38 完璧なるスクープ(ざまぁ回)
『勇者サゲ祭り』は、いよいよクライマックスを迎える。
……わーっしょい……わっしょい……わーっしょい……。
賑やかな掛け声が、森の奥から響いてくる。
……わーっしょい、わっしょい、わーっしょい!
だんだん大きくなってくるその声の主は、多くの人影であった。
人影たちは、輿を肩に担いでいて、祭り上げるように揺らしている。
オヤジ狩りに興じていた記者たちは、ふと手を止めて、迫ってくる声の方角に注視した。
「なんだ、あれ……?」
「あれは神輿といって、東の国の祭りの一種だな。ああやって神様を乗せた輿を担いで、街を練り歩くんだ」
「それは昔の話だろ? 昔は女神像とかを乗せてたらしいけど、今では勇者様を乗せてるらしい。神様と同じだからって理由で」
「そんなことはどうでもいいだろ! 問題なのは、なんであんなのが、こんな所にいるかってことだ!」
折り重なる樹冠に覆われた暗い森の中から、やがて差し込む光の下へと進む人影。
浮かび上がるように見えたその顔は、マスクに覆われていた。
「神輿を担いでいるヤツら、全員マスクを被ってるぞ? あのマスク、どこかで……」
「あっ、あれは、『ゴルドくんなりきりマスク』だ! スラムドッグマートで売ってるマスクだよ!」
「知ってる! グレイスカイ島でのゴーコンで、レジスタンスたちが被ってたマスクだろ!?」
「そのせいで、今やドッグレッグ諸国じゃ、あのマスクは反勇者の象徴になってるんだ!」
「ってことはアイツらは、反勇者の者たちってわけか!」
「反勇者のヤツらが担ぎ上げる神様って、いったい何なんだろうな!?」
「面白ぇ! せっかくだからスクープしようぜ!」
踏みつけていた泥まみれのオヤジたちを蹴り飛ばし、記者たちは真写機を構える。
わーっしょい! わっしょい! わーっしょい!
野良犬マスクたちが担いだ神輿は、いよいよ森の外へと出て、白日の元へと晒される。
反勇者の野良犬たちが、神様同然に担ぎ上げていたのは、なんと……。
勇者っ……!?
しかし、ただの勇者ではなかった。
すっぱだかの、勇者っ……!?
しかし、ただのすっぱだかの勇者ではなかった。
全身に落書きをされた、すっぱだかの勇者っ……!?
勇者はふたりいて、神輿の上に背中合わせになるようにして、大の字に縛り付けられていた。
これでは神様というより、罪人である。
罪人のひとりは、いま記者たちの足元で這いつくばっている、量産型オヤジタイプの勇者。
身体には『ニセ勇者』『ヘタレ』『バカ』『ガンクプフルでは変質者で捕まりました』などが書かれている。
もうひとりは、中肉中背の若者。
身体には『クソ坊ちゃん』『ヘタレ』『バカ』『これからロンドクロウの変質者になります』などが書かれていた。
どちらもさんざん泣き喚いたのか、酸素の足りない鯉みたいにパクパクさせる口から、枯れた声を絞り出すばかり。
「うっ……も、もう、やめ……今ならまだ、許して……やる……」
「とっ……撮るな、ボンっ……。ぱ、パパに……言いつけて……やる……」
その罪人コンビが何者なのか、記者たちはすぐにわかった。
「あああっ!? ボンクラーノ様に、ステンテッド様じゃないか!?」
「い、いったい何があったっていうんだ!?」
「身ぐるみ剥がされただけじゃなくて、落書きまでされて、晒し者にするだなんて……!」
そして一斉に、神輿を取り囲む。
「野良犬マスクさん! あなた方はいったい何者なんですか!?」
「この世界では神様同然の勇者様に、なんてことをするんですか!?」
「しかも、ブタフトッタ様のご子息であるボンクラーノ様をこんな目に遭わせるだなんて、まさに神をも恐れぬ所業です!」
自分たちがしていたことは棚に上げて、責めるようなインタビューを開始する。
しかし野良犬たちは彼らを弾き飛ばすように、声を荒げた。
「俺たちゃ、勇者にさんざんこき使われたあとに、捨てられたんだ!」
「それも、ゴミみたいにな! 今までずっと我慢してきたが、もう限界だ!」
「俺たちはもう勇者を信じない! 自分たちの力だけで生きるっ!」
「これは勇者への宣戦布告だっ! この国にいる勇者は、みな生き恥をかかせてやるんだ!」
「今から俺たちがすることを、よく見ていろ! そして国じゅうに伝えるんだっ!」
野良犬マスクたちは割れた人垣を抜けて、丘の頂上をずんずん進んでいく。
そして、街へと繋がる坂道の前で、神輿を下ろした。
神輿は車輪がついていて、担いでいなくても自立するタイプである。
それを、なんと……。
「いくぞおっ! せぇーのっ!!」
ガラガラガラガラガラッ!!
麓の街めがけて、押し離したっ……!!
神輿に縛り付けられていたふたりの勇者は、もはや枯れたはずの喉から絶叫を絞り出す。
「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
ドップラー効果のような残響と、風にまぎれて消える涙の粒を残しながら……。
あっという間に小さくなっていった。
神輿はジェットコースターのように急降下し、丘の麓でジャンプ。
街の大通りへと着地し、坂道を転がるように爆進する。
それは、新手の処刑が執行されたような、衝撃的な瞬間。
記者たちも我を忘れるほどの、ショッキング映像であった……!
「ぼ……ボンクラーノ様とステンテッド様が、全裸ラクガキのまま街へと落とされたぞ!?」
「こりゃ、どんな結果になっても大スクープ間違いなしだっ!」
「追うぞっ! あのふたりが街中で、生き恥を晒している所を撮るんだ!」
「行先によっては、ふたりとも死んじまうだろうな!」
「マジかよっ!? あんな格好で死んだら、末代まで笑い者になるじゃねーか!」
「そんな決定的瞬間を残せたら、表彰モンだぞっ!」
……今も昔も、歴史的スクープの定義というのは変わりはしない。
それは『スキャンダル』と『死』である。
スキャンダルというのは言うまでもなく、不貞や汚職などの、『醜い事件』。
『死』というのはそのままで、事件や事故などで死にゆく、『不幸な事件』。
より醜く、人としての品性を疑うような事件に、人々は引きつけられ、束の間の正義感を感じ、怒りを燃やす。
より痛ましく、目を背けたくなるような死に様に、人々は目を奪われ、束の間の慈悲心を感じ、心を痛める。
理想は、対岸で起こる火事。
風に乗って熱さが伝わってくるほどのリアリティがあるが、間に川があって、自分は絶対に安全……!
今回の『勇者サゲ祭』は、『スキャンダル』の要素はじゅうぶんであった。
しかし勇者たちは負傷こそすれ、死者はひとりもいない。
だがここで、大いなる爆弾が投下された。
『勇者サゲ神輿』という名の、特大爆弾が……!
もし神輿がブロック塀などに激突するようなことがあれば、乗っていた勇者たちは、壁に叩きつけられたトマトのようになるのは間違いない。
そう……!
『スキャンダル』に加えて『死』の要素が追加されるっ……!
勇者たちは民衆に嘲笑されながら、哀れに昇天するとともに……。
歴史に残るほどの『完璧なるスクープ』へと、昇華するのだ……!





