20 伝説挑戦
そして、ついに伝説挑戦の日がやってきた。
本件には、様々が偶然が重なっていたが、最後まで奇妙なる偶然がつきまとう。
なんと、『スラムドッグマート』の掲げた『ユニコーン挑戦』と、『ゴージャスマート』の掲げた『モフモーフに挑戦』が、同日にクエスト出発とあいなったのだ。
事前の両店のマイクパフォーマンスから、マスコミは今回の挑戦を、『聖女たちの聖獣聖戦』……。
略して『三聖』と銘打ち、大いに紙面で取り上げていた。
前回のガンクプフル小国での『合同新製品発表会』の引き分けの結果まで持ち出され、その決着を今回のクエストで付ける、といった話にまで及ぶ。
勝利したほうは、この『ロンドクロウ小国』の冒険者たちの心を掴み……。
両店が火花を散らしている商戦に、決着がつくであろう、と……!
そう……!
これは過去の因縁を晴らす戦いでありつつも、未来への展望を賭けた戦い……!
勝者は、『売上増大』という名の追い風を受け、大きく空へと羽ばたき……。
敗者は、『売上失速』という名の向かい風を受け、墜落してしまう……。
果たして……。
地面に叩きつけられ、這いつくばるのは、どちらなのかっ……!?
ちなみにではあるが、勝敗の決着方法としては、『宣言したクエストを達成した側』となる。
両者が失敗した場合は引き分けとなるが、両者とも成功した場合は、達成にともなった諸々の条件で判断される。
いちばん大きなものとしては、『戦利品』。
より価値がありお宝を、より多く持ち帰ったほうが、判定において有利になる。
そして次に、『被害度合』。
より負傷者を少なくして達成するほうが、判定において有利となるだろう。
その他にも、『アイテムの使用頻度』や『達成にかかった時間』などが挙げられる。
冒険者というのは、クエストへの投資を最小限にとどめて達成する事こそが、この国では優秀とされているのだ。
今回の一件の発起人のひとりであるフォンティーヌは、このなりゆきに大変満足していた。
マスコミが騒ぎたてれば騒ぎたてるほど、宣伝効果が大きくなるからだ。
そしてもうひとりの発起人ともいえる、プリムラは……。
とてつもなく、後悔していた。
なにせ彼女が、クエストに挑戦しよう、と思い至ったのは……。
もちろん、野良犬の店をプロモーションするのに効果的だと、判断したからであるが……。
しかしそれは、目的の半分でしかなかった。
残りの半分は、言うまでもないだろう。
『野良犬との、お散歩』っ……!
そう……!
オッサンと久しぶりのお出かけを、目論んでいたのに……!
蓋を開けてみれば、『同伴不可』っ……!
しかもオッサン自身に断られたのではなく、クエスト対象が『男子禁制』という、痛恨の選択ミス……!
結果、『オッサン抜き』っ……!
これでは、コーヒーの入っていない、カフェオレを飲むようなもの……!
これでは、やさしさの入っていない、頭痛薬を飲むようなもの……!
これでは……。
さしもの聖少女も、後悔しても、しきれないっ……!!
となれば別のクエストにすればよいと思われるかもしれないが、もう手遅れ。
すでにマスコミへの発表はなされ、気がついたら出発の日取りまでもが決まってしまっていた。
……そして今日は、出発当日。
出発地点である、『スラムドッグマート ロンドクロウ小国1号店』の前には、ステージが設えられていた。
クエストの出発を記念して、式典が執り行われていたのだ。
クエストの出発前に、こうした催しが行なわれるのは珍しいことではない。
しかし普通は、高名な王族や勇者がすることである。
名門とはいえ、いち聖女一家がこのようなイベントを行なうことは異例であった。
しかし注目度はダントツで、多くの観客やマスコミで賑わっている。
同じような式典は、『ゴージャスマート』側でも行なわれていて、そちらも大盛況であったのだが……。
集まった人たちの割合としては、『スラムドッグマート』側のほうが多かった。
なぜならば、同ステージイベントにおいて、最後のパーティメンバーである、『尖兵』の発表が行なわれるからだ。
スラムドッグマート側の伝説挑戦メンバーは、新聞でじょじょに明らかにされていった。
前衛の戦士として、同店の幹部である、クーララカ。
そして、ハールバリーの剣術大会で優勝を果たした、わんわん騎士団。
後衛の魔導女には、同店のイメージキャラクターである、ビッグバン・ラヴ。
聖女はもちろん、ホーリードール家の三姉妹。
今回はなんと、パインパックも同行することとなり、話題性はさらにアップ。
『ホーリードール家の隠しキャラ』とまで言われる末っ子の参戦に、新聞各紙は大いに沸いた。
でも『尖兵』だけは、最後の最後まで発表されなかった。
尖兵というのは、冒険者パーティの中でも使い捨てなので、誰が選ばれたところで話題にもならない。
マスコミには真っ先に公表されるものの、紙面の隅っこにも載らないのが普通である。
しかしなぜか、聖少女パーティの尖兵だけは、年末の歌合戦の出場者ばりのトップシークレットであった。
マスコミ各社は、こぞって書き立てる。
きっと、我々の想像もつかないような、恐るべき人物が、登用されているのではないか、と……!
でも内情はもう、ご存じであろう。
単にプリムラが、発表できていなかっただけのことである。
彼女はおじさまを勧誘することを、ズルズルと先延ばしにしていたせいで……。
尖兵が誰かという、周囲の期待のハードルを、計らずとも……。
宇宙に届かんばかりに、アゲにアゲてしまっていたのだ……!
この期待に応えられるのは、もう、この国の女王でも引っ張ってくるしかない。
伝説の挑戦にあたり、オッサンに断られてしまったプリムラは……。
いったい誰を、尖兵に選んだというのだろうか……!?





