50 1巻発売記念番外編 旋風と太陽30
「負けたら裸になるゲーム」と聞かされ、プリムラは猛反対。
「ゲームで肌を見せるだなんて、そ……そんなの、いけませんっ! はしたないです! はしたな過ぎますっ!」
もう裸を見られてしまったかのように、真っ赤になっているプリムラ。
なだめるようにリインカーネーションは言った。
「あらあら、プリムラちゃん。大丈夫よ、ママがやるから。プリムラちゃんはママのことを応援しててね」
「えっ!? お姉ちゃん、やるつもりなんですか!?」
「ええ、もちろんよ。だって賞品が欲しくてここまでがんばってきたのだから。プリムラちゃんもそうでしょう?」
「そ、それは、そうですけど……。でも……!」
「大丈夫、ママは絶対に裸になったりはしないわ」
自信に満ちあふれた瞳で言われ、プリムラはそれ以上、反対できなかった。
しかしイザとなったら自分のローブを脱いで姉に着せようと、心の中で決意する。
延長戦のゲーム、『旋風と太陽』をホーリードールは承諾。
混沌の嵐が吹き荒れ続けた『聖心披露会』はついに、最終決戦へと突入するっ……!
インキチとマザーはステージから降り、広々としたピッチの中央で対峙した。
このフィールド内であれば、どれだけ逃げてもかまわない。
しかし俊足の聖女ならともかく、リインカーネーションの脚力は前ゲームで嫌というほど証明されている。
インキチの足の速さは未知数だが、いくらなんでもリインカーネーション以下というのは考えにくい。
となればアッサリ捕まって、「あ~れ~!?」と、悪代官と町娘の関係に。
しかも助けてくれるはずのヒーローは、ここにはいない……!
勇者はまわりに100人もいるが、彼らはきっと最高のストリップを観にきたように、ヒューヒューと囃し立てるに違いない。
それどころか興奮のあまり客席から飛び降り、リインカーネーションに襲いかかるかもしれない。
そうなればリインカーネーションは、完全敗北っ……!
彼女はようやく肌身を、そして骨身を持っている知るのだ。
これが『デス・ゲーム』であると……!
客席はもはや熱気ムンムン。
誰もが世紀の瞬間を見逃すまいと、最前列に詰め寄っていた。
すべての緊張感は最高潮に達していたが、ひとりだけ変わらぬ者が。
いちばんの当事者であり、これから最大の被害者になる彼女だけは、いつもと変わらぬ様子でニコニコ笑っていた。
『リインカーネーション様は、余裕たっぷりの笑顔じゃぁぁぁんっ! 最後のゲームも、簡単にクリアする気、マンマンじゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーんっ!! 対するインキチ様は……!? おおーーーっとぉ、こちらもニッコニコじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!!』
インキチもリインカーネーションに負けじと、仮面のような顔にこれでもかと笑顔を浮かべている。
しかし額には、稲妻のような青筋が走っていた。
――ずっと、ずっとお気に召さなかったのでございます……!
あなた様のことが……!
わたくしはゴトシゴッド様の聖女になるために、血の滲む努力をさせていただいたのでございます……!
ゲームマスターとしての腕前を磨き、血の涙を笑顔で覆い隠し、多くの方を破滅へとお導きさせていただいたのでございます……!
それもこれも、なにもかも……!
あなた様のおような、白豚聖女を、跪かせるためなのでございますっ……!!
『さあっ! 泣いても笑ってもこれが最後っ! 本当に、最後の最後の最後っ! 勝つのはどちらなのかっ!? 「旋風と太陽」、スタートじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!!』
ジャァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンンッ!!
シンバルの音が鳴り響き、最終決戦の幕開けを告げる。
ステージ上にあるランプが、09:59とカウントダウンを開始する。
インキチはさっそくリインカーネーションに襲いかかるかと思ったが、彼女は一歩も動かない。
そしてリインカーネーションは逃げもせず、ニッコリと言った。
「あのね、インキチちゃん。いい子のインキチちゃんに、ママからお願いがあるの」
どうやら体力勝負ではなく、会話の駆け引きで時間を稼ごうという魂胆か、とインキチは思った。
「……なんでございましょう?」
「あのね、ママはやっぱり『子』よりも『親』のほうがいいなぁ。だってママはママだもの」
それは、思いも寄らぬ提案であった。
「……今になって親と子を交代なさりたいとおっしゃられても、それは無理な相談なのでございます」
「ううん、交代してほしいんじゃないの。ママも『親』になりたいの」
さらに思いがけない提案に、「……おハァ?」とマヌケな声をげあげるインキチ。
「だってこのゲームって『旋風と太陽』ってお名前なんでしょう? 太陽さんはインキチちゃんとして、旋風さんはどこにいるの? いないのだったら、ママがなってもいいでしょう? ねっ?」
大きな胸で祈るように手を合わせ、小首をかしげるリインカーネーション。
彼女の得意とする『おねだりポーズ』であった。
このポーズは異性はもちろんのこと、同性にも効果抜群。
しかしインキチには効いていないようだった。
――いきなり、なにをおっしゃるのかと思った次第でございます……。
でも、魂胆がわかったのでございます。
おリインカーネーション様は、自分も親になることにより、『相手を脱がしたら勝利』というルールに持ち込んで……。
わたくしのドレスを脱がすことにより、勝利を得ようと目論んでいるのでございましょう……。
しかし、そんなことを企みになられても、無駄にございます……。
なぜおならば、わたくしには……!
「……そういうことなら、結構でございます。ルールの変更を認めましょう」
「ええっ!?」と周囲が沸く。
『おっ!? おおっとぉ!? と……突如のルール変更が認められたじゃあんっ!? これにより、リインカーネーション様も親となり……。ようは、先に相手を全裸にしたほうが勝ちというルールに変わったじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!!』
「うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
これには2階客席が大いに沸いた。
なぜならば、リインカーネーションほどではないが、インキチもかなりのナイスバディだったから。
これならどっちに転んでも大聖女のヌードが観られるとあって、反対する者はひとりもいない。
戦いは、『旋風と太陽vs旅人』の図式から……。
旋風 vs 太陽 へ……!
神々の戦いさながらの、壮大なる展開を迎えたのだ……!





