18 乱入
フォンティーヌが発表した、『ガンクプフル小国』での、『スラムドッグマート』への対抗策……。
それはなんと、自分自身がイメージキャラクターになるという、とんでもない作戦であった……!
これを聞いた首脳陣たちは、こぞって反対した。
「ダメじゃダメじゃダメじゃっ! 貴様はワシの言うことを聞いていなかったのか!? 『ゴージャスマート』では女のイメージキャラクターなど、過去に一度たりとも無かったんじゃ! 由緒ある勇者の店において、男より劣る女を看板にするなど、許されるわけがないんじゃ!」
「しゅるしゅる、ふしゅるるる……! いやはや、驚きました。まさかご自身をイメージキャラクターにするなど……。意外性に満ちていて、面白い案ではございますが、フォンティーヌ様は聖女様でございます。聖女の国のイメージキャラクターに立候補されるのであればともかく、魔導女の国であなた様がお出ましになったところで、広告効果としては薄いと思われます。ふしゅるるる」
「そうだボン! シュル・ボンコスの言うとおりだボン! いくらお前が世界的に有名だったとしても、聖女と魔導女では、畑違いというものボン!」
しかしフォンティーヌは、反対する男どもを……。
とある行為をすることにより、文字どおり一発で、黙らせてしまったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
プリムラはガンクプフル出店の勢いを維持するため、魔導女用のローブを新発売した。
ハールバリーでも好評を博していた、パステルカラーのローブの新色である。
デザインだけでなく機能性にもマイナーチェンジを施し、さらに使いやすくした。
ビッグバン・ラヴや『大魔導女学園』の生徒たちにも試着してもらい、何度も試作を繰り返したもの。
おかげで使いやすさとしてはトップクラスの品質になり、ビッグバン・ラヴも太鼓判を押したほどである。
そのローブを大々的に売り出すため、プリムラは記者や魔導女たちを集めて、新製品発表のステージイベントを行なった。
「このローブ、あーしもガチで愛用してるし! ほら、これ見るし! 背中には両手杖が差せるようになってて、袖のところに小杖が入るようになってるし! こうやって、サッと取り出せるし! この使いやすさ、ありえなくなくないっ!?」
「ふーん、便利じゃん」
ビッグバン・ラヴが壇上に立ち、新製品の良いところをこれでもかとアピール。
観客の反応も上場だった。
最後はマスコミ受けを狙って、空き地に設置したいくつもの櫓に、大魔法をブチかます。
バーニング・ラヴの火炎魔法で派手に爆発炎上、ブリザード・ラヴの氷結魔法で美しい氷柱を作り上げたところで、観客たちに向かって決め台詞を一言。
「このローブがあれば、みんなも大魔法が使えるようになるしっ!」
パフォーマンスとしては、これ以上のものはなかった。
なにせいま大人気の、カリスマモデル魔導女たちが、目の前で大魔法を放ち、それを新製品のおかげだと言ってのけたのだ。
集まった魔導女たちの心は、すっかりわし掴みに……。
新製品の品切れは、もはや火を見るよりも明らかであった。
しかしそれは、とある高笑いによって、風前の灯火と化す。
「おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほーーーーーーーーっ!!」
プロモーションステージに、突如として馬車が乱入。
お嬢様フェイスでいっぱいで彩られた、そのデコレーション馬車の上に……。
奇跡のバランス感覚で、仁王立ちしていたのは……。
フォンティーヌ・パッションフラワー……!
しかも服装はいつもの大聖女のそれではない。
深紅に燃えあがる、ど派手なビビットカラーの魔導女ローブであった。
『お嬢様聖女』ならぬ、『お嬢様魔導女』と化したフォンティーヌは、会場内に高らかに声を轟かせる。
おーーーーーっほっほっほっほっほっほっ!!
そんな地味なローブを着ていては、世界から置き去りにされてしまいますわよっ!
逃げたり隠れたりがお上手な、プリムラさんがお考えになったローブだけはありますわっ!
でも、このわたくしが考えたローブは違いますわっ!
『パッションに、目立て……!』
それがコンセプトなのですわっ!
魔導女たるものコソコソしたりせず、戦いにおいてもいちばん目立つべきだとわたくしは考えますわっ!
なぜならば、魔導女こそが戦場の華だからですわっ!
華が目立たなくて、どうするというんですのっ!?
自然界の動物などは、たとえば昆虫などは、木や葉っぱと同じ体色になることで、外敵である鳥などから見つかりにくくしているそうですわ!
それを応用した保護色のローブなども、売られているそうですわねっ!
『スラムドッグマート』のローブは、その『目立たなさ』と『オシャレさ』を両立させたローブといえるでしょう!
でもそんなものは、わたくしから言わせれば、弱者の浅知恵……!
強者のわたくしは、まっぴらごめんですわ!
わたくしはむしろ、見つかりたいのですわ!
猛禽類のようにわたくしを襲って、召し上がっていただきたいのですわ!
意中の、あのお方に……!
ここに集まっている方たちは、なんのために、魔導女をしているのです!?
憧れの勇者様に、見つけていただくためではないんですの!? 召し上がっていただくためではないんですの!?
だったらそんな保護色みたいなローブはやめて、このローブを身にまとうのですっ!
きっと勇者様も、アナタから目が離せなくなりますわっ!!
『お嬢様魔導女』のプレゼンは、その場にいる者たちの心を、大きく揺さぶっていた。
バーニング・ラヴなどは敵であるというのに、
「あ……あれを着たら、あーしもゴルドウルフさんに、食べてもらえるかなぁ……?」
などと、言い出す始末……!
「バーちゃん、なに言ってるの。相手は聖女なんだよ。それなのに言いくるめられてどうするの」
「あっ……! そ、そうだったし! アンタ、フォンティーヌって言うんだって!? プリっちから聞いたし! 魔法が使えない聖女がそんなこと言っても、ゼンゼン意味なくなくなくなくないっ!?」
その一言で、観客たちの心の揺れはおさまる。
「なんだ、あのひと聖女なんだ……」
「魔導女じゃない人から魔導女のローブを勧められても、説得力ないよね……」
「っていうか、聖女のクセしてなんであんな格好してるの?」
誰もがそう思った、矢先であった。
お嬢様の口から、信じられない言葉が、紡ぎ出されたのだ……!
「……紅蓮に眠る烈火の豪霊よ、爆炎を打ち鳴らし者よ、我の一臂に…………」
呪文の、詠唱……!?
それは、ただ文言を真似しているだけではなかった。
足元からは魔法発動の予兆である、上昇気流のようなものが起こり……。
深紅のローブが、バネのような巻き毛が、ふわり……と浮き上がったのだ……!
「ええっ!? フォンティーヌさん、まさか、魔法をっ!?」
「プリムラさん、そのまさかですわっ! ……爆炎打法よ、あやつを打てっ! バーニング・バラージ・ドラムソロっ!!」
空き地に建てられた櫓に向かって、勇ましく手をかざすフォンティーヌ。
カッとした赤熱に包まれると、独演のような、すべての音をかき消す轟音が放たれた。
……ドバババババババババババババババババッ!!
まるでバーニング・ラヴの魔法実演が、再来したような光景であった。
「う……ウソ!? あーしの『バーニング・バラージ・ドラムソロ』を、マネするだなんて……!?」
大聖女が大魔法を放つ姿は、異質であった。
そしてすべての者の度肝をかっさらうのに、じゅうぶんなインパクトがあった。
唖然とする下々の者たちに向かって、お嬢様は叫ぶ。
「これが『ゴージャスマート』の新製品、『パッションローブ』ですわ! このローブを着れば、わたくしのように、戦場に大輪の華を咲かせること、請け合いなのですわっ!」
言いながら、バッ……! その深紅のローブを脱ぎ捨てる。
すると下から、目の覚めるようなシルバーブルーのローブが現れた……!
「ま……まさか……」と、息を呑むブリザード・ラヴ。
そう、そのまさかであった……!
「…………氷結奏法よ、あやつを貫けっ! ブリザード・ブリッツ・ペンタトニックっ! ……『パッションローブ』のカラーは2色! フレイムレッドと、フローズブルー!」
とうとう、宣伝しながら大魔法を放つという、芸当まで披露……!
ブリザード・ラヴと変わらぬ氷柱を、次々と作り上げていった……!





