04 結果こそすべて
お嬢様が発表した、『スラムドッグマート』をマットに沈めるための、先制パンチ……!
それは、
「『クエスト』を、成功させるのですわっ! それも、伝説級のモンスターや、神話級の秘宝を探し求めるような、偉業を達成するのです!」
すると、まるで敵政党のごとき、脊髄反射のヤジが飛んでくる。
「バカめ! なにをわけのわからんことを! クエストを成功さることが、なんで『ゴージャスマート』のためになるんじゃ!」
「ふしゅる、ふしゅる。フォンティーヌ様のお考えがわかりましたよ。そのクエストを、ゴージャスマートの武器を使って達成するわけですね。そうすれば、マスコミが騒ぎだててくれる……」
「アホめ! マスコミが騒いだからといって、なんだというんじゃ! 冒険者が、しかも間抜けどもの戦士が、新聞など読むはずもなかろう!」
ステンテッドは頭ごなしに否定していたが、これは間違いではない。
一般的な冒険者というのは、ヒマつぶし程度にしか新聞を読まない。
なぜならば冒険者というのは、一日の大半を野外や洞窟で過ごす。
そのため、街の出来事などを主に扱っている新聞を読んだところで、あまり関係がないのだ。
もちろん、例外は多々ある。
お嬢様はその無知をあざ笑うかのように、ニヤリと笑った。
「他の国の冒険者でしたら、そうかもしれませんわね。でも、この国の新聞記事で、いつも一面を飾っているのはなんだかご存じでして? それは、新モンスターやお宝などの、目撃情報……! この国の冒険者たちは、酒場のクエストボードで日々の仕事をこなし、新聞を読んで、一攫千金を夢見ているのですわっ!」
そう……!
この国においては、例外……!
鉱物が名産で、坑夫が冒険者になっているこの地では、モンスターの情報がもっとも重宝される。
新聞社もそれをわかっているので、モンスターの出没を、天気予報のように載せていた。
それと同時に、レアモンスター出現の情報は、とりわけ大きく扱われる。
さらに、レアモンスターを倒したという記事は、なにを差し置いてもトップスクープであった。
例えるならばこれは、宝くじの1等当選者が紹介されるようなものであろうか。
『誰かが当たったみたい』と風の噂で聞くよりも、真写つきで知らされた方が、現実味がある。
自分もいつかこんな風になれるかもしれないと、一攫千金を、より身近に感じることができるのだ……!
そこで、レアモンスターを倒した冒険者が、インタビューにて、こんなことを言っていたら、どうだろうか?
「モンスターを倒せたのは、ゴージャスマートの武器があったからだ!」と……!
これ以上の宣伝は、もはやこの国には存在しないと言っていいだろう。
そしてこの点に目を付けたお嬢様は、やはり、只者ではなかった。
プリムラが釣り竿を垂らして、魚が食いつかないと、首を傾げている間に……。
彼女はそれ以上に、魚のことを掘り下げていたのだ。
さながら、潜水服に身を包み、魚のいる水深まで、潜っていくかのように……。
深く、より深くっ……!
その、正鵠を射貫くような見事な作戦に、さすがのシュル・ボンコスも唸っていた。
「ふしゅ、ふしゅる、ふしゅるる……! なるほど……! では、腕利きの冒険者を集め、彼らにゴージャスマートの最高級の装備を与えれば、よいというわけですな……!」
しかしお嬢様は、想像のさらに上をいく。
「それもいいですけれど、わたくしたちの手で、成し遂げるのですわ……!」
「ふしゅるるるるるっ!? ここにいる4人で、クエストに出かけるというのですかな!? それはいくらなんでも……!」
「でも、考えてみるのです。偉業を成し遂げた冒険者は、このあとに『ゴージャスマート』のイメージキャラクターとしても起用できますわ。それだったら素性の知れぬ者よりも、関係者のほうがよいでしょう」
「ふしゅるる。それはたしかにおっしゃるとおりですが……」
「そうじゃ! 女のクセして……」
この場にいる男たちは、大半が反対の立場かに思われた。
しかしひとりだけ、エウレカを叫ぶものが。
「そ……それはいいボンっ! ボンは子供の頃、戦勇者になりたかったんだボン! レアモンスターを討伐すれば、ボンは戦勇者としても有能であることを、パパに示すことができるボンっ!」
「ふしゅるる、落ち着いてください、ボンクラーノ様。冒険というのは大変危険な行為です。それも伝説級のレアモンスターともなれば、そこに向かうだけでも過酷なことになります。ボンクラーノ様の身になにかありましたら、しゅるはブタフトッタ様に、顔向けができません」
しかしボンクラーノは新しいおもちゃを手に入れた子供のように、聞く耳を持たなかった。
それはいつも以上の聞き分けのなさだったが、それには理由があった。
「大丈夫だボンっ! ボンは幼少の頃、聖獣『モフモーフ』を殺して、その肉を焼いて食べたことがあるボンっ!」
クソ坊ちゃん、まさかのジャイアント・キリング……!?
それは驚くべき告白であったが、にわかには信じられなかった。
なにせ『モフモーフ』といえば、まさに伝説的聖獣で、その強さは比類なきものだったからだ。
聞かされた者たちは、誰ひとりとして信じていない。
クソ坊ちゃんに長年仕えてきたシュル・ボンコスなどは、『モフモーフ』と聞いた時点で、嘘松ならぬ嘘モフだと見抜く。
いつもであればこの手の嘘武勇伝は、「はいはい」と流して終わりにするのだが……。
今回は、その嘘を暴いてやれば、クソ坊ちゃんのワガママを鎮めることができるのではないかと考えた。
「しゅるしゅる、ふしゅるふしゅる。ボンクラーノ様が、『モフモーフ』を討伐されたことがあっただなんて、まったく知りませんでした。もしよろしければ、その時の話を、聞かせていただけませんかな?」
続きを促されたボンクラーノは、「もちろんだボン!」と意気込んで話し始めた。
「それは、シュル・ボンコスが、ボンに仕える前のこと……。ボンの付き人として、へんなオッサンがいた頃の話だボン」





