26 清らかな乙女たち
女性陣が、かりそめのオッサンを求めてしまうのも無理はない。
なぜならば彼女たちは、ユニコーン挑戦にあたり、1週間前から男子禁制を強いられていたから。
ユニコーンは男のわずかな残り香にも敏感に反応するという性質があるので、それを完全に消し去る必要があったからだ。
今回参加したメンバーは、そもそも男にはあまり興味がなかったので、それ自体はあまり問題にはならなかった。
しかし何よりも問題だったのは……。
『禁オッサン』を強いられたこと……!
リインカーネーションは日常的に、事あるごとにオッサンに抱きついていた。
いつもであれば、寸前で肩を抱きとめられて阻止されるのだが、今回は、
「マザーはユニコーンのクエストに行くのでしょう? でしたら、男性と接触してはいけません」
オッサンは肩を抱いてくれるどころか、スラムドッグマートで売っている『ゴルド君マジックハンド』でマザーを押し返していた。
それは、前代未聞の光景。
いまやドッグレッグ諸国においても、ナンバーワンと目される大聖女が……。
小学生に襲いかかった変質者が、サスマタをくらったようにのけぞる姿が、連日のように衆目に晒されていたのだ。
マジックハンドで追い返されたのは彼女だけではない。
わんわん騎士団もビッグバン・ラヴも、全員……。
オッサンから、拒絶されていたのだ……!
プリムラは、今回の参加メンバーがどれだけオッサンを渇望していたかを、ずっと目の当たりにしていた。
そのため、クーララカにオッサンの重ね合わせる彼女たちを見て、より一層落ち込んでしまう。
うなだれるプリムラを見かねた仲間たちが、ことさら明るく言った。
「あらあら、まあまあ。どうしたの、プリムラちゃん? せっかくこんな素敵な場所に来たのだから、そんな顔をしないで、ねっ?」
「ぷりたん、げんき、だうー!」
「そ……そうだぜガキんちょ! こんないい所にいるんだから、シケたツラしてんじゃねぇよ!」
「そうそう! ゴルドウルフさんがいなくったって、あーしら平気だし! ねっ、ブリっち!」
「ふーん、たまにはこういうのもいいじゃん」
「だらしないわねぇ、プリムラ! アンタそれでも我が『わんわん騎士団』の専属衛生兵なの!? 我が騎士団憲章を言ってやりなさいよ、グラスパリーン! って、なんで腹の虫が鳴ってんのよ!?」
「ひえぇ……! すみませぇん!」
「わうっ! わうも、おなかがすいたのです!」「右に同じのん」
「あらあら、まあまあ。それじゃあまず、お弁当にしましょうか。やっぱりピクニックといえば、おいしいお弁当よね!」
それから少女たちは、マザーお手製の弁当に舌鼓を打つ。
おなかがいっぱいになったあとは、湖の前の草原で遊んだ。
ボール遊びをしたり、ダンスをしたり、お絵かきをしたり……。
そして鬼ごっこで遊んでいる最中、白馬の群れが遠巻きに見ていることに気付いた。
「あらあら、まあまあ、お馬さんがいるわね。みんな、こっちにいらっしゃい! ママたちといっしょに、鬼ごっこをしましょう!」
マザーの呼びかけで近づいてきた馬がちが加わって、場はさらに賑やかになる。
「すっげー真っ白な馬だなぁ、こんな白馬見たことないぜ!」
「わうっ! こんな白い馬、かみさまの山にもいないのです!」
「うふふ、とってもかわいいです!」
「あっはっはっはっはっ! もうすっかりいつものプリっちだし! プリっちってば、動物好きじゃなくなくない!?」
「どの馬も、なかなかいい毛並みしてるじゃない! 我がわんわん騎士団のポニーほどではないけど、見所があるわねぇ!」
「ひゃああんっ! 舐めないでくださいぃ!」
「舐めているのは、これから食べようとしている証のん」
「おうまたん! おうまたん!」
「あらあら、この子馬さんはパインちゃんが大好きみたいねぇ、もしかして、同い年なのかしら?」
少女たちが白馬と戯れる様を、無言でパシャパシャと真写におさめるグラスストーン。
ひとしきり遊んだあとは、木陰でひと休み。
白馬たちも擦り寄るようについてきて、少女たちに甘えるように膝に頭を乗せた。
「うふふ、みんな、甘えんぼさんでちゅねぇ~。いいんでちゅよぉ、ママたちのお膝でお昼寝しまちょうねぇ~」
少女たちはマザーにならい、膝の上の白馬を撫でる。
いつしか白馬たちは、安らかな表情で眠りについた。
慈しむようにたてがみを撫でながら、プリムラがつぶやく。
「うふふ。パインちゃんも、お馬さんといっしょになって眠っています。こうしてると、姉妹みたいですね」
「コイツら群れでいるってことは、この森に棲んでる馬なんだろうな」
「わうっ! 森にいる馬さんがこんなに懐くのって、珍しいのです!」
「馬に膝枕するなんて初めて! それも野生の馬だよ!? マジ、やばくなくなくないっ!?」
「バーちゃん、寝てるんだから静かにしないと」
「それにしても、このアタシに膝枕を要求するなんて、いい度胸してるわねぇ」
「目覚めたら馬刺しのん」
「このお馬さんたちを、食べちゃうんですかぁ!?」
彼女たちだけでなく、クーララカや同行している女騎士たちの膝にも白馬が寝ている。
その愛らしさと人懐っこさに、誰もがすっかりメロメロであった。
しかしふと、それまで無言を貫き、影武者に徹していたグラスストーンが口を挟む。
「あの……ちょっと、すいません。みなさん動じられていないので、最初はさすがだと思っていたのですが……。もしかして、気付いていないのかと思いまして」
彼女も膝を白馬に占領され、動きにくそうにしながらも、器用に真写を撮り続けている。
皆を代表して、彼女の姉であるグラスパリーンが訪ね返す。
「どうしたの、ストーンちゃん。なにかあったの?」
姉のその一言で、グラスストーンは確信する。
「あの、みなさん落ち着いて聞いてくださいね。特に姉さんは、私がこれから言うことを聞いても、大きな声を出さないようにしてください」
「えっ? どうしたの、ストーンちゃん。大丈夫、お姉ちゃんは滅多なことじゃ、大きな声を出したりしないから」
「じゃあ、決して驚かずに聞いてください。みなさんの膝にいるの、ユニコーンです」
「えっ……? むぎゅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
グラスパリーンの絶叫は、すぐ隣にいたミッドナイトシュガーが口を塞いでくれたおかげで、響き渡らずにすんだ。





