60 超・重追放(ざまぁ回)
ステンテッドは大天級へと降格となった。
大天級というのは、『勇者』の扱いを受ける者としては、最低の立場である。
彼はかつては小天級だったのだが、その一歩手前まで堕ちてしまったことになる。
小天級は陰では『ニセ勇者』と呼ばれ、ほとんど一般市民と同義である。
しかし彼は誰よりも『ニセ』であった。
彼は剣術大会のあと、ロンドクロウ小国の憲兵局に身柄を拘束され、司法の裁きを受ける。
この時、彼が問われた罪はみっつ。
ひとつ目は、人間に対して毒を用いたこと。
厳密にはそれは下剤なのだが、人間に仇なす用途として用いられたので、毒という扱いを受けた。
しかも本来は所持すら禁止されている、『魔界の花』を使った薬ともなれば、厳罰必至。
そしてふたつ目は、ロンドクロウ小国の街を、車輪の付いた『輿』で全裸爆走し、多くの被害を出したこと。
そう……!
彼はどちらかといえば被害者なのだが、いつの間にか『勇者サゲ祭り』の首謀者として仕立て上げられていたのだ……!
ちなみにみっつめの罪は、わいせつ物陳列罪。
ちなみに、世界の常識に照らし合わせて考えてみると、それらの罪は本来勇者には問われないものであった。
勇者を罰することができるのは、勇者組織のみと考えられているからだ。
どの国も、どんな悪行勇者が相手であろうとも、しょせんはポーズの判決しか下さない。
そのことを、ステンテッドもわかっていたので、裁判では実に横柄であった。
「ワシは勇者じゃぞ! 勇者であるワシを裁くなど、いい度胸をしておるではないか! ワシを罰するということは、ゴッドスマイル様を罰するのと同じことなんじゃぞ! どうだ、わかったか裁判長! 貴様の権力など、このワシの前ではケツを拭く紙以下なんじゃ! わかったら、それ相応の誠意と言うのを見せんか!」
どこかで聞いたことのあるような台詞をのたまう彼は、わかっていなかった。
もはやこのオヤジがいる地は、勇者にとっての治外法権。
もはや勇者ブランドなど、彼の言葉に置き換えて言わせると、
……ケツを拭いたあとの紙以下……!
裁判長が、そのケツ紙に下した判決とは……。
『超・重追放』っ……!
これは、先のガンクプフル小国でも下されたのと同じもの。
ロンドクロウ小国内に無期限の立入禁止という、もっとも重い『追放刑』である。
ようは彼がやったのは勇者の便通を良くしただけなので、ある意味はグッジョブなのであるが……。
一歩間違えば、ロンドクロウの女王ゴールドベアがお気に入りであるホーリードール家の聖女たちに被害が及んでいたかもしれない。
そのうえ、ステンテッドが『毒』を用いたのはガンクプフル小国のパッションポーションに続いて二度目。
再犯ともなれば情状酌量の余地はないので、重い判決が下されることとなった。
再び『超・重追放』の判決を受けたステンテッドは、即日、追放を受けた証を与えられる。
これはガンクプフル小国と同じく、再入国を防止するための処置であった。
その、証とは……。
本人側から見て、右の頬のあたりへの魔法焼印。
例によって、この焼印刑の実行に当たっては、ステンテッドは大暴れして最後まで抵抗した。
「やめろっ! やめろっ! やめるんじゃっ! ワシは勇者様じゃぞっ!? 勇者であるワシの高貴なる身体を汚すなど、ワシも許さんし、神も決してお許しにならんわ!」
しかし刑吏たちに鼻で笑われてしまう。
「なぁに言ってやがる! お前はさんざん身体にラクガキされてきただろうが、このラクガキ勇者が!」
「ぐっ……!? ぐぬぅぅぅ~~~っ!? あ、アレは下賤なる者とのスキンシップじゃ! 消せば落ちるラクガキならまだよいが、焼印は一生跡に残るではないか! そんなものをワシの身体に付けたら、貴様らは一生後悔することになるぞ!」
「なぁに言ってやがる! お前の顔にはすでにガンクプフル追放の焼印があるじゃねぇか!」
「こ……これは、ヤツらが犯した罪の証じゃ! 勇者のワシに手を出したという、動かぬ証拠! もうじきゴッドスマイル様が動き出すぞ! そうなれば、ガンクプフルは一瞬にして焦土と化す! それを見たあとで、ワシに焼印を押したことを後悔しても遅いぞ、バカめっ! いますぐ女王をここに呼んで、土下座を……!」
嗚呼……。
彼はこの期に及んでも、まだ気付かないでいるのだ……。
もはや『勇者』という絹の御旗は、この国では使用済みのトイレットペーパーがはためいているも同然であるとうことに……!
そして、なおもしがみついていたのだ……。
風化した糞山のように、ボロボロと崩れていく、『勇者』という組織に……!
彼がそのことに気付いたのは、焼印の灼熱を肌で感じた瞬間だった。
「やっ……! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! こ、これが最後のチャンスじゃぞ!? や、やめてくれたら、なんでもやろう! 金でも女でも、好きなだけ……! そして、なんでもさせてやるっ! す、好きなだけワシの身体にラクガキしていいっ! ラクガキ勇者のワシに、好きなだけラクガキできるんじゃぞっ!? し、しかも、3日は書いたものを落さないでいてやるから、メモ代わりにもなるぞ! い、いや、1週間……いやいや、1ヶ月は落さない! 約束するっ! うぐぐっ、い……一生! 一生落さない! 一生落さないから! だ、だから……!」
……ジュウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「いっしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ちなみに、押された焼印文字は『セ』。
『ロンドクロウより背を向け生きよ』とう意味が込められているのだが、彼の場合は意味が異なってしまっていた。
なぜならば、ステンテッドはすでにガンクプフル小国を追放された際に、『二』の焼印を押されている。
追加の焼印は、そのすぐ隣に押されたため、合わせてみると……。
『ニセ』の文字に……!
ステンテッドは名実ともに、まがいモノとなってしまったのだ……!
さらに余談となるが、彼の災難はこれだけで終わらなかった。
ステンテッドはかつては能天級だったが、降格して今では大天級。
まわりの勇者たちももう遠慮はしなかった。
『ゴージャスマート』がロンドクロウ小国から物理的に撤退する際、店の調勇者たちが、大いに『活用』したのだ。
国内におけるゴージャスマートはすでに市民から忌み嫌われていたので、店をたたんで馬車で逃げ出すときには市民たちから投石攻撃を受けることは目に見えていた。
そこで彼らは、かつての『勇者サゲ祭り』で大活躍した神輿を再活用。
あの時の祭りを再現するかのように、神輿の屋根の上にステンテッドを裸で縛り付け、街中を引廻しにした。
ロンドクロウの新聞を連日賑わせたステンテッドは、もはや市民の大敵として認識されている。
ゴージャスマートと、ステンテッド……。
醜いものふたつあるなら、より醜いものを攻撃するのが人間というものだろう。
身体じゅうを屈辱的な落書きで覆われた勇者が、投石の雨でズタボロになっているうちに……。
ゴージャスマートの調勇者たちは、まんまと逃げおおせたのだ……!
このお話で今章は終わりにするつもりだったのですが、ちょっとパンチが足りないと思ったので追加で書きたいと思います。
ですので、もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです!





