27 前途多難
プリムラたちが、森で衝撃展開を迎えていた頃……。
フォンティーヌお嬢様は、モフモーフがいるという洞窟の中を進んでいた。
尖兵であるシュル・ボンコスを先頭に、ボンクラーノ、ステンテッドが続く。
しんがりに、フォンティーヌとバーンナップ。
洞窟の中ではひっきりなしに、先行隊である勇者パーティの絶叫が響いていた。
モンスターに追い立てられ、罠にかかり、道に迷った彼らの悲鳴を避けるようにして先に進む。
「しゅるしゅる、彼らの声がする方角は、危険かつ探索済みと見てよいでしょう。声のしない方向に進んでいけば、モフモーフがいる最深部へとたどり着くはずです」
「まだなのかボンっ! ボンは疲れたボンっ!」
「も、もう、げ、限界、じゃ……!」
「まだ、100メートルも進んでおりませんが……しゅるっ!?」
振り返ったシュル・ボンコスは面食らう。
危険な洞窟のど真ん中だというのに、クソ坊ちゃんが駄々っ子のように寝転がっていたからだ。
しかもその隣には、総合格闘技の試合で惨敗した元力士のように、ステンテッドが伏していた。
「ふたりとも起きてください! こんなところで寝ていては、危険です!」
しかしクソ坊ちゃんは、泣く子と地蔵を足した最強の厄介者ばりに、頑として動こうとはしなかった。
「それをなんとかするのがお前の役目ボン! 喉が渇いたボン、バーンナップ! 水が欲しいんだボン!」
しかしバーンナップはガン無視。
「バーンナップ、ボンクラーノ様にお水を差し上げるのです」
バーンナップはフォンティーヌに促されてようやく、しぶしぶバックパックから水筒を出し、クソ坊ちゃんに投げつけた。
今回、バーンナップは前衛兼、荷物持ちとしてパーティに参加している。
パーティ内では最年少であり、小学生の女の子である彼女にすべての荷物を持たせるとは、児童福祉法に抵触しそうな暴挙であったが……。
バックパックには容量拡張と重量低減の魔法練成が掛かっているのと、とても背負いやすい構造になっていたおかげで、彼女への負担はほどんどなかった。
ちなみにこれは、ゴージャスマートの品物ではない。
お嬢様の見立てで、ゴージャスマートのバックパックは品質が良くないということになったので、スラムドッグマートで買い与えられたものである。
しかしバレると後々面倒なので、ゴージャスマートのカバーをかぶせて誤魔化していた。
水筒の水をぜんぶ飲み干してしまったクソ坊ちゃんは、ゲップとともにとんでもないことを言い出す。
「げふぅ! 水をたくさん飲んだら、なんだか歩きたくなくなってきたボン! ここから先は、ボンをおんぶして進むボン!」
「しゅるっ!? 洞窟でおんぶなどしてしまったら、身動きが取りにくくなります。それは背負っている者だけでなく、ボンクラーノ様まで危険に晒してしまいます。どうかわがままを言わずに、自分の足で歩いてください」
しかしクソ坊ちゃんは納得するどころか、「わがままとは何だボンっ!?」とシュル・ボンコスめがけて水筒を投げつけた。
……ガスッ!
額に一撃を受け、蛇のような頭から血が流れる。
これにはさすがのシュル・ボンコスもキレそうになってしまったが、
「役立たずのクセに人に意見するなんて、あのオッサンみたいボン! でもあのオッサンはボンを背負ってモフモーフの所まで連れて行ったボン! お前は、あのオッサン以下だボン!」
その一言で、シュル・ボンコスの怒りはさらに増大する。
しかし矛先は、別の人物へ……!
「しゅるしゅる、ふしゅるるるる……! しゅるがあのオッサン以下というのは、ありえないのです……! 承知しました、このしゅるが背負って、いいえ、肩車をして、モフモーフの所までご案内しましょう……!」
オッサンにライバル心を刺激されるあまり、シュル・ボンコスはボンクラーノを肩車した。
おんぶよりも肩車のほうが位置が高いので、より偉いという幼稚な考えからである。
彼は、どんなことがあっても我を忘れず、狡猾なまでに冷静な蛇男なのであるが……。
オッサンが絡むと、その知能はミミズレベルに落ちてしまうようだった。
しかし元よりミミズ脳だったボンクラーノには大好評。
「おおっ、高くて気持ちがいいボン! この肩車のまま、モフモーフをやっつけてやるボンっ! シュル・ボンコス、お前はあのオッサンよりも、ずっと優秀ボンっ!」
「しゅるしゅる……! ようやくおわかりいただけましたか。尖兵の名家であるボンコス家が、ただのオッサンに劣ることなどありはしないのです」
意気揚々と再出発するクソ坊ちゃんとミミズ男。
しかしその第一歩目で、ミミズ男の足が床の窪みに取られてしまい、
……ズダァーーーーンッ!
ふたりまとめて、勢いよく地面に叩きつけられていた。
この勇者パーティは、洞窟に入ってまだ100メートルも進んでおらず、モンスターにも出会っていないというのに……。
すでに洞窟の最深部であるかのような、地獄絵図を展開していた。
「うう……」と呻きながら地に這いつくばる、ボンクラーノとシュル・ボンコス。
「も、もう、ダメじゃ……!」と血の海ならぬ汗の海に、ガックリと沈むステンテッド。
さすがのお嬢様も、この体たらくには不安を感じずにはいられない。
「こんな調子で……モフモーフなんて見つけられるんですの?」
そこから先はフォンティーヌが先頭に立ち、だらしない男たちを導く。
するとお嬢様の持ち前の幸運が発揮されたのか、多少のトラブルはあったものの、脱落者をひとりも出すことなく……。
ついに、モフモーフの巣にたどり着く。
そこは一面の藁が敷き詰められていたのだが、藁はツヤツヤでまるで豊作の小麦畑のように光輝いていた。
藁もふわふわで、まるで雲の上を歩いているかのよう。
おそらく蜜の匂いなのであろう、あまくて芳醇な香りに満たされている。
奥には、ひときわ高く積まれた藁の上に、巨大な黒い毛玉が。
大型のクマのようなそれは、大岩のような存在感がある。
でもいまは寝ているのか、身体をわずかに膨らませ、また戻るといった規則的な動きを繰り返している。
お嬢様は巣をひととおり見回して安全を確認したあと、後続の者たちを手招きした。
「モフモーフは寝ているようですわ。寝ている間に歓迎パーティの準備をしてしまいましょう」
お嬢様の考えた、『モフモーフの蜜ゲット作戦』はこう。
モフモーフが寝ている間に、巣に飾り付けをし、モフモーフの好物や、好きそうなオモチャをまわりに並べる。
そしてモフモーフが起きたときに、極めて友好的な態度で接する。
そのまま仲良くなって、蜜を分けてもらう……というものであった。





