13 生まれ変わるために3
船はグレイスカイ島のまわりを、ぐるりと一周する。
それが第2のアトラクションである『グレイスカイクルーズ』である。
『みなさま、今度は右手をごらんください! イルカたちが迎えてくれていますよ! ほーら、ジャーンプ!』
お姉さんのかけ声にあわせて水面を飛び交うイルカに、乗客から歓声が起こる。
海棲生物を飼い慣らすという概念が、この世界にはまだ無いのでなおさらであった。
「すごい! ほんとにイルカがジャンプしてるぞ!」
「イルカって、人間の言葉がわかるんだぁ! こうして見ると、犬みたいでとってもかわいいーっ!」
「見て! よく見ると犬の耳付けてる! あっはっはっはっ! こんなところまで野良犬なんだ!」
「ふん、こんなんじゃ、騙されないぞ!」
島を一周したあとは、島の東側にある港から、ついにグレイスカイ島に上陸。
お姉さんとも別れを告げ、ついに、噂の島へと足を踏み入れる観光客たち。
彼らを真っ先に、迎えてくれたのは……!
『スラムドッグランド』……!
スラムドッグランドには、いろんなアトラクションがある。
『ゴルドくんの勇者ハント』
『パイレーツ・オブ・ゴルドくん』
『ビッグサンダー・チョコレート工場』
『シンイトムラウ・マウンテン』
キャストは全員ワイルドテイルたち。
最初は邪教徒と呼ばれるイメージのある彼らに、ゲストたちはおっかなびっくりなのだが……。
実際に接してみると、噂に聞いていた野蛮さとは真逆で、温厚で人なつこい人種ということがわかった。
『ゴルドくんの勇者ハント』ではエキストラとして登場して、ゲストとともに勇敢に勇者に立ち向かい……。
『パイレーツ・オブ・ゴルドくん』では仲間の海賊として登場し、陽気な歌やを踊りを披露してくれ……。
『ビッグサンダー・チョコレート工場』では、このグレイスカイ島限定のナッツ入りの『ゴルドくんチョコレート』を振る舞ってくれて……。
『シンイトムラウ・マウンテン』では、山をめぐり、彼らの自然に対する敬虔なる一面を知ることができる……。
このアトラクションを通じた異文化交流で、訪れたゲストたちはあっという間にワイルドテイルのことを好きになってしまった。
これも、オッサンの一計である。
かつての野良セレブたちが、ワイルドテイルたちと接することにより、そのイメージを払拭したように……。
まずは何よりも、触れ合いをさせることによって、彼らへの歪んだイメージを取り払おうとしたのだ。
そしてこれは、大成功をおさめていた。
「ワイルドテイルって、言葉も通じない野蛮人で、人間を襲って邪神の生贄にするって聞いてたけど……」
「ぜんぜん、普通の人たちじゃない!」
「とっても親切だし、あったかいし……! 私、ずっと誤解しちゃってた!」
「ふん、こんなんじゃ、騙されないぞ!」
そしてこれらのアトラクションは、特にハールバリー小国からのゲストたちに大好評であった。
なぜならば、同国にはすでにスラムドッグ系列店が軒を連ねており、知名度は抜群。
同国では国民的な人気者となっているゴルドくんに浸ることができるとあっては、押し寄せないわけがない。
しかもこの島にある『スラムドッグマート』では、他のどの店でも売っていない、限定ゴルドくんグッズが販売されている。
店内に一歩足を踏み入れると、ファンにはたまらない、お宝の山が迎えてくれるのだ……!
「あっ、ゴルドくんストラップの、グレイスカイ限定バージョンだ!」
「コッチには、チョコレートの限定フレーバーが! お土産に最高じゃない!」
「ああん! どれもこれもみんな欲しい! もう全部買っちゃおうよ!」
「ふ……ふん、こんなんじゃ、騙されないぞ!」
『スラムドッグランド』はグレイスカイ島の東から南、島の半分の面積を使った一大テーマパークである。
アトラクションで遊ぶだけでなく、今まではセレブのみが利用可能とされていたビーチも全面開放。
エヴァンタイユ諸国では見られない、エメラルドの海でバカンスも楽しめた。
そしていっぱい遊んだあとは、当然、腹ペコ……!
そこで、同ランドの名物のひとつである『スラムドッグレストラン』……!
ここはフードコートになっており、様々な料理の店舗や屋台が軒を連ねている。
そしてどれもが信じられないほどに美味なのだ……!
「うわあっ、こんな大きなホタテ、初めて見た! それに、ぷりっぷりで、すっごくおいしい!」
「こっちのイカ焼きも最高だよ! 屋台なのにこんなにおいしいだなんて!」
「フランクフルトも最高っ! 肉厚でジューシーで!」
「ふ……ふん、もぐっ、こんなんじゃ、騙されないぞ……!」
「屋台でこんなにおいしいんだから、レストランだともっと美味しいんだろうねぇ……」
「あっ、レストランの前にメニューが飾ってあるよ、どんなのか見てみようよ!」
「でも、私たちの予算じゃ無理だよ。セレブしか入れなかったこの島に、来られただけでも奇跡なのに……レストランなんか入ったら、どれだけ取られちゃうか……」
「ふん、その通り! どうせボッタク……りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーっ!?」
「うそっ!? なんでこんなに安いの!?」
「地元のレストランよりも、ずっとずっと安いよ!? ここ、観光地なのに!」
「普通こういう所にある高そうなレストランって、目玉が飛び出るくらい高いのに! これじゃ、酒場より少し高いくらいだよ!」
「ふ、ふん! 桁がひとつ……いいや、ふたつ省略されてるんだ! こんなのに、騙されないぞ……!」
この世界において、『レストラン』というのは『宝石店』と並ぶ、高嶺の花のひとつである。
庶民とっては、他人に料理を作ってもらうこと自体が、金持ちだけが許されることだという常識があった。
職業柄、定宿を持たないとされている冒険者などは酒場を利用しているが、それは例外中の例外なのだが……。
ともかく『スラムドッグレストラン』は、その酒場に毛の生えたくらいの予算で、セレブ気分を味わえるのだ……!





