48 クーララカの逃亡生活7(ヘイト回)
『おおーーーーーーーーーっとぉ!? 宣言どおりのニコニコ笑顔、ニコニコ笑顔しゃぁぁぁぁぁーーーーんっ!!』
「わっ……わはひはははっへなほ、ひはひっ……!」
――私は、笑ってなど、いない……!
クーララカの声と魂は、同時に叫びをあげていた。
しかし、届かない……!
顔は引きつり歪み、彼女の意思とは真逆の表情を作りだしていたのだ。
『このゴリラはこう言ってるしゃん! たった5回転程度では、野良犬の神様を信じるゴリにとっては、日課の水浴び程度だと! なんたる大胆発言しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!!』
――い、言ってない! 私はそんなこと、言ってなどいない!
クーララカは懸命に顔を振って否定しようとするが、ガッチリと固定されていて、微動だにさせられない。
しかも表情は笑顔のままなので、それが観客のさらなる反感を買った。
「なんだとっ!? あのワイルドテイル、なんて怖ろしいことを言ってるんだ!?」
「野良犬の神様ですって!? ルナリリス様どころか、犬を崇めるだなんて!?」
「野良犬なのかゴリラなのか、どっちなんだっ!?」
「どっちにしても、魔王信奉者以上の怖ろしい女に違いないっ!」
「記念撮影なんて後よっ! あの邪教徒が泣き叫ぶ姿を真写におさめて、引き伸ばして居間に飾ってやりたいわっ!」
客席からマシンガンのように飛んでくるブーイング。
シャンパンアケマクリはクーララカのほうに、一瞬だけ忍び笑いを向けると、さらにこれでもかと観客を煽ったのだ……!
『そうしゃんそうしゃん! このメスゴリラにはきっと、ゴッドスマイル様もお怒りしゃんっ! それではお客様の要望どおり、記念撮影は後回しにして、第2ラウンドいくしゃんっ! いっぱい賭けして、この満面の笑顔を、ブッ壊してやろうしゃんっ! シャンパン、アケマクリィィィィーーーッ!!』
――や……やめろっ!
やめろやめろやめろやめろっ……!!
声にならない懇願とは裏腹に、チップは山のように積み上がっていく。
それはさながら、絶望の山脈のようであった……!
『おおおおおおおおーーーーーーーーーーっと! なんと第2ラウンドにして、1億¥ものベットとはっ!? みんなよっぽどこのメスゴリラを懲らしめたいようしゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーんっ!! それじゃ、倍の10回転、いっくしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!』
わっ! と沸き起こる拍手と歓声。
この空間では、誰もが興奮と狂気、そして享楽に支配されていた。
ただひとりの、女をのぞいて……。
――やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
彼女はすでに、瞳を溺れさせんばかりの涙を溢れさせていた。
しかしそれすらも、水槽の中へと消えていく。
ただの、水のように……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夜になってようやく、廃屋に戻ってきたクーララカ。
というか、戻された彼女は、
……ドサッ!!
と荷物のように、床に乱暴に投げ出されていた。
両手両足は縛られているので、受け身を取ることはできない。
まともに叩きつけられた衝撃で、圧迫した肺から息が絞り出される。
「ごはあっ!?」
バケツを倒したように、口からぶちまけられる水。
ついでに飛び出したチャンスボールは、金色だった。
シャンパンアケマクリは彼女を見下ろしながら、肩をすくめる。
「あ~あ、あと1ラウンドあったら、とってもとっても楽しいことになる、ゴールデンボールが出ていたしゃん。残念残念しゃん」
茫洋とした瞳の前を通り過ぎていくピンポン球。
それにはおぞましい文章が描かれていたのだが、彼女はもう、それを読むことすらできなかった。
「ちょっと、薬を使いすぎたようしゃん。これが、なんだかわかるしゃん?」
ポイ、と放り捨てられた茶色の小瓶が、光を失った瞳の前まで転がっていく。
残りわずかとなった内容液が揺らぐそれは、こつん、と鼻先に当たって止まった。
数時間ぶりに拘束から解放された唇が、かすかに動く。
「 ワ・ ラ ・ イ ・ グ ・ ス ・ リ ……」
「そうしゃん。この島にいる知り合いの創勇者から貰った、『笑い薬』しゃん。この島では兵器開発が盛んだから、こんな珍しい薬も手に入るしゃん。もっとも実際に笑うわけじゃなくて、顔の筋肉を引きつらせて、笑っているように見せかける薬しゃん。しかしまだ笑ってるだなんて、すごい効き目しゃん。本当に喜んでるように見えるしゃん」
笑いの鉄仮面のように、張り付いたままの笑顔に向かってしゃがみこむシャンパンアケマクリ。
ニタァァァァ……! と心の底からの笑顔を浮かべる。
「この薬を使えば、どんなに苦しい水責めにあっても、ウルトラハッピーしゃん。その全開笑顔は観客たちをさらに熱くさせ、どんどんチップが賭けられるという寸法しゃん。しかも『満面の笑顔』は、親の総取り……! カジノはガッポガッポと儲かっていくしゃん……!」
「イ……イカ……サマ……じゃ……な……い……か……」
「大丈夫大丈夫、こんな薬があるだなんて、セレブどころか勇者だって知らないしゃん。だってコレは、異教徒殲滅に使う毒ガスの開発の際に生まれた失敗作で、存在を知っているのはほんの僅かしゃん。俺はこの島にバカンスに来て、なにもかも失ったしゃん、でもズボンのポケットに、コレだけ残っていたしゃん」
ポケットからふたつ目の薬瓶を取り出す、シャンパンアケマクリ。
「コレはもともとは自分が、体調が悪いときにステージに立つときにでも、笑顔が作れるようにと、試しに何本か買ったものしゃん。でもこんな使い方を思いつくだなんて、俺はやっぱり天才しゃん……!」
覗き込む笑顔に、黒い影がさす。
それはゾッとするほど不気味なものだったのだが、クーララカの頬は、薬のせいで引きつることさえも許されない。
「明日からもこれを使って、バカなセレブどもから金を巻き上げてやるしゃん……! 『狭間ルーレット』でのカジノの取り分の一部が俺の給料になるから、あっという間に小金持ちになれるしゃん……!」
「……や……やめ……やめろ……」
人形のような笑顔から、震え声が絞り出される。
悪魔のような笑顔からは、さらなる嘲笑が……!
「でも、安心するしゃん……! 俺はこれまでさんざん『狭間ルーレット』のMCをやってきたから、どのくらいやれば球が死ぬかの加減はわかっているしゃん……! きっと今日のルーレットでも、お前は何度も三途の川を見てきたはずしゃん……! それこそ、そこで水遊びができるほどに……!」
「……やっ……やめ……やめろっ……!」
「もちろん最後には、水遊びをさせてあげるしゃん……! さんざん稼いで、アフロが買えるほどに、金が貯まったら……! その頃にはきっとクルクルパーになっていて、何もかも忘れているしゃん……! この俺の正体が、ジャンジャンバリバリであることも……!」
「……やめろやめろやめろやめろっ……やめろっ……!」
「そのあとで、神尖組に引き渡してやるしゃん……! そうすれば、この島にいるという創勇者のトップにも、売り込めるしゃん……! そして、神尖組の入隊式典のMCとして、この俺が大抜擢されれば……!」
「……やめっ……やめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ……!」
「俺はまたジャンジャンバリバリとして、不死鳥のように表舞台に舞い戻れるじゃんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ヘイト回はこれで終わりです。
次回から、クーララカの過去が明らかに!
いままでは名前のみだった、とある勇者が登場…!
そしてその後は、もちろん…! ご期待ください!





