63 ローンウルフ4-2
『冒険者の店 ビサビ』の主人から、アドバイスのためのチャンスを与えられたローンウルフ。
主人はヒマだったので遊び半分で承諾したまでで、こんなオッサンが売上を上げられるわけはないと思っていた。
ローンウルフはさっそく、店に入ってすぐにある、短剣コーナーの棚に目を付ける。
乱雑に詰めてある短剣をいったんよそに置き、棚に積もったホコリを布でキレイに拭い去った。
そのあとは短剣もひとつひとつ布で磨き上げ、間隔をあけるように棚に戻す。
そうすると余る短剣が出てくるのだが、それは棚には置かずに在庫として引っ込めた。
ローンウルフがやったのは、たったこれだけのことである。
主人も拍子抜けした様子だった。
「なんだ、でかい口たたいたワリには大した事ねぇな! その程度で短剣が売れるんだったら苦労しねぇって!」
ちょうどその時、店にひとりの若い男が入ってきた。
「いらっしゃいませ」と声をかけるローンウルフ。
新人冒険者ふうのその男は、入り口で店内を見回したあと、顔をしかめる。
しかし短剣コーナーに気付くと近寄っていき、品定めを始めた。
そして、なんと……!
「これください」と、短剣1本、お買い上げっ……!
「「えっ……ええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
これには『ビサビ』の主人ばかりか、様子を見ていた『のらいぬや』新人のオーナーまで仰天。
客は何事かとギョッとなってしまう。
「すみません、お客様。驚かせてしまって、ご主人、はやくお会計を」
ローンウルフに促され、主人はまるで強盗にでも遭ったようにわたわたと対応をすませた。
客が退店すると、主人とオーナーはすかさず問い詰める。
「おっ、おいっ!? アンタ、いま何をやったんだ!? ちょちょっとやっただけで、いままで全然売れなかったものが、あっという間に売れちまったぞ!?」
「ゴル……! いや、ローンウルフさん、私も気になります! 本当に、なにをやったんですか!?」
するとローンウルフは、まるで手品グッズを売りつける怪しいオッサンのように微笑んだ。
「その秘訣をお知りになりたいですか?
それではぜひ、このお店を『のらいぬや』にお任せください。
『のらいぬや』では4ヶ国で培った店舗運営ノウハウがありまして、それを用いて必ずやこのお店を繁盛させてみせますから」
「ほ、本当かっ!? な、なら、契約しよう! 俺も先代からのこの店を盛り上げたくて、いろいろやったが全然ダメだったんだ! プロが力を貸してくれるというのならありがたいっ!」
オッサン、さっそく新規契約、ゲット……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
最初の契約を得たローンウルフは、明日からお手伝いしますと告げて、『ビサビ』をあとにする。
その足で事務所に戻ったのだが、さっそくオーナーにせっつかれてしまった。
「ローンウルフさん、さきほどの種明かしをしてください! 私、気になって気になって……!」
「落ち着いてください、オーナー。あれは『フェイスアップ』というものです」
「フェイスアップ?」とオウム返しにするオーナー。
「ええ。多くの冒険者の店は陳列にはこだわっていません。仕入れた武器を棚に放り込むだけです。でも、きちんと陳列することによって、売上は倍も違うことがわかっています」
「そ、そうなのですか……!?」
「はい。それにあのお店は清掃にも手を抜いていて、どこもホコリだらけでした。それだとどんなに商品が新しくても、古くて手入れのなされていないものに見えてしまうのです」
「な、なるほどぉ……!」
「まず、明日はあの店の清掃をして、陳列をやり直します。それが、ビサビさん再生の第一段階です」
「わ、わかりましたっ!」
次の日は早朝からビサビを尋ね、主人に1日の臨時休業をお願いする。
それから3人がかりで店の商品をすべて倉庫に戻し、全面的な清掃を行なった。
そしてローンウルフの指示のもと、新たなレイアウトで陳列をやりなおす。
するとどうだろう。
いままでほとんど無かった客足がぽつぽつと増えはじめる。
それはほんのわずかであったが、ゼロ同然だった今までに比べると、大きな変化であった。
それだけで店の主人は大満足であったが、ローンウルフはさらに客を呼べるという。
「ええっ? このあたりの通りは冒険者なんてほとんど通らないだろう? 今以上に増やすのは無理なんじゃないか? それでも売上は以前の倍になったんだ。もうじゅうぶんだよ」
「私もそう思います。ローンウルフさん、これ以上なにか仕掛けても、費やしたぶんの見返りがあるとは思えません」
閉店後のビサビ店内での作戦会議において、主人とオーナーはもうじゅうぶん戦果はあがったという意識でいた。
ローンウルフは「そんなことはありません」と、懐からふたつの書類を取りだし、会議机の上に拡げる。
「これは……」
「ひとつは、このあたりの地図ですね。もうひとつの表みたいなのはなんですか?」
「これは、この付近の交通量を調査したものです」
「交通量?」
「ええ。この店のまわりにはどれだけ冒険者が通るのかを調べておきました。まずは地図を見て下さい」
「地図の十字路に、赤い丸みたいなのがありますね」
「ええ。これは朝から夕方まで、冒険者の通った数を赤丸にしたものです。より冒険者が多く通る十字路ほど、大きな赤丸となっています。ここの十字路を見てください」
ローンウルフは地図のなかで、ビサビから少し離れたところにある、小さな十字路を指さした。
「この十字路は小さいものだが、大通りと同じくらい冒険者が通っているようだな?」
「ええ。次にこちらの交通量の表を見てください。見た目の印象だけですが、職種をまとめてあります」
「おや? 戦士がいちばん多いですね? なぜこの十字路だけ、戦士が多く通るんでしょうか?」
「はい、私も気になって調べてみたんです。そしたらここに……」
問題の十字路に、ピタッと指をあてるローンウルフ。
そこからすすっと指を南にずらしていくと……。
主人とオーナーは「「ああっ!?」」とハモった。
「せ、戦士ギルド……!?」
「そうです。ここからだいぶ離れていますが、戦士ギルドがあるんです」





