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161 3600倍(ざまぁ回)

今回は暴力的なシーンがあります。

今まで読んできて大丈夫だったら平気だと思うのですが、苦手な方は読み飛ばすようにしてください。

飛ばしても話はわかるようにしてあります。

 人間は沸騰したお湯の中に手を入れてしまうと、その苦痛のあまり、1秒間を1時間にも感じるという。

 ようは、3600倍である。


 たとえ一瞬だったとしても、その苦痛があまりにも大きい場合……。

 脳はそれを一刻も早く回避するべく、相対的に時間を遅く感じさせるのだ。


 これは、人体への被害を最小限にとどめるための、脳ができうる精一杯の防御反応である。

 それは、その苦痛を回避できる状況においては、有効に作用する場合がほとんど。


 しかし……。

 『逃げられない』場合は、どうなってしまうのかというと……。


 そう……!

 3600倍にも濃密なる苦痛を、味わうことになる……!


 それが1秒で終わるような事態であれば、まだいい。

 通常の『ヤシクダキ』の鋭い爪で、一瞬にして砕かれて終わるのならば。


 それでも最悪ではあるが、最悪のなかの最悪ではない。


 その、『ヤシクダキ』の爪が……。

 もし、錆びたノコギリのようにボロボロであったなら……。


 安いステーキを、なまくらなナイフでずっとギコギコやり続けるような事態に、なってしまったら……。

 与えられる苦痛は、1秒どころではないだろう。



「ぢゅっ!? ぢゅっ!? ぢゅっ!? ぢゅっ!? ぢゅっ!? ぢゅっぢゅっぢゅっぢゅっぢゅっぢゅっぢゅっ!? ぢゅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



「ござっ!? ござござござござっ!? ござござござござござござござっ!? ござまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーすっ!?!?」



「でしゅっ!? でしゅでしゅでしゅでしゅっ!? でしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 まだ処刑が始まって1分と経っていないのに、少女たちはすでに声を枯らすほどに泣き叫んでいた。

 しかし、彼女たちは忘れてしまっている。


 これは、複数いる執行人のなかの、最初のひとりの責苦に過ぎないことを。

 そのもうひとりが、ついに動き出した。


 彼は、散歩に出かける老人のように、黄ばんだ身体をのったりと動かす。

 干からびた亀首が鎌首のように伸び、パリパリと音をたてる。


 その乾いた音が、さらに大きくなっていく。

 まるで内から何かがせり上がってくるかのように、パリパリが、バリバリと。


 干からびた亀の首を這い上がってきたそれは、首筋にヒビ割れを残す。

 そしてついに、口元までたどり着くと、



 ……バキンッ……!



 顔から下を外れ落としながら、その全貌を現した。


 それは……腐ったゆで卵のような物体であった。

 それをこれからどうするのか、容易に想像がつく。



「やっ……! やめぇぇぇぇぇぇ! やめるでちゅ、やめるでチュゥゥゥゥゥゥゥ……! 良い仔だから、お願いだからぁ……! ほら、ザマを見て、ねっ!? かわいいでチュねぇ!?」



「おねがひ……おねがひでございます! どうか、お許しを……! お許しを……! お金でもなんでも、姉でも妹でも何でも差し上げますから、もう、もう……! このとおり、このとおりでございます! このクールなワタシが、こんなにかわいくおねだりをしているのでございます!」



「や……やめるでしゅ! 今度こそ本当に泣いちゃうでしゅ! カメ野郎と言ったのに怒ったんでしゅか!? あ、あれは横にいるメスブタどもに言わされたんでしゅ! かわいいかわいいベインたんが、本心でそんなことを言うわけがないでしゅ! ほ、ほら! この、かわいいお目々を……!」



 三姉妹にとってはとっておきともいえる、『おねだりポーズ』を取る。

 口をつぐんでキラキラした上目遣いで見つめるというソレは、幾多の者たちを手玉にとってきた必殺ポーズである。


 しかし彼女たちはまだ気付いていない。


 しかし彼女たちは苦痛を受け続けたせいで、もはやほとんど正気は残っていなかった。

 先の命乞いが通用しなかったのだから、わかりそうなはずのことも気付いていない。


 それは……。

 カニやカメに、そんなあざといポーズが通用するわけがないことを……!



 ……ごばあっ!



 異形に満ちた『キャノンタートル』から、奇形の卵が吐き出される。

 ズタボロになった三姉妹の顔に次々と着弾、腐ったトマトのようにべしゃりとぶちまけられた。


 瞬転、傷口に溶かした鉛を流し込まれたような……。

 神経を焼き切られるような絶痛が、彼女たちを覆い尽くすっ……!



「「「ぢゅぎゃぐじゃござべじゅでぎゃでしゅぐばらしゅぎゅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」」」



 グツグツと沸騰するように、傷口が泡立つ。

 ブスブスと皮膚が焦げるような音と臭いがあたりに充満。


 閉じることもできなくなった瞼からは、目玉が剥き出し。

 もはや眼球が溶け出したような色の涙があふれ、開ききった鼻からは、脳が溶け出したような汁がボタボタ。


 垂れ落ちていく混ざり合った液体は、だらしなく垂らした舌を濡らし、ときおり胃液とともにゴバッと吐き出される。

 ビクンビクンと痙攣して白目を剥いたかと思うと、またガクンと背筋をのけぞらせ、意識を取り戻す。


 もはや精神にまで取り返しのつかない深手を負ってしまったかのような、無惨なる見目であった。


 とうとう限界集落となってしまったストロードール家の聖女たち。

 彼女たちは心は腐りきっていたが、見目だけはホーリードール家にライバル意識を燃やすだけあって、かなりの美しさを誇っていた。


 しかし今は、それすらも失ってしまった……!


 彼女たちは自分がどんな見た目になっているかはわからなかったが、まざまざと思い知らされていた。

 なにせ、顔が筋肉標本のようになってしまった、姉妹達が目の前で阿鼻叫喚に陥っているのだから……!



「あああっ! 誰かあっ! 誰か、助けて! ザマを助けるのでチュゥゥゥゥゥゥーーーッ!」



「どなたか! どなたかぁ! ワタシをお助けくださいまし! 今ならまだ、まだ間に合いますので!」



「うわあああああっ! みんなの天使、ベインたんがこんな目にあってるんでしゅよぉ!? はやく! はやく助けるでしゅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!」



 底なし沼に引きずり込まれていくゾンビのように、身体をよじらせ暴れまくる姉妹たち。


 その声は、誰にも届かない……!


 かに、思われたが、



 ……さく。



 砂浜を踏みしめる足音が、背後からした。

 彼女たちは必死になって、その音にすがる。



「ああっ!? ざ、ザマを助けるんでチュ! 助けてくれたら、なんでもあげるでチュ! お金も、地位も、名誉も……! このザマが好きなだけ、恵んであげるでチュ!」



「そ、それよりも、このワタシをお助けください! ワタシのこの美貌で、アナタを絶対に満足させるのでございます! 世界一の美少女のワタシが、到底口にはできないところまで口にさせていただくのでございます!」



「また下ネタかよ! そんなスベタどもよりベインたんを助けるでしゅ! べ、ベインたんは多くの権力者の弱みを握れる写真を持ってるでしゅ! 金なんかよりずっと価値があるものでしゅ! それをぜんぶあげちゃうでしゅ!」



 命綱を奪い合うように、声で押しのけ合う三姉妹。

 まぎれもなく、これが助かる最後のチャンスだと思っているのだ。


 声の主は、必死のアピールに応えるかのように……。

 彼女たちの前に回り込んだ。


 その正体は、なんと……!

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