39 暴走神輿(ざまぁ回)
丘の麓の街は、一転してパニックに陥っていた。
なにせ裸の男ふたりを縛り付けた神輿が、突如として乗り込んできたからだ。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
唸る車輪は、火花をあげるほどの勢いで疾走。
道行く人たちを押しのけるほどの存在感を持って、大通りを爆走していた。
「ぎゃあああああっ!? 嫌じゃっ!? 嫌じゃっ!? 嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
「死ぬボン、死ぬボン、死ぬボン! 助けて! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」
神輿の屋根の上に、十字で縛り付けられた勇者たち。
彼らは石畳の衝撃でガタガタと震えながら、もう恥を振りまくこともいとわず泣き叫んでいた。
その悲鳴がサイレンとなって、さらなる注目を集めているということに気付く余裕もない。
この暴走列車のような神輿は、どこへ向かうのか……?
丘からの一本道は、街の大通りに繋がっていて、ひとつの大きな坂道のようになっている。
下りしかないジェットコースターのレールのようなそれが、行き着く先は……?
大通りの突き当たりには、この街でもっとも人で賑わうT字路がある。
まさにこの街の一等地とも呼べる場所で、店を出せば繁盛間違いなしのこの場所。
そこにあったのは、皮肉にも……。
ゴージャスマートっ……!
今回、同店は街の権力者に働きかけ、このT字路を全面通行止めにしていた。
そして屋外型のパーティ会場へと作り替え、多くの招待客を招いていた。
そのパーティ会場の入り口である、特設の入場門は、中華街ばりの巨大なアーチあって……。
『ボンクラーノ様 モフモーフ討伐記念パーティ会場』
とあった……!
予定では、ボンクラーノ一行はモフモーフを討伐したあと、丘の上の取材陣たちを引きつれ、大通りを凱旋パレードし、アーチからパーティ会場に入るという手筈になっていた。
大通りもパレードのため、交通規制が敷かれており、馬車の通行は全面禁止。
偶然にもそれが幸いし、神輿の暴走に巻き込まれる者が出ずにすんでいた。
会場では、招かれたこの国の戦士たちが、主賓の到着を今か今かと待ち構えていた。
「勇者様たち、まだ帰ってこねぇのかなぁ」
「なぁに、タダの料理や酒があるんだ、いくらでも待ってやるさ」
「しかし調勇者のボンクラーノ様が、自らクエストに出かけられるとは思わなかったぜ」
「しかも狙ったのは、伝説の聖獣モフモーフだろ? すげぇよなぁ!」
「ボンクラーノ様ってどうしようもない坊ちゃんだと思ってたけど、少し見直したよ」
「実をいうと俺もなんだ。もしこれでクエストを成功させて戻ってきたら、尊敬するな!」
「それにこの記念パーティのあと、今回の聖獣討伐に使った装備が売り出されるんだろう?」
「そうそう、だから多くの同業者が、このパーティにいるんだろうな!」
「聖獣討伐の装備となりゃ、少々高くでもみんな欲しがるだろうから、争奪戦になりそうだな!」
「ああ、ボンクラーノ様、早くお戻りになられ……」
歓談を楽しんでいた、とある冒険者がアーチの外を見やり、硬直した。
「おい、どうしたんだ? 急にポカーンとしたりして」
「もう酔ったのか? グラスを持つ手が震えてるぞ」
「あ、あれ……」
と指さした先を、仲間たちは目で追う。
そして、
「えっ!? ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
彼らが目を剥いた瞬間、入り口に並んでいた献花が吹き飛んだ。
……ドッ……!
ガァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
花の嵐を起こしながら、パーティ会場に突っ込んできた爆弾神輿。
突然の乱入者に、会場は阿鼻叫喚の渦に包まれる。
その勢いはとどまる事を知らず、テーブルや椅子をなぎ倒しながら場内を爆走。
最後は、特設ステージのあるゴージャスマート店舗に、ダイレクト入店っ……!
……ガッ……!
シャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンッ!!
神輿は店舗の中にめりこんで半壊。
神輿から突き出た十字が偶然にも、店舗の屋根から出ていて、さながら教会のようになっていた。
しかしその十字に磔られていたのは、神などではなかった。
ただの、ヘタレっ……!
自らの恥部を隠すことも許されず、すべてを曝け出すどころか、いたるところに屈辱的な落書きをされた、醜き肢体……!
しかも彼らの頭上にはくす玉があって、それが激突の衝撃でパカンと割れ、
『モフモーフの討伐に失敗しました』
紙吹雪とともに、クエストの失敗報告がはためき……。
「うわあああああああんっ! もう嫌だ! もう嫌だボーーーーンッ!! なんでボンがこんな目に! こんな目に遭わなくちゃいけないんだボンっ! パパっ! パパぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
「ぐわああああああああっ! 嫌じゃ! 嫌じゃ! こんなの嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ! 勇者であるワシが、なんでこんな目に遭わないといけないんじゃ! ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!」
その悲鳴はいつまでもいつまでも、街のなかにこだましていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『スラムドッグマート』と『ゴージャスマート』の伝説挑戦対決。
これは誰も予想しなかった意外なる結末で、幕を閉じた。
なんと両店とも、挑戦失敗……!
クエスト勝負というのは、普通、両者が達成し、どちらがより良い条件でクリアしたのかを競うものである。
でも今回は、両者とも失敗してしまった。
しかし勝敗は付けねばならぬので、前代未聞の判定方法が採用される。
なんと……!
どちらが無様に失敗したかを吟味し、勝敗を決する……!
これは、勇者と名門の聖女の対立とは思えないほどの、地味すぎる判定であった。
かくして両者の争いは、かつてないほどの低次元の争い、『くるぶし対決』へと突入するっ……!
……しかしその結果は、もはや言うまでもないだろう。





