36 敗走(ざまぁ回)
ボンクラーノといっしょにモフモーフ討伐に出た勇者の階級は『座天級』だったのですが、諸事情により『主天級』に変更させていただきました。
ユニコーンがいるという森の外で、報道陣たちは待ち構えていた。
うなだれたプリムラたちが出てくるなり、すぐさま取り囲んで質問攻めにしたのだが、クエスト失敗とわかるや、潮が引くように去っていく。
誰もが去り際に、捨て台詞を残して。
「あ~あ、結局クエスト失敗かよ」
「しかもユニコーンを見つけられずに失敗なんて、最低じゃねぇか」
「せめてユニコーンを取り逃がしたとかなら、まだ記事になるってのによ」
「せっかく朝から待ち構えてたってのに、完全に無駄足だったなぁ」
「聖女の名門であるホーリードール家がユニコーンに挑むって言うから、期待してたのによぉ」
「あの聖女サマたち、見た目もより清らかじゃねぇのかもよ?」
「こうなったら、そっち方面で記事にするしかねぇよなぁ、『ユニコーンまたぎの聖女サマ』ってな!」
責めるような視線を向け、ヒソヒソ話をする記者たちに、プリムラは頭を下げ続ける。
マザーは気にする様子もなく、ニコニコと手を振り続けていた。
記者たちの陰口は止まらない。
「あれだけブチあげといて、この体たらくじゃ……今回の勝負はゴージャスマートの圧勝だな!」
「そりゃそうだろ、あっちは失敗なんてありえないからな! なんたって、勇者様のパーティが50組だぞ!」
「しかもみんな主天級ともなれば、相当な手練れ揃いだから、モフモーフも目じゃねぇだろうな!」
「じゃあさ、今からでもボンクラーノ様のほうに取材に行ったほうがよくないか?」
「そうだな、他のヤツらにスクープを横取りされる前に、行ってみよう!」
「まったく、こんな見た目ばっかりの聖女サマに、期待した俺たちがバカだったぜ!」
今回、各新聞社は記者を総動員して、両店の取材にあたっていた。
人員配分としては半分ずつだったのだが、スラムドッグマート側のクエストは失敗だったので、これ以上の取材は意味がない。
誰もが急いで馬車に乗り込み、スラムドッグマートの女性陣たちに、後ろ足で砂埃をかける勢いで去っていく。
この時点で取材陣たちは誰もが、ゴージャスマートの勝利を確信していた。
しかし、もはや言うまでもないだろう。
それは、『決してそんなことはない』、ということに……。
でも取材陣たちは、たとえ『ゴージャスマート側のクエストも失敗した』と聞かされていても、取材に行くのをやめなかっただろう。
なぜならば彼らの意識は、こうシフトするだけだから。
『なに? スラムドッグマートだけじゃなく、ゴージャスマートのクエストも失敗した?』
『それでも取材にいく価値は、こっちよりあるだろう!』
『そうそう! いくらなんでも、スラムドッグマートよりひどい失敗なんて、ありえないからな!』
『なんたって、50人もの勇者様がいるんだ! 勇者様がタダで転ぶわけがないだろう!』
『そうそう! きっと俺たち記者に、偉大なる発見と、新たなる特ダネをもたらしてくださるだろうさ!』
彼らの考えは、半分当たっていて、半分ハズレていた。
では……そろそろ……。
モフモーフに挑戦した勇者たちの、最後の顛末を見てみようではないか……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
モフモーフのいる洞窟に挑んだ先発隊の勇者たち50組は、モフモーフの影すら見ることなく、道中で罠やモンスターにやられ、撤退していた。
彼らは命からがら洞窟から這い出すと、我先にと輿に乗って帰還をはじめる。
もうボンクラーノのことなどおかまいなしで、自分が逃げることだけしか頭にない。
『失敗したら真っ先に逃げる』のは、彼らが勇者組織で生き抜くための知恵のひとつだった。
なぜならば、最後まで居合わせたら、失敗の責任をなすりつけられる可能性があるから。
彼らはそのあたりの意味でも『ベテラン勇者』だったので、見切りも速かった。
本来ならばその決断は、被害を最小限にくいとめてくれる、英断のはずだったのだが……。
今回ばかりは裏目に出た。
彼らは朝、洞窟に向かったのと同じルートを逆戻りして、街へと戻ろうとしていたのだが……。
なんとその途中の森で、野盗の集団に出くわしてしまったのだ……!
しかも野盗のメンツは、見覚えのある者たちばかり……!
そう、行きがけの途中、使い捨てにした従者たち……!
「よくも俺たちを、ゴミみたいに扱ってくれたな!」
「今までは我慢したたけど、もう許さねぇ!」
「いままで虐げられた恨み、ここで全部晴らさせてもらう!」
最初、勇者たちは彼らの脅しには屈せず、威圧的に振る舞った。
「なんじゃ貴様らは! 勇者であるワシにこんなことをして、ただですむと思っとるのか!」
普段であれば、組織の大きいところを見せつけてやれば、大抵の輩は大人しくなるのだが……。
もはや彼らは怖いものなど無い、『無敵の人』となっていた。
ブランドが通用しないとなると、勇者たちは一転。
オヤジ狩りにあう中年ハゲデブオヤジに成り下がる。
「わ……! ワシが悪かった! ま、また雇ってやるから、許してくれ!」
「欲しいものならなんでもやるぞ! 金か、ほらっ、好きなだけ持っていけ!」
「これだけやっても、まだ足りないというのか!? くっ……! な……なら、女もやろう! ほら、好きなほうをもっていけ! 聖女と魔導女どっちがいい?」
ついには、同行させていた妻を売るオヤジまで……!
「ゆ……勇者様!? なんということをっ!? 私たちを物みたいに差し出すだなんて!」
「あんまりです! 今まで勇者様ひとすじでお仕えしてきたのに!」
「うるさい黙れっ! ワシはもうお前らには飽き飽きしてたんじゃ! しっしっ、あっちへ行け!」
結局、聖女と魔導女は野盗からも受け取り拒否され、彼女たちはどちらの男からも相手にされないという、たとえようのない屈辱を味わう。
そして勇者たちはというと、とんでもない姿にさせられていた。
その頃、取材陣たちはというと、森の中に野盗がいるとも知らず、森の外で出待ちをしていた。
地形的には、森は小高い丘の上に位置している。
この丘から、森を奥に進むとモフモーフがいる山へと繋がり、森を出て丘を下ると街になっている。
そのため、丘の上はかなりの人で賑わっていた。
スラムドッグマートに取材に行っていた記者たちも合流し、その数はどんどん膨れ上がっていく。
この国すべてのマスコミが集結し、世界的スターの来訪もかくやという大賑わいを見せていた。
誰もが、凱旋する勇者の勇姿を真っ先に収めようと、森の奥に向かって真写機を構えていたのだが……。
彼らのファインダーが捉えていたのは、信じられない光景であった。
なんと……。
すっぱだかの、オヤジの群れっ……!?





