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58 チャルカンブレード破り

 リンゴほっぺの少女、バーンナップが放った一撃は、大火となって空に広がる。

 それは会場の天井までもを焦がし、2階客席から覗き込んでいた観客の前髪を焦がした。



「うわあっ!? な、なんだあの剣は!?」



「とんでもねぇ炎の剣だぞっ!?」



「あんなのを食らったら、たとえマナシールドがあっても骨も残らねぇ!」



「金髪の嬢ちゃんは、どうなったんだ!?」



 観客たちは客席から落ちんばかりの勢いで手すりに押し寄せ、試合会場を覗き込んだ。

 そこには、なんと……!



「えっ……!? ええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 先ほどまで威風堂々としていて、どんな相手に対しても決して膝を折ることのなさそうだった、強気の金髪少女騎士が……。

 五体投地するかのように、床に伏せっていたのだ……!


 それも、敵の目の前で……!

 しかも、足元に這いつくばるように……!


 完全降伏するかのようにべったりと床にへばりつく様は、さながらノシイカのよう……!


 そしてこれが、彼女にとっての『プランB』……!


 そう……!

 野良犬剣法の秘奥義、『チャルカンブレード破り』っ……!


 床を舐めんばかりのシャルルンロットの脳内に、言葉が迸る。



「チャルカンブレードは、使用者が激情に合わせて抜刀するので、初太刀は必ず居合い抜き……。すなわち、逆袈裟の太刀筋になります」



「チャルカンブレードは、太陽を守る蛇……。太陽に近づこうとする者を堕とすためにあるのです。そのため、地面には炎が届きにくいのです」



「初太刀の場合は、地面からおよそ、30センチ……。それより低い位置には、どの間合いにおいても、炎は届きません」



「また、炎属性のチャルカンブレードと、風属性であるトロワシールドは相性が悪く。抜刀の時点でトロワシールドは打ち消されてしまうのです」



「その弱点を相手に悟らせないためには、まず、相手の一撃目をわざと受けて、トロワシールドの強固さを知らしめます。そのあとで、チャルカンブレードの一撃で決める……。そうすれば、チャルカンブレードの威力に目を奪われ、誰もトロワシールドが消えていることに気付きません」



「チャルカンブレード破りは、その初太刀の際に地面に伏してかわし、トロワシールドが消えた相手に、カウンターの一撃を浴びせるというものです」



「安全地帯はたったの30センチですから、しゃがむのはもちろん、匍匐(ほふく)のような体勢ですらかわすことはできません。それこそ、地面に埋まり込むくらいに伏せなくてはなりません」



「そんな回避方法は、世界中の剣術のどこを探しても存在しないでしょう。なぜならば、あまりにも武道の精神からはかけ離れているからです」



「そして反撃についても、地面すれすれを斬りつけるという、剣士にあるまじき太刀……ともすれば『ひきょう太刀』とも言われかねない行為をしなくてはなりません」



「野良犬剣法の真髄は、『どんな手を使ってでも勝つ』ではありません。『どんな手を使ってでも生き残る』です。そのためには時に、卑怯者のそしりを受けることもしなくてはなりません」



「騎士道精神とは真逆のこの技を、大衆の前で使うだけの覚悟が……シャルルンロットさんにはありますか?」



 シャルルンロットの口から、オッサンの言葉を吹き飛ばす激声が迸った。



「なめんじゃないわよっ! この私を誰だと思ってるのっ!? シャルルンロット・ナイツ・オブ・ザ・ラウンドワンワン……! 世界最強の騎士になる、女狼っ……!」



 少女はぬかるみの中で足掻きまくるように、ロングナイフを構える。



「くらえっ! これが、アタシの新必殺技……!」



 そして仔狼が一生懸命吠えかかるように、くわっと八重歯を剥いた。



「……『ウルフ・オブ・ザ・スラムドッグ』ぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 それは……。

 もがき、苦しみ、のたうち回った挙句のような、見苦しい一撃であった。


 己の魂である剣すらも這いつくばらせ、血のかわりに泥をすすらせるような、なりふりかまわぬ太刀筋であった。

 しかし、見るものすべての心を、強く打っていた。


 ただ……。

 ただひとりの、少女を除いて。


 リンゴの樹のように不動なる少女は、もう、足元の少女を見てもいなかった。

 無防備な足元に、最後の一撃が迫ってきているのも知らず。


 ただ、一点だけを見つめていた。

 そして、いままで何があっても変わらなかった厳しい双眸が、まるで世界の終わりのように崩れた。


 根の生えたように動かなかった足が、ついに動いた。



 ……タッ……!



 リンゴが、樹から落ちるように……!


 あと少しで彼女のブーツを捕らえるはずだった剣先が、首の皮一枚ほどのわずかな差で空を切る。

 仔狼は、息を呑んだ。



 ――かわされたっ……!?



 シャルルンロットは反撃の一撃を覚悟する。

 いちかばちか、身体をゴロンと転がして逃れようとした。


 しかし、少女が目にしたものは……。

 敵の、後ろ姿であった……!


 バーンナップは、斬り結んでいた真っ最中にもかかわらず、その場から離脱。

 まだ何も、終わっていないというのに。


 シャルルンロットに背を向け、何の迷いもなく、ある人物の元に向かっていたのだ。


 少女が勝負を捨ててまで、求めた人物とは……!?



「うっ……! ぐぅぅぅ~っ……!」



 腹を押えて今にも崩れ落ちそうな、フォンティーヌっ……!?


 彼女は腹痛を押して、バーンナップのためにトロワシールドを貼っていた。

 自分が苦しんでいるとバーンナップが試合に集中できないので、平静を装って。


 しかし、魔界の花によって生み出された感覚は強烈で、彼女の強靱な精神を持ってしても抑え込むことができなかった。

 ついには限界を迎えようとしていたのだが……。



 ……がばあっ!



 風のように現れたバーンナップに、ひょいと担ぎあげられた。



「ばっ……バーンナップ!? な、なにをっ!? い、今は、試合の真っ最中なのですわっ!」



「こんな児戯よりも、フォンティーヌ様のお身体のほうが大切です」



 小さな身体のどこにそんな力があるのかと思うほどに、お嬢様を担ぎあげたまま疾走するバーンナップ。

 手近な壁に向かって突撃すると、ぶつかる瞬間、片手で腰の剣を抜き、



 ……ズドガァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 会場の壁に大穴を開ける。

 厄災四天王が揃ってもなしえなかったことを、あっさりとやってのけ、そのまま外に走り去っていった。



「に……逃げんじゃ……ないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 窮鼠の一撃をフイにされてしまった、仔狼の遠吠えすらも、無視して……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「かならず初太刀は必ず居合い抜き」←この「必ず」が「初太刀」と「居合い抜き」両方の前に掛かっているのは文法としておかしいというか稚拙と言わざるを得ません。 冗長的、くどいとも言えます。 どち…
[一言] ステンテッド本当にろくなことしないな…。
[一言] バーンナップにより窮地から救われたフォンティーヌ…… だが戦場は個室へと移り、彼女の孤独な戦いが今より幕を開ける! クーララカ「うぉおおおお!!止まらん!止まらんぞぉ!!」 フォンティーヌ…
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