表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

562/806

19 ハイブリッド聖女

 『バーニング・バラージ・ドラムソロ』と『ブリザード・ブリッツ・ペンタトニック』。

 カリスマ魔導女モデルユニットである『ビッグバン・ラヴ』の専売特許であった大魔法。


 今回の『スラムドッグマート新製品発表会』でもその技を披露し、多くの注目を集めていたのだが……。


 しかしそのお株は、あっさりと奪われてしまった。

 馬車で会場に乱入した『お嬢様聖女』が、なんとそっくりそのまま同じ大魔法を披露。


 しかも、たったひとりで……!


 『バーニング・バラージ・ドラムソロ』と『ブリザード・ブリッツ・ペンタトニック』は、属性が真逆の大魔法である。

 それらは『反属性』と呼ばれ、同時に習得するのは一流の魔導女ですら困難とされている。


 そのため一般的な魔導女というのは、ひとつの属性か、それに親和性のある属性の魔法のみを習得する。

 『反属性』を操れるということは、逆にいえば、『その気になればすべての属性の魔法が操れる』ということを意味する。


 これは、努力や修練を越えた先にある、『才能』され……。

 すべての魔導女の、憧れでもあるのだ……!


 その『憧れ』を目の前で見せられた多くの魔導女たちは、目も口もまんまるく開いたまま、呆然している。

 もはや会場の空気はすっかり、あますところなくすべて、お嬢様聖女のものとなってしまった。


 お嬢様聖女の右手からは陽炎のような熱気が、左手からはドライアイスのような煙がたちのぼり、先ほどまでの光景が幻などではないことを物語っている。


 その片手が腰に、もう片手が口元に当てられた。

 俗に言う『お嬢様ポーズ』で、高笑いが響く。



 おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほーーーーーーーーっ!!


 いまわたくしが身にまとっている、『パッションローブ』……!

 本日から『ゴージャスマート』にて、大好評大発売なのですわっ!


 いまなら、ローブにわたくしのサインが入っておりますの!

 わたくしが自ら刺繍した、1000着かぎりの限定品なのですわっ!



 拡声魔法も使っていないのに、お嬢様の声は会場中に鳴りわたった。

 誰もが女王の言葉に耳を傾けるように、すっかり心を奪われてしまっている。


 プリムラも、ビッグバン・ラヴも、観客たちも……。

 しかし、ただひとりだけ、



「ふ……ふざけんなっ!」



 『スラムドッグマート』側のステージの脇から飛び出してきた人物が。

 プリムラのアシスタントにして、今回は裏方を務めていた、ツンツンヘアーのランであった。



「いきなり人んちのイベントに殴り込んできやがって、いったい誰なんだテメェ! テメーみてぇな知らねぇヤツのサイン入りローブなんざ、誰が欲しがるかよっ!」



 しかしお嬢様は、フフンと鼻であしらう。



「申し遅れましたわね。せっかく振っていただきましたので、この場を借りて自己紹介させていただきますわ。わたくしの名は、『フォンティーヌ・パッションフラワー』。プジェトを発祥とする、由緒正しき聖女一門の大聖女なのですわ。……いいえ、大聖女であった、というべきですわね」



 ……バッ!



 と片手で髪をかきあげるフォンティーヌ。

 それはあまりにも優雅な仕草で、見えない薔薇の花びらが舞い散ったかのようであった。



「わたくしはご覧のとおり、祈りによる女神の力だけでなく、魔法の力をも行使いたしますの。ふたつの力を併せ持った存在……。いわば『ハイブリッド聖女』なのですわっ!!」



「は、ハイブリッド聖女ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!?!?」



 観客たちがざわめく。


 そのハイブリッド聖女は、髪をかきあげた手を、高く掲げ……。

 ある人物を、ギラリと睨みつけた。



 ……ご覧になって!? プリムラさんっ!!


 これがわたくしの、諸国漫遊の修行の成果……!

 わたくしは百の国を旅して、千のことを学び、万の力を身に付けたのですわっ!!


 先ほどお見せした大魔法は、そのひとつでしかありませんのよっ!!


 これもなにもかも、すべて……。

 ホーリードール家を、叩き潰すためなのですわっ!!


 でもその力も、ほとんど使う必要はなさそうですわねっ!!


 なぜならば、卵から孵ってだいぶ経つというのに、飛び立とうとはせず……。

 いつまでも巣のなかでヌクヌクと暮らしている、プリムラさんと……!


 すでに大空に羽ばたいているわたくしとは、すでに天と地ほどの差があるのですからっ!!



 フォンティーヌは掲げていた手を、稲妻のような勢いで振り下ろし、指先でプリムラを貫く。



 ……ビシィィィィィィィィィーーーーーーーーーーンッ!!



 途端、射貫かれた少女の身体に、



 ……ズガァァァァァァァァァーーーーーーーーーーンッ!!



 落雷のような衝撃が走った。


 すでに真っ白に燃え尽き、もはや言葉もないプリムラ。

 勝負は決したとばかりに、フォンティーヌは馬車の出発を御者に命じる。


 最後に、観客たちに向かって、



「さあっ! みなの者! わたくしの後に続くのです! 早くしないと、わたくしのサイン入りローブがなくなってしまいますわよっ!? おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほーーーーーーーーっ!!」



 高笑いを残し、走り出す馬車。

 客席にいた魔導女たちは、スタートの号砲を聞いたランナーのように我先にと走り出す。



「い、行かなきゃ! ゴージャスマートに行かなきゃ!」



「フォンティーヌ様のローブこそ、私たち魔導女が求めていたものよ!」



「魔導女は、戦場の華……! なんて素敵な言葉なんでしょう!」



「なんとしても、サイン入りのローブを手にいれなくちゃ!」



「ああっ、待ってください! フォンティーヌ様ぁぁぁぁーーーっ!」



 ……ドドドドドドドド……!



 土煙舞う会場。

 残されたのはゲホゲホと咳き込む、プリムラやラン、ビッグバン・ラヴをはじめとする、『スラムドッグマート』関係者と……。


 このあとの物販で販売予定だった、新製品のローブの在庫の山であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これでゴージャースマートのローブをきた魔導女たちが本当に活躍したら、それはそれで面白いかもしれない(笑)
[良い点] なんという凄まじい自己アピールなんだ・・・! しかも、そうするだけの確かな実力も兼ね備えている・・・! これでまだ氷山の一角だというから恐れ入りますよ・・・  ・・・おかげで、お嬢様の凄さ…
[一言] …………面倒なことになりましたねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ