23 クエスト出発
『スラムドッグマート』と『ゴージャスマート』、両陣営はついに伝説達成に向けて、クエストに出発した。
『スラムドッグマート』側のパーティ構成は、リーダーであるプリムラを筆頭とし、
尖兵として、ランとチェスナ。
前衛の戦士として、クーララカとシャルルンロット。
さらにホーリードール家に仕える、騎士30名。
後衛の魔導女として、ビッグバン・ラヴとミッドナイトシュガー。
そして聖女として、リインカーネーション。
オマケとして、パインパックとグラスパリーン。
取材班兼、グラスパリーンの保護者として、グラスストーン。
総勢42名という、かなりの大所帯であった。
それでも聖獣を相手にするのであれば、これでも少ないくらいである。
しかし今回はユニコーンという、特殊な相手なので、闇雲に戦力を集めれば良いというわけではなかった。
なぜならば、オッサンもプリムラに諭していたとおり、ユニコーンは特定の人物しか相手にしないためである。
そう、『清らかな乙女』オンリー……!
ユニコーンは、男の匂いが少しでもすると姿を現さない。
しかもタチが悪いことに、女であっても清らかでないとユニコーンに判断されてしまった場合は、角で突き殺されてしまうことあるという。
そのため、今回のパーティメンバー選定においては、厳選に厳選が重ねられた。
そうして選ばれた42名は、『清らかな乙女においても、さらに清らかな乙女』といっていいだろう。
まさに、乙女の大吟醸……!
本来であるならば、この真珠のようなお米たち、いや乙女たちの園に、雑穀のようなオッサンが混ざる予定であった。
そして研ぎ澄まされた身体を、惜しげも無く晒す予定だったのだが……。
オッサンが不参加となったので、ビキニアーマーの着用はナシとなった。
さらに余談となるが、大魔導女のミグレアがかつて、勇者クリムゾンティーガーとユニコーン討伐のクエストを行なった際、突き殺されかけたことがある。
その時は、尖兵として同行していたオッサンが身を挺して助けてくれたので、ミグレアは事なきを得ていた。
ちょうど勇者の話題が出たので、『ゴージャスマート』勢のパーティ構成を見てみよう。
リーダーはもちろん、勇者ボンクラーノ。
尖兵として、シュル・ボンコス。
そしてボンコス家の名誉をかけて、選りすぐられた者たちが50名。
前衛の戦士として、バーンナップ。
そして今回の件を聞きつけ、屍肉にたかるハエのように集まってきた、有象無象の勇者50名。
後衛の魔導女として、勇者たちに仕えている魔導女たちが50名。
そして聖女兼魔導女として、フォンティーヌお嬢様。
取材班兼太鼓持ちとして、仮勇者ステンテッド。
さらに、勇者に仕える400名の従者たち。
なんと総勢555名という、超・大所帯っ……!
これはもはや冒険者パーティというよりも、軍隊に近いレベルであった。
ちなみにではあるが、この者たちはパーティ単位で組になって、個別行動する予定になっている。
ボンクラーノ、シュル・ボンコス、バーンナップ、フォンティーヌ、ステンテッドのパーティで1組。
勇者と魔導女と聖女と尖兵という組み合わせのパーティが50組。
ようは51組のパーティでもって、モフモーフの討伐にあたるわけだ。
なぜこのような構成になっているかというと、モフモーフのいるという洞窟は広大な迷路になっているので、手分けして探したほうが効率が良いためである。
それではあまった400名の従者は、なにをするのかというと……。
ただの、足っ……!
彼らは8人でひと組になって、それぞれ勇者パーティに付く。
そして目的地の洞窟まで、輿を担ぐのだ。
『輿』というのは簡単にいうと、中に人間が乗れる神輿のようなものである。
なんと勇者たちは、自分の足で歩くこともせず……。
神様のように下々の者に担がせて、悠々と冒険しようというのだ……!
そもそも今回の冒険は、この国のメイン顧客である戦士たちに、成果をアピールするために始めた事である。
彼らはみな一介の冒険者に過ぎないので、現地まで自分の足で向かい、神輿などに乗ることは決してない。
のっけから、かなり庶民感覚からズレた冒険となっていたが、これには理由があった。
かつてのクリムゾンティーガーのように、階級の低い勇者であれば輿に乗ったりはせず、自分の足で歩くのだが……。
今回同行した勇者連中は、みなヘタに高位だったのだ……!
ボンクラーノの鶴の一声、いいや、正確にはブタフトッタの一声で集められた勇者たちは、みな主天級。
企業でいえば大きな会社の部長クラスであり、勇者組織においては経営層に片脚を突っ込んでいるような者たちである。
彼らもかつては自らの足で冒険に出て、多くの武勲をたててきた者たちであるのだが……。
ほとんどが、冒険すること自体が久しぶり……!
彼らはこれから殺し合いに行くというよりも、接待ゴルフにでも行くような緊張感のなさ。
輿のなかで魔導女と聖女をはべらせ、戦いの前だというのに遊蕩ざんまい。
道中、モンスターの奇襲にでもあったら悲惨なことになりそうだったが、そうはならなかった。
なぜならば、数の多さが幸いし、誰も襲ってこなかったのだ。
400名規模の大軍勢を相手に、襲ってこれる者はいないだろう。
しかも高名な勇者たちの集団となれば、なおさらであろう。
勇者と魔導女と聖女は、お大尽気分で、モフモーフがいるという秘境に分け入っていく。
大変なのは、輿に乗せてもらえなかった尖兵。
そして、輿を担がされている従者であった。
彼らはひとつの輿にあたり8人で付いて、交代で担いでいたのだが、道中の深い森や険しい山に疲弊し、次々と脱落していく。
勇者一行はそんな彼らを『役立たず』『ゴミ』『そのまま死ね』などと罵って、置き去りにしていった。
従者たちは車のタイヤのように、すり減った時点で捨てられていったのだ。
もし、この勇者の大行軍のなかにフォンティーヌがいたら、勇者に激怒し、従者たちを必死に救ったであろう。
しかし、フォンティーヌはこの残酷な事実を知らなかった。
なぜならば、彼女とバーンナップ、そしてシュル・ボンコスは、ひとあし先にモフモーフがいるという洞窟に到着しており、ボンクラーノたちが到着するのを迎える役割だったからだ。





