13 プリムラの判断
ゴルドウルフが考えていたのは『ドッグレッグ諸国』の攻略だったのだが、それは今まで以上に、思いも寄らぬ奇策であった。
それは、聖少女プリムラを主軸にした、『戦女神作戦』……!
わずか14歳の少女に、三ヶ国もの攻略を、一任しようというのだ……!
しかもその補佐官に、17歳のパンク少女を付けるという、大胆すぎる布陣……!
この提案に、真っ先に異を唱えたのは、やはり……!
「ふざけんなよ、オヤジっ! こんなガキんちょのアシスタントなんて、やってられるかよっ!」
先ほどまではいちおう敬って『プリムラ様』だったのが、一気に『ガキんちょ』呼ばわり……!
「ランさん、落ち着いてください。スラムドッグマートの役職や役割には、年功序列や身分による配慮は一切ありません」
「ウソつけっ! このガキんちょがホーリードール家の聖女サマだから、そんな重要なポストに付けてるんだろっ!?」
「もしそうなのであれば、大聖女であるマザーが、アルバイトである説明がつかないでしょう」
「うぐっ、た、確かに……!」
「年齢についてもそうです。ランさんとプリムラさんは3つしか違いません。それに年齢を理由に、重要な役割を任されないという辛さは、ランさんが『ゴージャスマート』でさんざん味わってきたことではないのですか?」
「うぐぐぐっ……!」
「ランさんには、ゆくゆくはガンクプフルの方面部長をお願いしようと思っています。しかしそれは、プリムラさんのアシスタントがちゃんと務まった場合においてのみです。……やってくれますね?」
ぐうの音も出ない正論の連続に、『方面部長』というポスト。
飴と鞭を巧みに使い分けられて、ランは歯を食いしばりながらも黙って頷くほかなかった。
となるとあとは、プリムラの意思である。
少女はまだ迷っていたのだが、ソファの背後に立っていた彼女の姉が、そっと肩に手を当てると、
「プリムラちゃんがやらないんだったら、ママがやっちゃおうかなぁ~?」
耳元でいたずらっぽくささやいた。
姉の背中にコアラのようにしがみついていた末っ子も、ひょっこりと顔を出し、
「ぱいたんがやるー!」
急に姉や妹が立候補してきて、ゴルドウルフにアピールを始めたので、プリムラは慌てた。
「ゴルちゃん、プリムラちゃんのかわりにママなんてどぉ?」
「ぱいたんが、かわりにやうー!」
「……えっ? えっえっ? ふ、ふたりとも、どうしたんですか!?」
「プリムラちゃんはやる気がないみたいだし、その点、ママはとってもやる気があるわ!」
「ぱいたんも、やるきー!」
「そうですね、それなら……」と、ゴルドウルフも満更ではなさそうだった。
それが少女の焦りに火を付けてしまう。
プリムラはついに、ソファから立ち上がる勢いで、手を高く挙げた。
「わ……わたしがやりますっ!」
「「どうぞどうぞ」」
と、いうわけで、聖少女プリムラ……。
『スラムドッグマート ドッグレッグ諸国攻略 総責任者』に、就任っ……!
勢いで引き受けてしまった彼女であったが、今になってある言葉が、頭の中をぐるんぐるんと回っていた。
「わたくしは、『スラムドッグマート』を跡形もなく叩き潰すことを、ここに宣言いたしますわ! いわばこれは、ホーリードール家……。いいえ、プリムラさんに対する、宣戦布告なのですわっ……!!」
フォンティーヌからの宣戦布告を、図らずとも真っ向から受けて立ってしまったプリムラ。
しかも頼れる相棒は、自分とは真逆の性格の少女、ラン……!
生まれも育ちも、身分も育った境遇も、何もかも違うふたり。
いや、同じにするものが、ひとつだけあった。
……オッサンへの、なみなみならぬ思い……!
しかしそれすらも、かたやイケイケ、かたや秘めやか。
まさに凸凹と呼ぶにふさわしい少女デュオが、今ここに誕生っ……!
彼女たちは強大なる『お嬢様聖女』に立ち向かい、新天地にスラムドッグマートを根付かせることができるのだろうか……!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『エヴァンタイユ諸国』は、四つの国から成り立っている。
『魔導女の国』と呼ばれる、『ガンクプフル小国』。
『聖女の国』と呼ばれる、『キリーランド小国』。
『尖兵の国』と呼ばれる、『ハールバリー小国』。
『戦士の国』と呼ばれる、『ロンドクロウ小国』。
うち『ハールバリー小国』はスラムドッグマートのシェアは100%なので、攻略対象となるのは残りの三国である。
いっきに三国同時展開という手も考えられるのだが、指揮を取るのが初めてだったプリムラは、一国ずつに絞って専念するこにした。
となると、まずはどの国から攻めるべきなのか……?
総責任者であるプリムラは、本部長であるウォントレア、ミスミセス、クーララカ、そしてアシスタントであるランを会議室に集めて、宣言した。
なお、オッサンはこの場にはいない。
すべて任せるというスタンスで、会議にも参加していないのだ。
『スラムドッグマート』において、これほどまでに重要な意思決定がオッサン抜きで行なわれたのは、これが初めてのことである。
そしてプリムラが下した、決断とは……!?
「まずは……『ガンクプフル小国』から、お店を展開してまいりたいと思います」
聖少女が狙いを定めたのは、『魔導女の国』……!
部下たちはみな、『聖女の国』を選ぶのかと思っていたので、意外な反応を示す。
「おいガキんちょ、お前は聖女サマだろ。だったら『キリーランド小国』からにしたほうがいいんじゃねぇのか?」
「いえ、『キリーランド小国』は最後にしたいと思っています。なぜならば聖女の国での展開がうまくいなかった場合、お姉ちゃ……マザーにも迷惑がかかってしまうからです」
『キリーランド小国』に『スラムドッグマート』を展開する場合、イメージキャラクターは間違いなく同国で大人気のマザーになるだろう。
しかしそれは同時に、絶対に負けられない戦いであることを意味している。
なにせ聖女の国で、聖女の名門であるホーリードール家を起用しておいて、『ゴージャスマート』に敗れてしまうようなことがあったら……。
ザマーを敗走させ、ようやく取り戻した同国の信用を、失墜させてしまうことにもなりかねないからだ……!
明日は2話更新の予定です!
オッサンが、とんでもないことに…!?





