63 愛のおわり3
それから数日後、勇者組織から新人事が発表される。
それはおおかたの予想どおり、厄災四天王への処分を報せるものであった。
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
ボンクラーノ
ライドボーイ・ロンギヌス
ライドボーイ・アメノサカホコ
ライドボーイ・トリシューラ
ライドボーイ・トリアイナ
●座天級(大国副部長)
ゴルドウルフ
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ジャンジャンバリバリ
●大天級(店長)
ステンテッド
ヘイトリッド
●小天級(役職なし)
↓降格:ファイヤーヘッド、サンダーヘッド、ストームヘッド、アースクェイクヘッド
○堕天
コスモス、ザンガン
デスディーラー・リヴォルヴ、サイ・クロップス、ゴルゴン、スキュラ、オルトロス
ジェノサイドダディ、ジェノサイドファング、ジェノサイドナックル
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン、ゼピュロス、ギザルム、ハルバード、パルチザン
名もなき戦勇者 3817名
名もなき創勇者 340名
名もなき調勇者 530名
名もなき導勇者 310名
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辛うじて堕天は避けられ、ワンランクダウンで踏みとどまった。
しかし前述のとおり、小天級というのはもはや勇者ではない。
となると、ジュニアたちの学校での立場が危うくなるのだが、彼らはそれすらも利用した。
いや、今までの父親サゲ自慢は、今回のハッタリへの布石であったと表現したほうが正しいだろうか。
「ああ、今回の人事? あのバカがあんな風になったのは、俺がちょっとヤンチャしたせいなんだよなぁ」
「あのバカ調子乗ってたから、ちょっとシメてやろうと思って」
「そしたらあのバカさぁ、堕天だけは勘弁してください~! って、わんわん泣き出しちゃってさぁ!」
「しょーがねーから堕天だけは勘弁してやって、小天級にしたってわけ!」
なんとジュニアたちは、さも自分の裁量で父親をランクダウンさせたようにうそぶいてみせたのだ。
勇者にはもちろん階級に応じてある程度の人事権は与えられているが、まだ卵である彼らにはそんな権限はもちろんない。
しかし伝説の勇者をペット扱いにした真写が、そのウソを真実へと塗り替えた。
おかげでジュニアたちは、小天級という最下級の勇者の父を持ちながら、ヘイトリッドのようなイジメに遭わずにすんだ。
そしてジュニアたちは回りから乗せられ、実のバカをより過激に痛めつけ、真写におさめるようになった。
それはやがて、世にも恐ろしい『遊び』となり、蔓延しはじめる。
「俺、バカのメシにセミの抜け殻を混ぜてやったんだ! ほら、これが食ってるところだ! 面白ぇだろ!?」
「そんなのたいしたことねえって! 俺なんか、バカがシャワーを浴びてるときに、水に変えてやったんだぜ! 悲鳴をあげて飛び上がってたなぁ!」
「バカがトイレに入ってるときに、扉を塞いでやったんだ! 出られなくなったバカの慌てっぷりは最高だったなぁ! 最後はとうとう窓から這いだそうとしてたんだけど、デブだから身体が引っかかっちまってさぁ! 衛兵に助けてもらってやんの!」
その遊びの名は『親殺しゲーム』。
ひそかに父親にイタズラを仕掛け、その様子を真写におさめる。
与えた被害度合と、真写の滑稽さを競い合うという、鬼畜のゲームであった。
そして子供というのは、危険なものに憧れる。
『失神ゲーム』がひとたび広まると、あっというまにすべての小学生が真似するかのように……。
この『親殺しゲーム』は、セブンルクスじゅうの勇者学校において、大流行……!
勇者というのは、この世界における絶対的な存在ではあるが、もちろん敵対勢力というのは存在する。
勇者組織と決別宣言をしたドッグレッグ諸国や、魔王を崇める魔王信奉者などである。
しかしまさか、肉親が敵対行動に走ろうとは……!
しかもそれらのイタズラはこっそりだったので、勇者たちは気付かない。
そのマヌケっぷりが、勇者の卵たちをさらに増長させる結果となる。
とうとう親にバレることもいとわず、大胆なイタズラをする者が続出……!
「俺、バカのメシにゴキブリを混ぜてやったんだ! ほら、これが食ってるところだ! このあとまる1日寝込んだんだぜ!」
「そんなのたいしたことねえって! 俺なんか、バカを階段から突き落としたんだ! 骨折して、のたうち回ってケッサクだったなぁ! 見てくれよ、この真写! 治癒魔法でも全治3日だってさ!」
「オヤジの剣を竹光にすり替えといたんだ! そのままクエストに出かけてったんだけど、モンスターと戦う時に気付いたみたいで、タンカに運ばれて帰ってきたぜ! 1週間の入院だってさ!」
セブンルクス王国にいる、小学生の子を持つ勇者たちは、次々と体調不良を訴えるようになった。
ちなみにではあるが、同国には勇者以外の学校もある。
聖女、魔導女の学校はもちろんのこと、上級職や下級職の学校も。
しかしそれらの学校に通う子供たちは、この『親殺しゲーム』に参加することはなかった。
噂としては知っていたが、自分の親をイタズラでいたずらに痛めつけるだなんて、ありえないと思っていた。
勇者と、それ以外の子供たちの倫理観の違いが浮き彫りになった形であったが、これは親の教育の賜物といっていいだろう。
そう。
バカから生まれ、バカに育てられたバカどもは、知らなかったのだ。
親にそんなことをしたら、自分がどうなってしまうのかを……!
子供というのは自分ひとりではなにもできないので、大きくなるまでは親に寄生する、寄生虫同然。
その虫ケラごときが宿主を怒らせてしまったら、どうなってしまうのか……。
「おい、クソ野郎、今帰ったぞっ!」
……ガスッ!
屋敷の門前にいたファイヤーヘッドの尻を、ジュニアは蹴り上げる。
いつもであればファイヤーヘッドは「ぶひいっ!?」と鳴いて、情けなく飛び上がるのだが……。
今日は違っていた。
顔中に青筋を走らせた、鬼のような形相で振り向くと……。
……ドガスゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッ!!
もはや子を子とは思わない、怒りの一撃を、我が子の顔面にブチ込んだのだ……!





