162 第三の使者(ざまぁ回)
腐った3つのザクロを、取り合うようにほじくっていたカニとカメ。
しかし人の気配を感じると、カサカサと逃げ去ってしまった。
浜辺に現れた人物は、かつては純白であったであろうローブをまとっている。
しかし今は何者かの返り血を浴びており、それが偶然に花柄のようになっていた。
小柄ではあるが、落ち着いた足取り。
巡礼に向かう聖者のように静かに、腐ったザクロの前に回り込む。
ゆっくりと波打ち際に背を向け、太陽をバックに立つ。
ローブのフードを深く被っていたので、逆光になると前面は影によって覆われた。
しかし見下ろすその人物を、腐ったザクロたちは知っていた。
最後の希望が現れたかのように、さっそくすがる。
「アラアラ! アナタは、ザマの聖女軍団の……!」
「名前を忘れてしまうような女の言うことなど、聞く必要はございません! えっと、アナタは……!」
「うわああああんっ! おねえちゃん! 助けてでしゅ! 助けてでしゅぅ!」
結局誰からも名前は挙がらなかったが、その人物は気に留める様子もない。
ふっ、と口元に笑みを浮かべる。
そして、かつてのストロードール家の少女たちとも遜色ないほどの、清純可憐そうな唇は、こう動いたのだ。
「ゴリラのケツからひり出された、未消化のリンゴみたいな顔になってますね。いまならその顔だけで乱交ファックができそうです。猿を呼んできましょうか?」
「あっ……アラアラ、ざまの耳が、おかしくなってしまったのかしら……!? ザマの聖女軍団では、汚い言葉は禁止だって言ったでしょう?」
「そうですよ、だからワタシも御下に関することは、オブラートに何重にもくるんで発言しているのでございます。それこそ、中身が見えなくなってしまうほどに」
「どこがでしゅ!? トイレットペーパーみたいに、水で破れちまうようなオブラートでしゅ!」
「ああ、みなさんの耳がおかしくなったわけではありませんよ。私にとってのみなさんの価値が、ただ単にケツを拭いたあとのトイレットペーパー並になっただけです」
「なっ!? 他のふたりはともかく、ザマがトイレットペーパーですって!?」
「はい。私は今まで、名家の大聖女というのはどれも、フルーツパフェのてっぺんにあるサクランボのような存在だと思っていました」
「あ……アラアラ、ステキな例えねぇ! その通りでチュよぉ!」
「だから今回、ザマの聖女軍団に入り込んでみたんです。神尖組の入隊式に同行できれば、より高位の勇者様とお知り合いになれるんじゃないかと思いまして。でもまさか、巻きグソの上に落ちてたサクランボだったなんて……。私ってどうして、こんなに運が悪いんでしょうか」
「まっ、巻きっ……!?」
絶句するザマー。
ストロングランゲージでは自信のあったベインバックですらも、その少女の変わりっぷりには二の句が継げずにいた。
「そんなわけで、お別れを言いに来たんです。ザマーの聖女軍団は、マザーが面倒を見てくれることになったそうですよ。でも私としては不本意なので、マザーに同行するつもりはありませんが。ちょうど、いい手土産も頂きましたので」
「手土産……?」
「はい。リヴォルヴ様がアーミー・オブ・ワン様を反逆者として狙っているという事実です。その情報があれば、いきなり神尖組のトップに取り入ることもできるでしょう。この島での戦いは伝映により中継されているようなので、もう知れ渡っているかもしれませんが、いまのうちにこの島を出て、有効活用させていただきます。情報というのは、鮮度が命ですので」
彼女はそう言いながら、背後にある海をちらりと見やる。
水平線の向こうに、ごま粒のような船影を目ざとく見つけていた。
「そんなわけで、私もそろそろこの島からおいとまします。……といってもこのまま置き去りにはいたしません。ちゃんと餞別を用意してあります」
救いを匂わせるその一言を耳にした途端、色めきたつザクロたち。
「た、助けてくれるのね!?」「ま、まず親友のワタシから!」「今日からお姉ちゃんの妹になってあげるでしゅ!?」
「ご存じですか? このビーチの隣には、畑のコヤシにもならないようなクズ男たちが埋まっていて、馬の小便をひっかけられているんですよ。コヤシにもならないものにコヤシをあげるなんて、面白いですよね」
彼女はひとり、クスクス笑う。
機嫌を取るために、ザクロたちも引きつった笑いを無理に浮かべる。
しかし次に投げられた一言によって、その笑いすらも凍りついてしまった。
「本当はそれに対抗して、私のほうは傷口に大便を塗って差し上げたかったのです。ですが、人目もあるようですので……」
さらっととんでもないことを口にしながら、ローブの裾をつまみ上げ、ザマーの頭を跨ぐ。
指でつまんでいた裾を、ぱさりと落とすと、ザマーの顔は長いスカートの中に隠れてしまった。
「これで我慢してくださいね」
……じょばばばばばばばば!
勢いよく放たれたるような水音が、スカートの中で起こる。
薄手の生地の向こうでは、血のシャワーを浴びるような絶叫が。
「ぎゃああああああっ!? なっ!? なんてことをっ!? ざっ、ザマのお顔にこんなことをして、ただですむと思っているんでチュかっ!?」
「いまさらなにを言っているのですか? 袋から飛び出したキンタマみたいな顔をしてるくせに」
彼女はさっぱりとした様子で跨ぎを終える。
ファサッと翻ったローブの裾の向こうには……湯気をたつほどにほかほかな汚液にまみれた、ザマーの顔が。
「ふふっ、やっぱり、私のションベンですら、そのお顔には最高級のファンデーションになってしまいましたね。せっかくですから、仕上がりを確認してください」
彼女は懐から手鏡を取り出すと、柄を砂浜に突きたてた。
鏡面に映ったザクロたちは、自分の現況を、ここでようやく知る。
ついに精神崩壊を起こしてしまったかのような、死の産声が……!
「ひっ……!? ひぎっ!? ひぎいいいいっ!? ざ、ザマのお顔が、お顔がっ!?」
「あああっ!? 世界ナンバー2と言われた美貌が……!」
「ぐっちゃぐちゃのめっちゃくちゃに、なってるでしゅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!」
その狼狽ぶりに、彼女はふぅ、と溜息をついた。
「やっぱり……。まわりの顔がボロボロでも、『自分の顔だけは大丈夫』なんて思ってたんでしょう。なんておめでたいんでしょう。頭のなかに、ゲロでも詰まってるんでしょうか?」





