのは占うまでもない、1週間なり1ヶ月なり勝手に休んじまえばいいのさ。ちょっとでも休んだら損なわれるような社会的信用なんだったら後腐れも何もなくすっぱり辞めちまっていつまでもしがみついてないで旅にでも出りゃいいのさ。でもアタシの個人的な意見を述べさせてもらえりゃ、村人の面倒を一手に引き受けてたアンタがそんなに思い詰めてたら逆に心配されるってモンさね。後継ぎだって志願してくれる人だって来てくれるかも知れないし、どんな医者もあんな村にゃ来てくれない、って決めつける謂れもないモンさね。」

 

 風呂板「ありがとうございました。やはり私は医者以外の人生なんて有り得ないんですね。これもまた運命か。人とは在るべくして在り、生きるべくして生き、死ぬべくして死ぬ宿命(さだめ)にある、と。灯台もと暗し、あまりに多くの知識を詰め込み過ぎるとこんな簡単な答えすら容易く見失なってしまう、もっとシンプルでいいんですよね?何故こんな単純な事すら私は戸惑っていたのか?私の使命は自分が死を迎えるその時まで人を治し続ける事、その能力が自分にはあるのですからね。居なくなったらなったでその時は誰かがその役割を担う、人生とはそんなものですよね?」

 

 無頼婆月「ま、アンタの身体はアンタのモンだ。本当なら好きにすりゃいいのさ。居場所があるならそりゃ贅沢な悩みなんだろうし、なきゃ他に作ればいいだけの話さね。それで占い料は払ってもらえるんだろうね?」

 

 風呂板「ははは。ちゃっかりしてますね。勿論払いますよ。貴女がさっき言ってた通り、誰かに愚痴を聞いてもらいたかっただけなのかも知れませんし、そのお礼ですよね?胸につっかえてた(しこり)が取れただけでもここに来た甲斐はありました。」

 

 無頼婆月「そいつは何よりさね。アタシもいい勉強になった事だしお互い様ってこったね。こんな時フランス語で何て言ったかねぇ?年を取ると咄嗟に思い出せなくて嫌んなるねぇ。」

 

 風呂板「C'est la vie! 人生、なるようにしかならない、ですね。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 偉影逸(いえいいつ)「木もれ日が射す森に、ひとり(たたず)んでいた。来た道を振り返ると、そこには多くの出逢いと別れがあった。出逢った人の数だけ歩みを進め、更に新たな出逢いを与えんと、木もれ日はなおも進むべき道なき道を照らし続ける。まるで(いざな)われる運命でもあるかのように。」

 

 風子(ふうこ)「また始まったわ。詩人はすぐに自分の世界に入り込んじゃうんだから。で、こんな場所にあたしを連れて来てどうしようと言うの?」

 

 偉影逸「たまには森林浴も良いじゃないか。時には殺伐とした世俗を離れて束の間の息抜きも人には必要なのさ。森から発せられるフィトンチッドには沈静効果もあるものさ。」

 

 風子「まだそんな年齢でもないでしょ?ったく酔狂なんだから。虫除けスプレーくらい買っておくんだったわ。現実はファンタジーの世界のようには行かないのよ?」

 

 偉影逸「フフフ。現実世界も意外とファンタジーに満ち溢れているものだよ。さ、着いたよ。君に見せたかったのはこれだ。」

 

 風子「わぁ………凄い滝ね。轟音が全身にまで響くわ。貴方も変な隠れスポット知ってるのね。滝に何の思い入れがあるのかは知らないけど。」

 

 偉影逸「山頂の雪融け水が川を洗い流すように勢いよく下流へと流れ込む。長き冬を越え、そよ風は束の間の春を歌う。」

 

 風子「あんまり居ないタイプよね貴方って。人に聞かれると恥ずかしいから自分の世界に入り込むのは誰も見てない処でやってね。」

 

 偉影逸「ははは。でも君に見せたかったのはこれだけじゃないんだ。あ、どうやら来たようだよ『彼』が。」

 

 風子「!?な、何あれ?犬、にしてはちょっと大き過ぎない?脚もスラッとして凄い長いし、まさか………狼なの!?」

 

 偉影逸「しっ!あまり音を立てないようにね。私が彼を見つけたのは本当に偶然なんだ。私の後ろから絶対に離れないように。」

 

 風子「う、うん。分かったわ。でもあたしを騙してこんな場所へ連れて来たの?無事に戻ったら八つ裂き程度じゃ許してあげないわよ?」

 

 偉影逸「フフフ。心配は要らないさ。しかし彼は誰かがこどもの個体を密輸入してこっそり飼育していたんだろうが、いよいよ面倒見切れなくなって山へと逃がしたんだろう。あれはタテガミオオカミと言って絶滅危惧種の1頭なんだ。私が彼をここで見つけたのは本当に偶然でしかなく、おそらく彼はここにただひとり、伴侶に出逢える事もなくいづれその生涯を終える。」

 

 風子「あ、何処行く気よ!?まさか………あのオオカミに近寄る気?正気なの!?」

 

 偉影逸「ここからは足場が悪い。君は無理せずここに居てくれ。なぁに、すぐに戻ってくるさ。」

 

 

 

 

 

 

 風子「あ、ああ、もうあんな処に。随分身軽だったのねあの人。それにしても凄い美しい姿のオオカミよね。ん?あのオオカミ全然逃げないわね?警戒心がないのかしら?普通、人が不用意に近寄ったら襲いかかるか逃げるかするわよね?」

 

 風子「!?オオカミに近づいても全然逃げてったりしないわ?それどころかまるで仲間とでもじゃれ合うみたいに(なつ)いてる?あ!あの人が廻るとその後をあのオオカミもまるでダンスでも踊るように一緒になって廻ってるわ!?あ、あたしいったい何を魅せられてるの?これ夢?あたし夢でも魅せられてるのかしら???」

 

 風子「ん?何かあのオオカミに説明してるみたいだわね?あの人オオカミと会話出来るのかしら?今までずっと一緒に居るけど何者なのあの人???あ、あのオオカミが何処かへ行っちゃったわ。」

 

 風子「………何なの?いったい何だったの?今のひと幕は???」

 

 

 

 

 

 

 偉影逸「やあ、ただいま。」

 

 風子「何?貴方、あのオオカミとお友達だったの???」

 

 偉影逸「まさか。前に1度ここで偶然に見掛けただけさ。その時彼も私のほうを黙ってじっと見つめていた。どうやら私の事を彼も覚えていてくれたようだったからつい嬉しくてね。でも彼も私も何処か相通ずる共通の何かがあったんだろう。お互いに打ち解けるには時間なんて無意味なものさ。」

 

 風子「いやいやいや、そういう問題かしら?でもつくづく貴方って不思議な人よね?帰ったらじっくり説明してもらわなきゃだわ。」

 

 偉影逸「ははは。でも彼もこの山でたったひとり逞しく苦労しながら生きてきたようだよ。棲み家に案内されそうになったけど丁重にお断りしといたさ。何故なら君を待たせて居たからね。名残惜しいがまたここへ来ると約束して私も退散したのさ。」

 

 風子「やっぱり!何時からオオカミ語を話せるようになったのかしら?本当に人間なの貴方!?」

 

 偉影逸「まさか。オオカミ語なんて話せる訳がないじゃないか。ただなんとなく分かるだけさ。以心伝心、ってヤツかな?」

 

 風子「犬だったらまだ分かるけど、それまで面識すらあってないようなオオカミと意思の疎通が出来る人間なんて後にも先にも聞いた事ないわ。前からずっと思ってたけどやっぱり変な人よね貴方って?どう考えたってオカシイにも程があるわ。」

 

 偉影逸「さて、帰ろうか。願わくば誰にも見つからず、その天命を全う出来ますように。狼は狼の、人の子には人の子のそれぞれが待ち受ける運命に祝福の木もれ日が射しますように。」

 

 風子「上手くまとめたようだけど、貴方が何者なのか余計に分からなくなったわ。後でじっくりと説明してもらうからそのつもりで居てよね。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 勇悟(ゆうご)「んで、誰にやられたんだよ?」

 

 鷲追(わしおい)「さあな。でもオレも今まで散々悪い事をしてきたからなぁ。当然の報い、って言っちまえばそれも納得だろうさ。」

 

 勇悟「報い、ったってお前、じかに本人じゃなく飼ってる犬には何の罪も関わりもねぇだろうよ?それにしてもヒデェ事しやがるな。見つけたら同じ目に遭わしてやりたいくらいだ。」

 

 鷲追「ま、死んじまったモンは仕方ねぇだろうよ。にしても嫌がらせにしちゃ度が過ぎてやがるよな。こういう馬鹿はいつの時代にも居るモンなんだな。」

 

 勇悟「お前も良く耐えてるな。岩野の馬鹿だったら自分の後先なんて考えねぇで殺戮マシーンと化してるトコロだ。警察には伝えたのか?」

 

 鷲追「いいや、まだだ。警察、っても記録するだけで殺られたのが人間じゃねぇなら単なる相談相手にしかならねぇからな。実は犯人の目星もついてはいるんだが、オレも昔はヤツにいろいろヒドイ事をしたからなぁ。それで考え込んでいたトコロさ。」

 

 勇悟「報復にしちゃこれはやり過ぎだろうよ。どんだけ恨まれてんだよお前?んで目星がついてる犯人って誰だよ?」

 

 鷲追「オメエは違う学校だったから知らねぇだろうが、やり口が陰湿で端から見てて反吐が出そうなヤツ、ってのは何処行っても居るモンなんだよ。見ててあんまりにも胸クソが悪りぃモンだったから陰ながらソイツを死なねぇ程度に徹底的にシメた事が2~3回あってな。ソイツが数週間前に勤めてた会社クビになって戻って来た、とか言う話を人づてに聞いてな。おそらくそのうっぷん晴らしも兼ねての犯行だろうさ。人の性格、性分ってものはなかなか変わらねえモンなんだな。」

 

 勇悟「いるな。そういう奴は。でもこりゃ立派な刑事事件だ。一応は被害届け出しといたほうがいいんじゃねえのか?」

 

 鷲追「心配はいらねえさ。これだってヤツがやった、って証拠は今のところ何処にもねぇだろ?つまり誰がやった、って証拠さえ見つからなきゃ極論、何をやったって構いやしねえんだろ?」

 

 勇悟「お前、何する気だよ!?妙な事を考えてるんじゃねぇだろうな?」

 

 鷲追「心配すんな。オレだってそこまで馬鹿じゃねえさ。今は本当に便利な世の中になったってモンだ。判断は道徳心に富んだ世の中の皆さんに決めてもらえばいいのさ。」

 

 勇悟「ああ、そういう事か。ちゃっかりしてんな。」

 

 鷲追「はっはは。オレもお前等と出会ってなきゃ、岩野の馬鹿みたいに感情だけでやらかしてたかも知れねえな。にしても平気でこんな真似出来る神経してる、って言うヤツの気心が知れねえよ。いったい何をどうすりゃあんな風になっちまうのかねぇ?」

 

 勇悟「屠殺業に従事してるお前がその台詞言うと全然説得力ねぇのな?でもま、ペットと家畜の違いが分からねえようになったら人間オシマイなのかもな。その内ペットと人間の区別すらつかなくなったりしてな。いいや、もう手遅れか。だからこんな事を平気でするんだろうからな。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



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