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140 もうひとつの名門

 神尖組(しんせんぐみ)の入隊式に招待された、女子高生コンビ『ビッグバン・ラヴ』。

 人気モデルである彼女たちに招待状が届くのはごく普通のことなのであるが、今までは彼女たちのプロデューサーがすべて断っていた。


 しかし今回に限ってはなぜか、プロデューサーは彼女たちを派遣したのだ。

 しぶしぶグレイスカイ島にやって来たビッグバン・ラヴのふたりは、最悪の日々を過ごすことになる。


 この島にある施設はどれも華美で金ピカで受付けず、食事は豪華さで誤魔化したようなものばかり。

 肝心の式典は気持ちの悪いのが像に突き刺さってて暴れ出すし、最悪であった。


 ふたりは一刻も早くこの島を離れたがっていたが、現在この島にはテロリストがいるとのこと。

 テロリストの内通者が来賓客にいるかもしれないということで、出港制限が掛けられていたのだ。


 本来であれば各国の王族がいるなかでの出港制限など不可能なのであるが、それすらも可能にしてしまうのがゴーコンの力である。


 いずれにせよビッグバン・ラヴのふたりは、見て(●●)しまったのだ。

 ヒマつぶしにあがったホテルの展望台で、『空飛ぶママ』をっ……!


 こうなってはいてもたってもいられない。

 ふたりはリインカーネーションが飛んでいった方角に向かうため、急いで展望台を降りようとした。


 しかしちょうど出入り口のところから、白い影がぞろぞろと現れる。

 立ち塞がったのは、ビッグバン・ラヴと同い年くらいの聖女たちであった。



「ちょっと、そこどくし! あーしらはいま、急いでんだから!」



「ふーん、邪魔じゃん」



 ボーリングのピンのように並び、ホテルに戻る扉を塞ぐ聖少女たち。

 みな目深にフードを被り、敬虔な巡礼者のように俯いている。


 キングピンの位置にいた少女が、ゆっくりと顔をあげた。



「おふたりに、ちょっとお話がございます」



 そう言いながらフード取った途端に、美しい髪が清水のようにさらりとこぼれる。


 言葉も顔立ちも、誰よりも整っていたその少女。

 しかし口調はどこか他人行儀で、目はキツネのように吊り上がっているせいで、どこかキツい印象を与えた。



「えっと、あんたはたしか、ナントカ家のナントカ、ナントカっしょ?」



「ふーん、ストロードール家の次女、ブリギラじゃん」



 女子高生コンビから名を呼ばれた少女は、ふっと口元を緩めた。

 しかし目は、ぜんぜん笑っていなかった。



「お噂どおりの、愉快な方々でございますね。でもスラムドッグマートのイメージキャラクターをおつとめになるのは、愉快ではございませんね」



 「「ハァ?」」と揃って眉根を寄せるビッグバン・ラヴ

 ブリギラはそんな反応も気にもとめず、一方的に話を進める。



「この聖女の名門にして、女神の生まれ変わりとされているこのストロードール家の次女から、お願いがございます。邪悪なる心に染まる前に、スラムドッグマートのイメージキャラクターをおやめになるのでございます」



「「ハアァ?」」



「アナタ方はご存じないかもしれませんが、あのお店は邪神クルンサクスの生まれ変わりといわれる、ホーリードール家の息が……くっさい吐息がかかっているのでございます。そんなお店のイメージキャラクターなど務めていたら、アナタ方の心も邪神に取り込まれてしまうのでございます」



「「ハアァ!?」」



「いますぐにイメージキャラクター辞退の連絡をするのでございます。そしてアナタ方が、モデルで稼いでいるお金の5……いや、80パーセントをストロードール家に寄付するのでございます。そうすれば、アナタ方は邪神の呪縛から逃れ、キレイな身体に……」



 ブリギラは、まだ『初絡み』ともいえる段階だというのに……。

 噂にしても根も葉もない言いがかりをつけてきて、そのうえ寄付の要請までしてきた。


 スラムドッグマート・ラヴのふたりがキレてしまうのも、無理はなかろう。



「ハァーーーッ!? さっきから何言ってるし!? ぜんっぜん意味わかんねーし! ホーリードール家が邪神の生まれ変わり!? そんなことあるわけなくなくなくなくなくなくないっ!?!?」



「ふーん、ただのバカじゃん」



「それにいきなり金よこせだなんて、何様のつもりっ!?」



「ふーん、ただのタカリじゃん」



「マザーは一度だって、あーしらに寄付なんて迫ったことないよ! それどころか『犬袋(いぬぶくろ)』とかいう袋に入ったお小遣いくれたもん!」



「ふーん、それを言うなら『ぽち袋』じゃん」



「あーしらはお金なんていらないっていったけど、中身はお金じゃなくてチケットだったし! それもゴルドウルフさんとイチャイチャできるチケットだったし! あーしらにとっては最高のお小遣いだったし!」



「ふーん、同意じゃん。……って、バーちゃん興奮しすぎ。それよりも今はビーチに行かないと」



「あっ、そーだった! あーしらは急いでんの! ちょっとそこどくしっ!」



 しかしいくら言っても聖女たちは動こうとしなかったので、焦れたバーニング・ラヴは手のひらをかざし、



 ……ボッ!



 と一瞬だけ火炎を放った。


 「キャアッ!?」と割れる人垣。

 そのスキに、ふたりは間を抜けた。


 扉を押し開け、階段を駆け下りるふたりの背中に、金切り声が追いかけてくる。



「女神の生まれ変わりとされるワタシに、なんてことを……! きっとあのふたりはもう、身も心も邪神に支配されているのでございます!」



 ビッグバン・ラヴはそれを振り払うように走り、ホテルの客室廊下へと向かう。

 鏡面のように磨き上げられた大理石の廊下を、ヒールを激しく打ち鳴らしながら進む。


 1階のロビーに向かうため、魔導エレベーターを目指していると、曲がり角で巨大な影とぶつかってしまう。



 ……どおんっ!



 今度はふたりが悲鳴をあげる番だった。



「「きゃあっ!?」」



 しかも床にはオイルのようなものが撒かれており、もんどりを打つように、スッテーンと豪快にすっ転んでしまった。

 大股を開いたままの尻もちで、「いててて……」と腰をさすっていると、



 ……パシャッ! パシャッパシャッ!



 目の前には、子供用のローブをまとう、幼女が……!



「ヒヒヒ……! ビッグバン・ラヴの、パンモロゲットでしゅ……! ヒヒヒヒ……!」



 蜘蛛のように四つ足で這いつくばったまま、首から下げた真写(しんしゃ)機のシャッターを切りまくっていた……!


 幼さに似合わぬ口調、聖女とは思わえぬ体勢。

 彼女はもはや、幼女でも聖女でもなかった。


 さながら、連続殺人鬼の魂が乗り移った、悪魔の人形……!


 それがあまりにも強烈なギャップだったので、ブリザード・ラヴは当然のように……。

 物覚えの悪いバーニング・ラヴですらも、ハッキリとその名を口にしていた。



「「ストロードール家の、三女……ベインバック……!?」」

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