12 生まれ変わるために2
新生グレイスカイ島には、新しい聖堂が建てられた。
いままでこの島にあった聖堂には、女神ルナリリスとゴッドスマイルが並んで立っている像が祀られていたのだが、それを……。
ゴッドスマイルを取り壊し、シンイトムラウに変更……!
これは、この世界ではありえない、神をも恐れぬ所業であった。
シンイトムラウは邪教のシンボルとして忌み嫌われてきた。
いままでは隠れキリシタンのようだったそれを、人目もはばからず信奉しようというのだ……!
並の聖女であれば、そのままショック死してもおかしくないほどのバチ当たりである。
さすがにこれには、門下生としてやって来た聖女たちも青くなっていたが、
「ママはいいと思うわぁ」「私も良いと思います」「パイたんもー!」
美しき鶴たちの一声で、決行……!
この事実が外部にバレるのは時間の問題。
そしてバレてしまったら、邪教徒狩りと称して勇者たちが大挙として押し寄せるに違いない。
しかし原住民であるワイルドテイルたちは、『ゴーコン』での戦いを経て、覚悟を決めていた。
信仰を封じ込めて殺されるよりも、信仰を声高に叫んで死んでいくことを望んだ。
彼らは真新しい聖堂のなかで、感涙にむせんでいた。
「いままではシンイトムラウ様のお守りを持っていただけで、首を跳ねられていたというのに……!」
「まさかこんなに立派な像で、シンイトムラウ様のお姿を拝めるだなんて……!」
「ワシが生きてるうちには、絶対に無理だと思っとったのに……!」
「ありがたや、ありがたや……!」
「ホーリードール家の聖女様たちは、自らのお立場が悪くなることもいとわずに、我らに信仰の自由を与えてくださったのじゃ!」
「やっぱり、ホーリードール家の聖女様たちは、女神様の生まれ変わりだ!」
「これで、勇者に殺された者たちも、浮かばれるというものじゃて!」
「勇者が攻めてきても、われらは全力で戦うぞ! 女神様たちをお守りするんだ!」
「そうだ! 我らにはシンイトムラウ様がついておる! 勇者なんかに負けはしねぇ!」
ワイルドテイルたちは決死の覚悟でいたが、勇者は攻めてくることはなかった。
なぜならば、来たくても来られないからだ。
彼らは今もなお、洋上で見えない壁に阻まれ……。
野良犬の散歩のように通り過ぎる、『スラムドッグマート』の船を、指を咥えて眺めていたのだ……!
オッサ……いや、マザーはそれをいいことに、さらなる大胆な一手に打って出る。
それは、島の南側……。
多くのワイルドテイルたちが収容され、実験動物となり、殺されていった……。
リヴォルヴの屋敷っ……!
勇者爆弾により、夢の島のようになってしまったその跡地。
瓦礫の山を撤去し、新たに建造したのは……。
『○○○○○○○○○』っ……!!
この施設の建造にあたっては、さすがに島内でも物議をかもした
邪教徒信奉というのもこの世界では大いなる罪であるが、それ以上の超犯罪……。
それもこのレベルまでやってしまうと、もはやシャレにならない。
全世界を敵に回すことになるのは、間違いない……!
さすがにこれには、島内でも100パーセントの反対意見が噴出した。
門下生どころか覚悟を決めたワイルドテイルたちも、真っ青になって止めていたが、
「ママはいいと思うわぁ」「私も良いと思います」「パイたんもー!」
美しき鳳凰たちの一声で、決行っ……!!
かくしてグレイスカイ島は、かつてのリゾート地から大幅に生まれ変わる。
勇者たちの憩いの場であったはずのそこは、勇者たちにとっての棘の道に……!
では、それらがどういったものなのか……。
ひとつひとつ、見ていこうではないか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
新生グレイスカイ島へは、エヴァンタイユ諸国の港から行くことが可能。
今までは船舶を所有するほどの金持ちしか行くことができなかったのだが、今では定期船が運航されている。
ちなみにその船に乗るためのチケットは、今やプラチナを通り越し、ドリームジャンボチケットと化している。
島には、過去に例を見ないトンデモ施設があるという噂が広がり、ひと目見てみたいというの者たちが殺到しているためだ。
貴重なるチケットを切ってもらって乗船すると、身体に犬耳に犬のしっぽ、顔には犬の鼻やヒゲを付けた船長と、アテンドのお姉さんが迎えてくれる。
お姉さんは拡声魔法のマイクで、乗客達に挨拶した。
『みなさん、今日はようこそおいでくださいました! この船は、ゴルドくんの船です! ほら、船首が見えますか? お空を飛んでいるゴルドくんの船首像がありますね! これは、勇者という名の幻想をブチ壊す、ゴルドくんのパンチでもあるのです!』
のっけから、カマしてくれるお姉さん。
『このゴルドくんが、いまからみなさんを、夢の国へと連れて行ってくれます! 夢の国は、みなさんを歓迎いたします! でも……この船にも、乗れない子たちがいるんです! それは誰かって? それは……勇者様です!』
これはお姉さんのブラックジョークであるが、あながち間違いでもなかった。
定期船は『スラムドッグマート』が運営しているので、当然のように野良犬でデコレーションされている。
そんな船に、勇者たちが乗るわけにはいかなかった。
なぜならば、いくら島に行くのが目的とはいえ、『ゴージャスマート』のライバル店の船なんかに乗ってしまったら……。
その姿を他の勇者からチクられでもしたら、裏切り者の烙印を押されかねないからだ。
いまも勇者たちは、沖合いで足止めを食らっている。
なかには顔を真っ赤にして、オールで漕いでいる者もいるが、ピクリとも進んでいない。
白鳥は、優雅に泳いでいるように見えても、水面下ではバタ足しているというが……。
彼らはその真逆であった。
いつもは優雅に白馬や高速船を乗りこなしている勇者が、隠すことなく必死にバタ足……!
皮肉にもその様まで、アトラクションの一環として、利用されているとも知らず……!
勇者たちの船の横を、ゴルドくんの巡航船が通り過ぎていく。
『みなさま、左手をごらんください! これが最初のアトラクション、『泥沼勇者』です! 勇者たちが、泥沼にハマったブタみたいにもがいてますねぇ~! 今にもブヒィブヒィといった声が聞こえてきそうです! あのみっともないのが、勇者たちの本当の姿というのが、これからわかっていきますから、期待しててくださいねぇ~!』
船には多くの家族連れが乗っていたが、この時点ではさすがにドン引き。
公共の施設で、ここまで堂々と勇者批判をしているのは初めてだからだ。
「い……いまの、勇者様への悪口だよな?」
「ゆ、勇者様をブタ呼ばわりだなんて、なんて恐れ多い……!」
「噂には聞いてたけど、なんて怖いもの知らずなんでしょう……!」
「勇者様が、ブタなわけあるもんか!」





