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11 生まれ変わるために1

 ストロードール家の聖女たちが、生き恥のパレードをしていたころ……。

 生まれ変わった聖女軍団たちは、キリーランドの港を出発していた。


 彼女たちはゴルドくんがデコレーションされた『スラムドッグマート』の商船に乗り、グレイスカイ島を目指す。


 一時期、沖合には世界大戦かと思われるほどの多数の船が停泊していたのだが、その数もだいぶ減っている。

 いまではごつい軍船よりも、高級スポーツカーのような船が立ち往生。


 それらはすべて、勇者たちのクルーザーであった。


 『ゴーコン』の終了とリヴォルヴ敗北を受け、一部の勇者たちは真っ先にグレイスカイ島を目指した。

 その思惑は様々。


 マスコミが報道しているような出来事が、本当にあの島にあったのか確かめに行こうとする者。

 リヴォルヴ不在の今、島を乗っ取ろうとする者。

 シンイトムラウにいる、謎の生命体を討伐しにいこうとする者……。


 いずれにせよ、あの島には出世のチャンスが転がっているはず……!

 勇者たちは野心に燃えて出港していたが、たとえ彼らの高速船であっても、沖合に出るなりカタツムリほどの微進すらもできなくなってしまう。


 それは、マスコミたちの船も同様であった。

 いまいちばんホットなあの島には、特ダネが転がっているはずだと、エヴァンタイユ諸国にある新聞社はこぞって特派員を派遣する。


 しかし、『ゴーコン』の最中は何ら問題なく行き来できていた彼らの船も、見えない壁に阻まれてしまった。


 宝島と化したグレイスカイ島。

 しかしそこに、行き来できるのは……。


 もはや、野良犬のみ……!


 蜘蛛の網に絡め取られたかのように、ひしめき合う高級船舶たち。


 その横を、特にこれといった装備も積んでいない商船が通り過ぎていく。


 船体に描かれた野良犬が……。

 ボートの上で「ひと休みひと休み」といわんばかりに横たわっている、野良犬のイラストが……。


 すいすいと、優雅に……!


 聖女たちの背後から、悲鳴が追いかけてくる。



「なっ……なんでだよっ!? なんであの船だけ!?」



「俺たちはもう何日もここで、進めずにいるっていうのに!?」



「最新鋭の魔導スクリューを積んだ俺の船が、1ミリたりとも進めないってのに……!



「なんであんな、ふざけた野良犬が描かれた船が通れるんだよっ!?」



「もしかしたら、商船であれば通れるのかもしれないぞ!?」



「見てみろよ! あれを!」



「ああっ!? ゴージャスマートの船も、引っかかってる!?」



「最高級の、王様の船が進めないってのに……!? なんでだよっ!? なんでだよぉーーーっ!?!?」



 勇者たちはプライドがあったのか、それとも知能がなかったのか……。

 特にこれといった対策はしなかった。


 しかしマスコミたちは、なんとかして見えない壁を突破できないか、試行錯誤していた。

 まず、唯一フリーパスである、スラムドッグマートの船の秘密を探る。


 しかし、これといったものは発見されなかった。


 つぎに、密航。

 かつての『わんわん騎士団』がしたように、『スラムドッグマート』の船に忍び込む輩が多発した。


 しかしこれは、船員たちの努力でシャットアウト。

 しかも、たとえ忍び込むことに成功したとしても、異分子がまぎれこんでいるとわかると、他の船と同じように見えない壁に阻まれた。


 とうとう謎が謎を呼び、グレイスカイ島には本当に神様がいるのではないかという噂が、まことしやかに囁かれはじめる。

 そうやると、どうしても現地に行ってみたいと思うのが、人情というもの……!


 しかし、かつてはリゾート地だったあの島は、いまや雲の上よりも遠い場所となってしまった。

 ただし、一部の人間にかぎり、より身近に……!


 野良犬の身内に関しては、まるで隣町に遊びに行くかのような気軽さで、立ち寄れる場所となったのだ……!


 それでは、肝心の島内のほうを見てみよう。


 グレイスカイ島は、ホーリードール家を筆頭とし、復旧作業が進んでいる。

 もちろんその影には、オッサンが暗躍していたのだが……。


 これら一連の作業には、かつては『野良犬連合軍』としてともに戦い、今は帰国しているセレブたちが全面的に支持を表明してくれた。

 おかげでワイルドテイル以外にも大勢の人手が確保でき、順調に進むこととなる。


 まず真っ先に行なわれたのは、ワイルドテイルたちの生活基盤の確保。

 いままではシンイトムラウの麓に押し込まれていた彼らの住まいを、島の西側に住宅街として建造。


 麓はすべて畑にして、広大な農地として活用。


 今までは島の北側にしか港がなかったのだが、東西南北の4箇所に増設。

 西側はワイルドテイルたち専用の港にした。


 そして、漁業も再開。

 今までは、リゾート地としての景観を壊すということで、リヴォルヴが一切禁止していたのだが、それを全面解禁。


 かつてワイルドテイルたちは農業と漁業で暮らしを支えていたのだが、それらを完全復活させたのだ。


 彼らがこれから生きていくために必要な設備を整えたあとは、次の段階。

 オッサ……いや、マザーが指示したのは、リゾート地としての再開発。


 しかし、いままでの成金趣味では意味がない。

 オッサ……いや、マザーが打ち出した、新しい改革コンセプトは……。



 『親子揃って楽しめる、学べるリゾート』……!



 これには大いなる目的があった。


 『ワイルドテイルは邪教徒である』という誤解を解くこと。

 ワイルドテイル弾圧の発端は、シラノシンイが異端の神であるという誤解からである。


 シラノシンイは女神ルナリリスと同一で、地域によっては同じ神を違う形で信仰しているというのを、知らしめることができれば……。

 その考えが子供たちに根付いていけば、やがては世界中のワイルドテイルたちの生命が救われるだろうと考えたのだ。


 なおその点については、ホーリードール家の威光が大いに役に立った。


 なにせこれに関しては、へんなオッサンが教壇に立って、教え諭すよりも……。

 ルナリリスとシラノシンイがともに飾られた聖堂のなかで、ママ聖女がこう語りかけてくれたほうが、よっぽど染み入るというものであろう。



 お友達には、いろんな子がいるわよね?

 背の高い子、低い子、声の大きい子、小さい子、肌の白い子、黒い子……。


 見た目だけでもこんなにたくさんあるのだから、その心の中は、もっとたくさん……。

 お友達が、好きだと思うものや、嫌いに思うものなんて、それこそいっぱいよね。


 もしかしたら自分が大嫌いなものが、お友達が大好きだった……。

 逆に、自分が大好きなものが、お友達が大嫌いだった……。


 そんなこともあるかもしれないわ。

 そしたらあなたは、そのお友達のことも、いっしょに大嫌いになっちゃうかしら?


 ママはね、ママが好きなものを、一緒になって好きになってくれる子が、大好きなの。

 だって、その子と一緒にいれば、その好きなものが、もっともっと好きになれると思うから。


 でもママはそれと同じくらい、ママが苦手だと思うものを、好きになってくれる子も、大好きなの。

 だって、その子と一緒にいれば、そのうち、その苦手なものまで大好きになれると思うから。


 みんなも、お友達のことを、いっぱい好きになってあげて。

 好きな子も、嫌いな子も……好きな子が嫌いなものも、嫌いな子が好きなものも……。


 みんなみんな、ぜーんぶ好きになってほしいの。

 だってそうすれば、この世界にあるものが、みーんな大好きなものになるでしょう?


 大好きなものに囲まれて、生きていくのって……とっても素敵なことじゃない?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まるで、この世の終わりのような有様だったグレイスカイ島が・・・何ということでしょう・・・沖合の見えない壁、野良セレブ達の支援、そして、野良犬の匠たちの手によって、平和な楽園へと、生まれ変わ…
[一言] 勇者一族や偽聖女は反社ですからね。 入れる訳に行きませんね。 ワイルドテイルを虐待していたカジノやホテルはどうなったのかな。 経営者は再起不能なのは解るけど。
[良い点] それでは新リゾート開発が始まりましたか!(大喜) 確かにリヴォルヴが失脚したことで島が新たなクズ勇者たちに狙われてしまいますね! まずは邪魔な連中たちを来させない対応しましたか!(ニヤリ)…
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