64 ローンウルフ4-3
『戦士ギルド』とは、戦士が所属する職業団体のようなもの。
ピンキリが存在し、会費が必要なところ、不要なところ、加盟には試験が必要なところ、不要なところ、様々ある。
所属するメリットとしては、ギルド側が入手した情報の共有、ランク付け制度など。
特にランクは腕前と名声の証明のようなものなので、高ランクであればそれだけで因縁を付けられにくくなり、また冒険者パーティからも引っ張りだこというわけだ。
ゴルドウルフはオーナーと店の主人、ふたりを見回しながら言った。
「戦士ギルドがあり、この店の近くの十字路を通っているといのは、またとない集客のチャンスといえるでしょう。彼らを招き入れることができたら、この店はさらに繁盛します」
『ビサビ』の主人は、なるほど、と唸った。
しかし、はた思い直し、
「いや、でもどうやって客の足を向けさせるんだ? 十字路からこの店までは、だいぶ離れているぞ」
「その点でしたら問題ありません。この十字路で看板を持って、ビラくばりをすればいいんです。あとはこの店の外観を……」
「戦士向けに変えればいいんだな!? よぉし、さっそく高い剣をバンバン仕入れて……!」
「待って下さい。お店を『戦士向け』にするのはよいのですが、ここで結論を出してはいけません」
「なんだって!? 他にまだなにかあるのか!?」
「ええ。ギルドという施設の特性を、よく思いだしてください」
たいていの冒険者というのは、自分の職種のギルドに所属している。
しかし、いちどギルドに登録したあとは、ギルドの施設自体には滅多に出向く用事はない。
「うん? だから何だというんだ?」
「戦士たちも滅多にギルドに行かないと仮定すると、十字を通っている戦士たちは、毎日違う面々ということになります」
「ということは、ここいらに来るのは一度きりってことか! そんなのを客として招いても、しょうがねぇじゃねぇか!」
「そうです。一度きりの相手です。でも、そこであきらめてはいけません。もっともっと分析するんです」
ゴルドウルフは店の主人とオーナー、ふたりを見回しながら続ける。
特にオーナーには、『ココ重要』と言わんばかりに。
「こう考えてみてください。戦士たちはいちどギルドに登録したあとは、滅多にギルドには訪れない。でも、ギルドに登録している人間が、必ずいちどはギルドを訪れる瞬間があります。それはギルドへの、初回登録時です」
「そりゃそうだろうなぁ、で、それで登録したあとは来なくなる、と。やっぱり一度きりの客ってことじゃねぇか」
「確かにそうなのですが、ここにひとつ大きなポイントがあるんです。『ギルドの初回登録時』ということは、その人は戦士として、どんな状態ですか?」
するとオーナーが、ハッと声をあげた。
「ギルドに登録したばかりだから、最低ランクの戦士……! つまり、駆け出しということになります!」
「そうです。そこに品揃えのポイントがあります。……想像してみてください」
ローンウルフの言葉に、主人とオーナーの頭の中に、とあるイメージが浮かびあがってくる。
「……戦士になろうと決意した若者がいます。
彼はまず、『戦士ギルド』に向かい、登録をすませます。
これで立場上は、戦士となりました。
意気揚々と戦士ギルドを出た彼はすっかり戦士気分でしょう。
しかし、見た目が変わらなければしまりませんよね、となれば、次に向かうのは……」
「「ぼ……冒険者の店っ!」」
「そうです。
ギルドを出てしばらく歩いていると、ビラくばりをしています。
受け取ったらそのビラには、『初心者の戦士のための店』とあったら……
その若者は、どうすると思いますか?」
「「そ……その店に行くっ!」」
「そうです。
早く戦士になりたくて、足早に向かったのは、このお店です。
そしてこの店が、彼が期待どおりの品揃えをしていたとします。
さらに店員も、これから戦士になりたての彼に対し、親身になって装備選びを手伝ってあげたら……
彼は、どうなると思いますか?」
「「こ……この店の、常連にっ!」」
「そうです。この店に来てくれる可能性のあるお客様を、しっかりと分析し、それに合わせた店づくりをすれば、たとえ一見さんしか来ない場所だったとしても、常連さんを得ることができるんです」
「「なっ……なるほどぉ~~~っ!!」」
店の主人もオーナーも、ローンウルフの分析の的確さに舌を巻いていた。
そして店の主人はまた鼻息を荒くする。
「よぉし、初心者向けの戦士の店に、全面リニューアルだ! 今から問屋に発注して、明日からさっそく……!」
「待ってください。この店のすべてを戦士の初心者向けに変えるのはオススメしません。
なぜならば、これは仮定の話に過ぎないからです。
まずは店に入ってすぐのスペースだけを、『初心者コーナー』にしてみましょう。
あとはビラ配りをして、その仮定が間違いないかを裏付けを取ってから、リニューアルに着手しましょう」
次の日、ローンウルフは店内に初心者コーナーを作ると、オーナーを連れ立って例の十字路でビラ配りを始めた。
するとどうだろう、
『ビサビ』の店内はあっという間に、満員に……!
しかも狙いどおり初心者の戦士ばかりで、店の主人は対応に追われる。
ローンウルフたちはビラくばりを途中で中断して店に戻り、客の応対を手伝う。
そしてローンウルフの接客術が火を吹いた。
「武器をお選びなのでしたら、まずは取り回しのよい片手剣がオススメですよ。長物の武器は広い場所の戦いでは有利ですが、場所を選ぶのと、使いこなすのに時間がかかりますので」
「最初は金属系の鎧ではなく、普段着に近い革鎧がオススメです。動きやすい恰好で、まずは探索と、戦いに慣れると良いですよ。それに最初はペース配分もわかりませんから、鉄の鎧は帰るときにすごく重荷になるんです」
「この装備一式で、まずは野生動物を狩るクエストに挑戦するといいですよ。最初はモンスターを討伐したくなりますが、ゴブリンなどは最弱のモンスターながらも狡猾です。罠をしかける可能性のあるモンスターは、装備が身体になじんでからにするといいですよ」
戦士ギルドからデビューした戦士たちは、主に2パターンに分かれた。
『ゴージャスマート』で高い装備を売りつけられた者たちと、『ビサビ』で身の丈にあった装備を揃えた者たち。
前者は出費を取り戻すべく、いきなりモンスター討伐に出発。
後者は店員のアドバイスに従い、野生動物の狩猟に向かった。
ゴージャスマートの装備で身を固めた若者たちは、狩猟に出かける者たちを見て笑ったという。
「戦士になっておきながら、へなちょこな装備で動物狩りかよ!」
「それじゃあ木こりと同じじゃねぇか!」
「でも、お似合いだぜ! そんな剣じゃ、木の枝くらいしか切れねぇだろうからな!」
しかし、そんな彼らを笑った者たちは、ほとんどが最初の冒険を失敗、新品の装備もボロボロになってしまったという。
そして、狩猟に出かけた者たちの生還率は、100パーセントであった。
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