表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

611/806

20 伝説挑戦

 そして、ついに伝説挑戦の日がやってきた。


 本件には、様々が偶然が重なっていたが、最後まで奇妙なる偶然がつきまとう。

 なんと、『スラムドッグマート』の掲げた『ユニコーン挑戦』と、『ゴージャスマート』の掲げた『モフモーフに挑戦』が、同日にクエスト出発とあいなったのだ。


 事前の両店のマイクパフォーマンスから、マスコミは今回の挑戦を、『聖女たちの聖獣聖戦』……。

 略して『三聖』と銘打ち、大いに紙面で取り上げていた。


 前回のガンクプフル小国での『合同新製品発表会』の引き分けの結果まで持ち出され、その決着を今回のクエストで付ける、といった話にまで及ぶ。


 勝利したほうは、この『ロンドクロウ小国』の冒険者たちの心を掴み……。

 両店が火花を散らしている商戦に、決着がつくであろう、と……!


 そう……!

 これは過去の因縁を晴らす戦いでありつつも、未来への展望を賭けた戦い……!


 勝者は、『売上増大』という名の追い風を受け、大きく空へと羽ばたき……。

 敗者は、『売上失速』という名の向かい風を受け、墜落してしまう……。


 果たして……。

 地面に叩きつけられ、這いつくばるのは、どちらなのかっ……!?


 ちなみにではあるが、勝敗の決着方法としては、『宣言したクエストを達成した側』となる。

 両者が失敗した場合は引き分けとなるが、両者とも成功した場合は、達成にともなった諸々の条件で判断される。


 いちばん大きなものとしては、『戦利品』。

 より価値がありお宝を、より多く持ち帰ったほうが、判定において有利になる。


 そして次に、『被害度合』。

 より負傷者を少なくして達成するほうが、判定において有利となるだろう。


 その他にも、『アイテムの使用頻度』や『達成にかかった時間』などが挙げられる。

 冒険者というのは、クエストへの投資を最小限にとどめて達成する事こそが、この国では優秀とされているのだ。


 今回の一件の発起人のひとりであるフォンティーヌは、このなりゆきに大変満足していた。

 マスコミが騒ぎたてれば騒ぎたてるほど、宣伝効果が大きくなるからだ。


 そしてもうひとりの発起人ともいえる、プリムラは……。

 とてつもなく、後悔していた。


 なにせ彼女が、クエストに挑戦しよう、と思い至ったのは……。

 もちろん、野良犬の店をプロモーションするのに効果的だと、判断したからであるが……。


 しかしそれは、目的の半分でしかなかった。

 残りの半分は、言うまでもないだろう。


 『野良犬との、お散歩』っ……!


 そう……!

 オッサンと久しぶりのお出かけを、目論んでいたのに……!


 蓋を開けてみれば、『同伴不可』っ……!

 しかもオッサン自身に断られたのではなく、クエスト対象が『男子禁制』という、痛恨の選択ミス……!


 結果、『オッサン抜き』っ……!


 これでは、コーヒーの入っていない、カフェオレを飲むようなもの……!

 これでは、やさしさの入っていない、頭痛薬を飲むようなもの……!


 これでは……。

 さしもの聖少女も、後悔しても、しきれないっ……!!


 となれば別のクエストにすればよいと思われるかもしれないが、もう手遅れ。

 すでにマスコミへの発表はなされ、気がついたら出発の日取りまでもが決まってしまっていた。


 ……そして今日は、出発当日。


 出発地点である、『スラムドッグマート ロンドクロウ小国1号店』の前には、ステージが設えられていた。

 クエストの出発を記念して、式典が執り行われていたのだ。


 クエストの出発前に、こうした催しが行なわれるのは珍しいことではない。

 しかし普通は、高名な王族や勇者がすることである。


 名門とはいえ、いち聖女一家がこのようなイベントを行なうことは異例であった。

 しかし注目度はダントツで、多くの観客やマスコミで賑わっている。


 同じような式典は、『ゴージャスマート』側でも行なわれていて、そちらも大盛況であったのだが……。

 集まった人たちの割合としては、『スラムドッグマート』側のほうが多かった。


 なぜならば、同ステージイベントにおいて、最後のパーティメンバーである、『尖兵(ポイントマン)』の発表が行なわれるからだ。


 スラムドッグマート側の伝説挑戦メンバーは、新聞でじょじょに明らかにされていった。


 前衛の戦士として、同店の幹部である、クーララカ。

 そして、ハールバリーの剣術大会で優勝を果たした、わんわん騎士団。


 後衛の魔導女には、同店のイメージキャラクターである、ビッグバン・ラヴ。

 聖女はもちろん、ホーリードール家の三姉妹。


 今回はなんと、パインパックも同行することとなり、話題性はさらにアップ。

 『ホーリードール家の隠しキャラ』とまで言われる末っ子の参戦に、新聞各紙は大いに沸いた。


 でも『尖兵(ポイントマン)』だけは、最後の最後まで発表されなかった。


 尖兵(ポイントマン)というのは、冒険者パーティの中でも使い捨てなので、誰が選ばれたところで話題にもならない。

 マスコミには真っ先に公表されるものの、紙面の隅っこにも載らないのが普通である。


 しかしなぜか、聖少女パーティの尖兵(ポイントマン)だけは、年末の歌合戦の出場者ばりのトップシークレットであった。


 マスコミ各社は、こぞって書き立てる。

 きっと、我々の想像もつかないような、恐るべき人物が、登用されているのではないか、と……!


 でも内情はもう、ご存じであろう。

 単にプリムラが、発表できていなかっただけのことである。


 彼女はおじさまを勧誘することを、ズルズルと先延ばしにしていたせいで……。

 尖兵(ポイントマン)が誰かという、周囲の期待のハードルを、計らずとも……。


 宇宙(そら)に届かんばかりに、アゲにアゲてしまっていたのだ……!


 この期待に応えられるのは、もう、この国の女王でも引っ張ってくるしかない。


 伝説の挑戦にあたり、オッサンに断られてしまったプリムラは……。

 いったい誰を、尖兵(ポイントマン)に選んだというのだろうか……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] わんわん騎士団はともかく、パイちゃんも行くんですか? 今回はオッサンがいないですし、心配やなあ・・・ ・・・それ以前に、プリムラさんのやる気が心配すぎます・・・! それと、『野良犬との…
[良い点] さあ黄〇伝説ならぬ 野良犬伝説が始まりましたかな!(期待) そして宣伝がでかいほど 大失敗に対しても さぞ でかいでしょうね!(ニヤリ) あとパインパック 隠しキャラでしたか!(笑) 今こ…
[一言] プリムラ!そう落ち込むでない!キツイだろうが今はPRに専念するんだ! このクエストは、戦利品を取った上で帰るまでがクエストだからな!生きて帰れよ!! それはそれとして、その活躍をオッサンに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ