24 地獄絵図(ざまぁ回)
モフモーフがいるという洞窟は、『ロンドクロウ小国』の王都より遙か西にあった。
秘境といわれる田舎の長いあぜ道を歩き、地元の者でも近寄らない大きな森の獣道を抜け、前人未踏のような霊峰の道なき道を登り、ようやくたどり着く。
しかし勇者と魔導女と聖女は輿に乗っていたのでぜんぜん疲れていない。
歩いてきた尖兵たちはクタクタで、輿を担がされていた従者は死屍累々。
勇者たちは、ここまで案内してくれた者たちに感謝の言葉ひとつ与えない。
それどころか、量産型ステンテッドのようにだらしない身体を揺らしながら、
「これから、ボンクラーノ様のお言葉があるんじゃ! さっさと整列せんか、ゴミどもが!」
倒れている者たちに唾を吐きかけ、駄馬のごとく蹴り上げる始末であった。
しばらくして、洞窟の前に整列した勇者パーティに向かって、ボンクラーノはエッヘンと声を張り上げる。
「ではこれより、モフモーフがいるという洞窟の探索を始めるボン! 勇者単位で分かれて、モフモーフを探すボン! なおモフモーフは夜行性なので、いまは寝ているはずボン! 見つけたら、いま配った魔導装置で連絡するボン! これは最新の伝声技術を利用した、持ち運び型の伝声装置ボン! まだ試験運用の物ではあるものの、パパがくれたものだから、きっと役に立つボン! それでは、出発ボンっ!」
ボンクラーノの号令にあわせ、意気込んで洞窟へと飛び込んでいく、ベテラン勇者たち。
ここで活躍したところで、手柄はすべてクソ坊ちゃんに持っていかれるのは目に見えているのだが……。
彼らはいつになく張り切っていた。
たとえモフモーフ討伐の手柄をクソ坊ちゃんに横取りされても、それで気に入られれば、彼の父親であるブタフトッタとお近づきになれるからだ。
勇者組織のナンバー2ともいえる人物とのパイプが得られるのであれば、聖獣の一匹や二匹、安いものである。
欲と怠惰、邪悪と陰謀に満ちたクエストの幕が、ついに切って落とされた……!
勇者たちはスキあらば、ライバル勇者を蹴落とそうと画策していたのだが……。
そんな、世にも醜い地獄絵図が展開されることはなかった。
なぜならば……。
彼らはそれ以前の問題であり、それ以上の問題を抱えていたから……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あいたっ!? 窪みに足をとられ、ぐねってしまったではないか! おい、尖兵! なぜ注意しない!?」
「えっ!? こんな暗い洞窟で、そんな窪みを注意しろだなんて、ムチャっすよ!?」
「この、役立たずめ! ワシが冒険してた頃の尖兵は、窪みを注意するどころか、それをすべて埋めて歩きやすくしていたぞ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ちょ、ちょっとぉ!? 天井から汚い水滴が垂れてきて、ローブに付いちゃったじゃない! なんで水滴を受け止めてくんなののよ!? このローブ、高かったんだからね!」
「ええっ!? 洞窟の天井から垂れてくる水滴をいちいち受け止めるなんて、できっこないっす!」
「たったそれだけのこともできないなんて、バッカじゃないの!? アンタより前に勇者様に仕えていたオッサンは、アタシに一滴も水滴を付けなかったわよ!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「疲れたーっ! あたしもう歩けない! ちょっと尖兵! おんぶして!」
「ええっ!? まだ洞窟に入って100メートルも歩いてないっすよ!? それにおんぶしたら、尖兵の仕事がおろそかに……」
「ハァ!? そんなわけねーだろ! だいぶ前にいっしょに冒険したオッサンは、あたしをおんぶしながら洞窟を探索してたよ! 気持ち悪いオッサンにできて、お前にできないってのかよ! 使えねーな!」
……今回同行した勇者パーティには、ふたつほど共通点があった。
ひとつは、出世してから自力の冒険には一切出なくなっていたこと。
いちおう冒険には出ていたのだが、輿に乗ったまま、パーティメンバーに顎で指示し、自分はなにもしない。
それで冒険の成果だけは自分のものにして、戦勇者としての対面を保っていた。
そして、もうひとつの共通点は……。
徒歩で最後に冒険したのは、だいぶ昔の話で……。
その時の尖兵が、オッサンであったということ……!
そう……!
この洞窟にいる50組もの勇者パーティは、すべて……。
『オッサンチルドレン』であったのだ……!
オッサンにかかればどんな冒険もパックツアーになってしまうので、その時の感覚のままでいるのだ。
それが探索の時であれば、まだいいのだが……。
モンスターと遭遇してしまったら、要求のハードルは、さらに高くなってしまう……!
「おおっ、ジャイアントスケルトンがおるぞ! ひさしぶりに、ワシの大剣技を見せてやるとするかっ!」
「いいえ、勇者様の出るにはおよびませんわ! この私の大魔法で……!」
「いえいえ、魔導女さんはもうお歳を召されているでしょう!? この私の大浄化で……!」
一斉に、一大スキルの発動準備を始める、勇者、魔導女、聖女トリオ。
ジャイアントスケルトンの薙ぎ払いを受け、揃って壁に叩きつけられていた。
自分ひとりだけ難を逃れた尖兵が、慌てて壁から引っ張り出す。
「ちょ、大丈夫っすか!? なんで避けないんですか!?」
「「「お前、なんでオトリにならないんだよぉーーーーーーっ!?!?」」」
「ええっ!? 僕に盾役までやれって言うんっすか!? 軽装の尖兵がそんなことをしたら、一撃で死んじゃうっすよ!?」
「「「オッサン、オッサンはぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」」」
「ぐっ……! ぐぐぐっ! わかったっす! ボンコス家の名誉にかけて、オッサンより優秀であることを、証明してみせるっす! うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!」
どべしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うっ……ううっ、な、なんとか、倒せ、たっ、す、ね……」
「ハァ? なんでアンタなんにもしてないのに、なに『倒せた』とか言ってんの? バカみたい。それに、ひとりで死にかけてるだなんて、キモいんですけど」
「そのケガは、ご自分でなんとかしてくださいね。遊んでいただけのあなたに、かけてあげる祈りなんてありませんから」
「そ、そんな! 僕は命がけでオトリになったんっすよ!?」
「オッサンはこのくらいではケガしませんでしたよ?」
「おい、そんなことよりも、また新手じゃ! 今度はジャイアントスケルトン3匹じゃぞ!」
「よぉーし、勇者様! 今度はみんなでいっぺんに、派手にキメちゃおうよ!」
「……」「……」「……」
「「「って、魔力がもうないいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーっ!?!?」」」
「尖兵、なんで教えてくれなかったのよ!?」
「そうですよ! 私たちのマナの管理も、あなたの仕事でしょう!?」
「そっ、そんなっ!? 道を直して水滴払っておんぶして、罠を解除してモンスターを警戒してオトリになって……そのうえ、マナの管理までするだなんて……そんなの、超人でもないと無理っすぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!?!?」
どべしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!





