65 愛のおわり5(ざまぁ回)
突如として、オヤジの顔にも焼印が押し当てられた。
……ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
それがまるでアツアツおでんのような平易さだったので、オヤジはリアクションを取るどころか、もんどり打って倒れてしまう。
「熱い熱い熱いっ!? 熱いぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ!? き、貴様、いきなりなにをするんじゃっ!?」
しかし、アツアツ焼印を仕掛けた男たちは何も答えない。
近衛兵のように無言のまま、這いつくばるオヤジを見下していた。
ちなみにではあるが、魔法の焼印というのは押された者に対して、魔法による強制力を与える。
これは、商取引などに用いられる魔蝋印や魔血筆などの魔法技術の原形ともいえるもの。
焼印を押された者は、焼印に登録されていた主人には逆らえないようになる、主人には危害は加えれないようになる、などの強制力を受けてしまう。
でもだからといって、誰彼かまわず押したところで魔法の効果は発揮されない。
まず、魔法の焼印そのものが一般では発行できず、国の奴隷局に申請し、国から発行してもらう必要がある。
さらに魔法の焼印の内部には、主人と奴隷の名前が対になって登録されており、その関係が成立していなければ魔法による強制力の効果は発揮されない。
焼印に登録されていない人間に対して押印したところで、ただの焼けた鉄を押し当てたにすぎないというわけだ。
この場合は、押した側に傷害罪が適用される。
ファイヤーヘッドもそのことを知っていたので、声を荒げていた。
「勇者であるワシにこんなことをして、ただですむと思っとるのか!? 土下座だけではすまさんぞ! 貴様らもこのクソガキのように奴隷にしてやるっ!? おいっ、なんとか言わんか! 貴様らの主人もただではすまさんから、覚悟しておけ!」
すると、思いも寄らぬ所から声が返ってくる。
「彼らの主人は、私ざます」
その声は、豪奢な馬車からだった。
見ると、そこには……。
ミセス・ファイヤーヘッドが……!
「お……お前っ!? なんでそんな所に!?」
ファイヤーヘッドが仰天まじりの声をあげると、ミセスは石膏の壁のような白塗りの顔を、不快そうに歪めた。
「お前のような奴隷に、お前呼ばわりされるいわれはないざます」
「な……なんじゃと!? これは、お前の差し金かっ!?」
「そうざます。お前は私に売られてしまったんざます。それにお前が住んでいた屋敷も、合わせて売ったんざます」
「う、売った……!? 勇者であるこのワシと、このワシの持ち物である屋敷を、売った、じゃと……!? そんなことが、許されるわけがなかろう! たっ……助けっ! 助けろ衛兵ーーーーっ! こ、ここに、人さらいがいるぞぉーーーーーーっ!!」
「いくら衛兵を呼んでも無駄ざます。なぜならばこれは、この国の司法、および勇者組織の手続きに則った、れっきとした商行為なんざますから」
基本的に勇者というのは人身売買の対象にはならない。
勇者を特に手厚く保護しているこのセブンルクス王国では、勇者の人身売買、および略取や誘拐は重い罪に問われる。
しかしその保護の対象になるのは、階級が大天級以上となっている。
小天級の場合も、いちおう保護の対象にはなっているのだが、自由に売買が可能となる抜け道がひとつだけ存在していた。
それは、奴隷主となる勇者が、勇者上層部に申請をし、認められた場合。
もちろん審査は厳しく、通常の場合はほとんどが却下される。
そのくらいでないと、小天級の勇者は奴隷だらけになってしまうからだ。
小天級の勇者というのは、公の奴隷であってはならない。
見えない首輪と鎖で繋がれた、檻がなくても逃げないゾウでなくてはならないのだ。
しかし今回、ファイヤーヘッドの奴隷申請は認可された。
それには、いくつかの理由があった。
まず、ファイヤーヘッド自身が、もう堕天でもおかしくないほどの失態をしでかしていたこと。
そして、ファイヤーヘッドの第一夫人から、離婚の要請があったこと。
これらの事象が重なり合い、勇者上層部はゴーサインを出したのだ……!
そのことにファイヤーヘッドも、ようやく気付いたようだった。
「ま、まさかお前……!? このワシと別れて、別の勇者と……!?」
「そうざます。私はヘイトリッド様のハーレムに召し抱えていただいたんざます」
「「なっ……なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
これにはオヤジだけでなく、ジュニアもひっくり返るほどに仰天した。
ヘットリッドは、ジュニアが学校でさんざんいじめてきた、勇者の名……。
そしてオヤジも子供の頃、さんざんいじめてきた勇者の名であった……!
そう……!
この父子はよりにもよって、親子揃っていじめていた勇者に売られてしまったのだ……!
それからファイヤーヘッドとジュニアは檻に入れられ、ヘイトリッド家の奴隷として暮らすことになった。
いや、それどころか厄災四天王の父子は全員、ヘイトリッド家の奴隷となっていた。
主人はかつてのいじめられっ子であったが、奴隷の焼印がある以上、逆らうことは許されない。
オヤジたちは家畜のような扱いを受け、ジュニアたちはヘイトリッド少年の従者となった。
その次の日、ヘイトリッド少年が勇者学校に登校すると、学校中が大騒ぎになる。
「お、おい、見ろよ……! ヘイトリッドが連れてるペット……!」
「ええっ!? あれって、厄災四天王ジュニアじゃねぇか!?」
「この学校をシメてたヤツらが、なんで学校いちのいじめられっ子に……!?」
「しかもマジの犬みてぇに、服も着せずに四つん這いで引きずり回してるぞ!」
子供たちの手のひら返しは、光よりも高速であった。
「す、すげぇ……! すげえよ、ヘイトリッド! いや、ヘイトリッド君!」
「こんな遊び甲斐のありそうなペットは初めてだ! ねぇ、僕たちにも遊ばせてよ!」
「コイツらの指で、『度胸だめし』やろうぜ!」
『度胸だめし』というのは、机などの上に手を開き、その指の間をすばやくナイフで刺すという危険な遊びである。
普通は自分の手を使ってやるものだが、勇者の卵たちにとってはペットの手を使ってやるのが標準であった。





