51 1巻発売記念番外編 旋風と太陽31
インキチは太陽であった。
ゲームの胴元を務める彼女は、すべてのプレイヤーにとっては、なくてはならない存在。
彼女がいなければゲームという名の世界は崩壊し、氷河期がやって来る。
そして彼女はそれをいいことに、影からゲームを自分の都合のいいように操り、私腹を肥やしてきた。
その暗黒微笑はまさに、『黒い太陽』と呼ぶにふさわしい。
しかしそんな無敵の太陽に、初めて翳りをもたらす暗雲が出現する。
その名も、
ホーリードール家っ……!
彼女たちは風のように現れて、多くの者たちの心にすきま風のように入り込み、嵐のように荒らした。
その輝く笑顔はまさに、『光の旋風』と呼ぶにふさわしかった。
そして両雄は、ついに同じ立場、同じ条件で激突することとなったのだ……!
今度は旅人などという、生やさしい存在ではない。
神とも呼べる存在を、丸裸にし……!
負けたほうは、すべてを白日に晒すことになり……!
そして聖女どころか、女の……。
いや、人間としての尊厳をも、ケツの毛のように毟り取られるっ……!
まさに、『すべてを賭けた戦い』……!!
まさに、『最終戦争』っ……!!
そんな、負ければすべてを失う戦いとなってしまったというのに、両者は笑みを絶やさない。
インキチの笑みはポーカーフェイスから来るものであったが、マザーは心の底から染み出したような笑顔だった。
それが、インキチにはたまらなく不気味に映る。
――ルールが変わっても、向かってこないとは……!?
てっきり、力任せに襲いかかってくるとお思っておりましたのに……!
いったい、おリインカーネーション様は、なにを狙っているのでございましょう……!?
しかし、いくら待ってもリインカーネーションは動かない。
そしてようやく、インキチは気付いた。
――はあっ……!? まさか、おリインカーネーション様は、時間が切れるのをお待ちになっておられる……!?
まさか自分を、親であり、子であるおなどと、おっしゃるつもりなのでは……!?
……まさかの、兼任っ……!?
リインカーネーションは10分の時間が切れるのを待って、
「ママは親になりたいとは言ったけど、子と交代したいとは言ってないわよねぇ? ということはママは親でありつつも、まだ子ということになるわよねぇ? それで時間切れになったのだから、ママの勝ちでちゅねぇ~!」
などという詭弁を、いけしゃあしゃあと……!?
それはかなりムチャな理屈であったが、きっと勇者人気にかこつけて、押し切るに違いない。
インキチはギリッ! と奥歯を噛みしめた。
――この、白豚がっ……!
聖母のおような微笑みをたたえになられて、なんという腹黒いことを……!
しかし、お豚様の考えることなど、わたくしには通用しないのでございますっ……!
もう遠慮はいたしませんっ……!
ついにインキチが動く。
……バッ!
と手のひらを差し出す。
白ヒトデのような手のひらをリインカーネーションに向かってかざした。
そして、ついに解禁する。
禁断の、奇跡を……!
「己が手に、焼かれよっ……!!」
鬼婆が振りかざす包丁のように、瞳がギラリと輝いたかと思うと、
「『白き音符と赤き線譜』ぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
咆哮と同時に、ドレスの袖から白い粉のようなものが、噴き出したっ……!?
それは皮膚が粉を吹いたかのような、薄汚れた吹雪となってリインカーネーションを襲った。
「あらあら、まあまあっ!?」
リインカーネーションはとっさに腕で顔を覆ったものの、時すでに遅し。
全身に、まるで白カビのような物体が、浮かび上がった……!
直後、キャンプでメチャクチャ蚊に刺されまくった人のように、激しく悶絶をはじめるリインカーネーション。
「あああっ!? かゆいっ!? かゆいいいいーーーっ!?」
インキチは、村人を火刑にかけている魔女のように笑った。
「ヌフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフっ! かゆいでございましょう!? かゆいでございましょうっ!? これこそが我が奇跡、『白き音符と赤き線譜』……!」
『白き音符と赤き線譜』は、粉を浴びた者の肌に『白癬菌』を植え付ける奇跡であった。
『白癬菌』とはカビの一種で、平たくいうと水虫やタムシのことである。
インキチはそのカビを自由に操り、ゲームの必勝法としてきた。
この技を受けた者は、全身がかゆくてたまらなくなり、全身をかきむしり……。
ついには、身に付けているものをすべて脱ぎ捨ててしまうのだ……!
そう。
これこそが『旋風と太陽』における、最強の必殺技であり……。
彼女はこの技で、幾多の勇者を全裸土下座させてきたのだ……!
しかもこの技は『痛み』ではなく『かゆみ』なので、聖女の祈りは通用しない。
かゆくて掻きむしった傷は治すことができるが、かゆみは消えない。
ということは、無限に身体をかきむしり続けなくてはいけないのだ……!
余談ではあるが、彼女はこの技を、普段は相手の身体に局地的に施すようにしている。
全身にかけてしまうと跡が目立ってしまい、技の存在がバレてしまうからだ。
そうなれば誰も、彼女と『旋風と太陽』をしてくれなくなるだろう。
しかし局地的となると、かゆみの効果は薄れてしまう。
だから彼女は、最大限に効果が発揮できる部位に、この技を仕掛けていた。
彼女に屈服させられた勇者たちは、みな彼女のことを、陰でなんと呼んでいたかというと……。
イ ン キ ○ ・ オ ブ ・ ソ イ ホ イ …… !
しかし今回、彼女はこの秘密の技を解禁し、大衆の前で披露した。
それだけ、このゲームにすべてを賭けていたのだ。
この最後の勝負に勝つことさえできれば、この技はバレてしまってもかまわない。
むしろ、こんな技など使う必要もなくなる。
なぜならば、ホーリードール家さえ手に入れることができたら……。
彼女は世界を支配する、ゲームマスターとなれるからだ……!
誠に申し訳ありません。
1巻発売記念番外編であります、この『旋風と太陽』なのですが、完結まで1日4話更新するつもりでおりました。
でも、ちょっとやる気ゲージが尽きそうになっておりますので、この先はいつものペース(1日1話更新)とさせていただきます。
このお話は来月の上旬までには完結する予定ですので、このままお付き合いいただけると嬉しいです。





