183 ヘタレの最期
……ドガッ!!!!
グワッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!
隕石が落ちたかのような轟音と衝撃が、闇を揺らす。
砕け散った金属の破片があたりに飛び散り、鍋蓋が転がるような耳障りな音がガランゴロンと響く。
花火として高高度まで打ち上げられ、火薬の詰まった邪神像とともに勇者は爆散した。
……かに見えた。
しかし彼は残骸となって墜落、不死者たちの国へと舞い戻る。
そして再びの高所落下を体験し、硬い石床に叩きつけられていたのだ。
もはや悲鳴はない。
クレーターのように穿たれた地面の中で、負け犬のように蹲るのみ。
肉塊のようになってもなお、まだ生きていることが不思議であった。
しかし、肉体的にもメンタル的にも脅威のしぶとさを発揮し、食い下がってきた彼も……。
もはや限界、もはや万事休す……。
いまここに、ひとつの勇者の生命のの灯火が、消えようとしていた。
――ああ、やっと……。
やっと、苦痛から解放されるのしゃ……。
もう、メスブタなんて、どうでもいい……どうでもいいのしゃ……。
もう、食べ飽きた……食べ飽きたのしゃ……。
だからこれから、ゼピュロスは天国に行って……。
今度は天使たちを……そして女神たちを食らうのしゃ……。
ああ……!
光が、光がみえる……!
とうとう、今度こそ本当に、お迎えが来たようなのしゃ……!
蛍のような小さな光が現れ、揺れながら近づいてくる。
手を伸ばしてそれを掴みたかったが、もう動かない。
というか腕があるかどうかも、もうわからない。
しかしその光が、着実にそばに近づいて来ていることだけはわかった。
地べたに這いつくばったゼピュロスの、霞んだ視界には……。
オーロラのような、白い翼が揺れている。
――ああ……。
天使が、天使がついに……。
このゼピュロスを、迎えに来てくれたのしゃ……。
もう疲れた……疲れたのしゃ……。
なんだかとても眠いのしゃ……。
ゼピュロスを早く、天国へと……。
カァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!
しかしその天使は、まるで女豹のような咆哮のあと、
ブベベベベベベベベベベベベベーーーーーーーーーッ!!
まるでドラゴンゾンビのアシッドブレスのように、何かを吐きかけてきた。
巨峰のような大きな痰がいくつも、勇者の顔面にナメクジのように着弾する。
そして純白のローブの袖で、口元を拭いながら、
「はぁ、これで少しスッキリしました。やっと痰壺を見つけましたわ。……ああ、もうほとんど何も見えず、何も聞こえず、言葉も話せないんですよね? 痰壺なのだから、それが当然なんですけど……」
その人物はそう吐き捨てながら、小瓶を取り出す。
青い液体が入ったそれを、封をしたまま近くの床めがけて投げた。
……パリンッ!
中の液体が床に飛び散り、ガラスの破片が、ゼピュロスという名の肉塊に刺さる。
肉塊が、たちのぼった薄煙に包まれると、わずかな呻きをもらした。
「う……ううっ……」
「これで少しは見え、聞こえ、話せるようになりましたでしょう?」
「り……リン……シ……ラ……。は……は……や……く……。い……いのり……を……」
「痰壺に捧げる祈りなんてありませんの」
リンシラと呼ばれた白いローブをまとった少女は、手にしていたランタンを足元に置いた。
「はぁ……本当に今度こそ……今度こそ今度こそ当たりの勇者を引き当ててたと思ったのに……。アークギアの整備を一生懸命勉強して、整備士として同行したというのに……まさかヘタレだったとは……」
「そ……そう……だ……。あ、アーク……ギア……を……。アークギアを……直せ……直すの……しゃ……」
「コレを直すくらいだったら、いちど出した下痢○をケツの中に戻すほうが、まだ簡単でしょうね。ほら、ここにケツ穴がありますし」
ふたたび、ベッ! と吐きかけたものが、勇者の口に着弾する。
「しかし、これほどのヘタレだったとは……。でも実をいうと、ツアーに参加したときからちょっと思ってたんです。コイツはもしかしたら、ド腐れチ○ポ野郎なんじゃないかってね。まず目がキ○タマみたいだったし、しゃべり方もスカンクの屁みたいで、聞いてたら耳からゲロが出そうになりましたし……」
自分の耳が腐ってしまったのかと思うほどに、目の前の聖女はこれでもかと汚い言葉を浴びせかけてきた。
彼女が「アークギアの整備士として同行する、リンシラです」と挨拶してきた時には、ホーリードール家の聖女であるプリムラにも負けないほど、淑やかで慎み深いメスブタだと思っていたゼピュロスは、唖然とする。
そして今更ながらに、自分をそんな風に思っていたのかと、怒りを感じていた。
「な……なん……だ……と……」
しかしヘドロのマシンガンのような、リンシラの口撃は止まらない。
「ツアーで先陣きって歩いてる時も、歩き方がクソを漏らしたケツを見せつけるみたいでしたし……。でも一生懸命ガマンしてたんですよ、クソでコーティングされたチョコを食べるつもりで。でもまさか、中身までクソだったなんて……。それじゃ本当に利用価値ゼロじゃないですか、あなたのチ○ポと一緒で」
「こ……この、ゼピュロス……を……利用……しようと……して、いた、と……?」
「メスブタを食らう立場だと思っていたあなたには、メスブタに利用されかけたのがショックなんでしょうね。でもその感情は、利用されてから感じるものですよ。今のあなたは何の価値もない、ただのチ○ポ型寝小便人形なんですから」
「こ……このっ……メスブタ……があっ」
「でも寝小便ばかりのあなたと違って、やることはきちんとやりましたよ。ツアー序盤で、床が傾いて坂道になる罠がありましたよね? あそこでちゃんと台本どおりに、魔導女をひとり突き落としたんですから」
今回のツアーにおいて、いくつかのトラブルはリンシラの手によって引き起こされる予定になっていた。
しかし最初の罠が台本どおりに行かなかったので、それ以降は様子見をしていたのだ。
「それに、トラブルのフォローもちゃんとしていたんですよ? 第二の裁きの時に、髪を掴まれ振り回されてハゲになったでしょう。そのあと、尖兵を襲って髪の毛を奪いましたよね。あの時、私は絶対魔法防御のアミュレットを使って、その一部始終が伝映に流れないようにしていたんですから」
聖女は深く、溜息をつく。
「はぁ……。大昔に、女に縁のなさそうなオッサンに貰った、超レアアミュレットだったのに……。でもそれで勇者様の失態を誤魔化せるならと思って、虎の子のアイテムを投入したのに……。まさかそれ以上のヘマを、次々としでかしてくれるなんて……。これなら、アミュレットをクソ溜めに投げ込んで遊んだほうが、まだ有意義でしたね」
言いながら彼女は、使用済みのアミュレットをゼピュロスの口めがけて弾き、靴底でさらに押し込んだ。
「ん……! ん……! んうぅ……!」
「これでもう、あなたは立派なクソ溜め野郎ですよ。あ、もうひとつ、足りないものがありましたね」
ローブの裾をまくりあげ、和式便器に座る直前のように、肉の塊をまたぐと、
……じょばばばばばばば!
黄金の聖水をぶちまけた。
「はあ、これでもっとスッキリしました。じゃあ、床オナニーはそのくらいにして、そろそろ行きましょうか」
リンシラは背中に担いでいた刺股を手に取ると、アークギアの胴体に引っかけて、ゼピュロスの身体をズリズリと引きずりはじめる。
「ひゃっ……!? な、なにを……!? なにを、するのひゃっ!?」
「なにって、使用済みのクソ溜めを捨てるんです。実を言うと私、ライドボーイ・ロンギヌス様から仰せつかってるんですよ。もしこのツアーでライドボーイの上げ底がバレるようなことがあったら、始末するように、って。クソ溜めをこのままにしておいたら、後からこの不死王の国に来た人にバレるでしょう? この先に、最下層に繋がる昇降機の穴がありますから、そこに捨てようと思って」
「ひゃ……! ひゃめっ!? ひゃめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「死にかけのジジイのチ○ポみたいに、急に元気になりましたね。でもクソ山にチ○ポが生えたところで、レディは誰も振り向かないでしょう。それに私はこのクソ山を始末することにより、ライドボーイの上位の方々に取り計らってもらえるんです。クソを片付ける女はクソ溜めの神様に見初められて、いい結婚ができる、っていいますからね」
「ひぎいいいいいいっ!? ひゃめて! ひゃめてひゃめてひゃめて!? にゃんでもする! にゃんでもしますからぁぁぁぁぁぁっ!! ひゃすけて! ひゃすけてぇぇぇ!!」
「クソがいくら出たがらないからといって、ケツ穴に引っ込むことを許す人間はいないでしょう? ……それでは、ごきげんよう」
「ひゃすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!」
暗闇へと引きずり込まれていくような、ゼピュロスの悲鳴。
「はぁ、これで本当にスッキリしました。記念に真写にとっておきたくなるくらい、でかいクソでしたねぇ」
可憐なる聖女は便秘が解消したような晴れやかな表情で、背を向けた。
これにてゼピュロス編、終了…!?
勇者サイドの同行者としてリンシラがいたのは、実は本編中でも少し匂わせていました。
お気づきになりましたでしょうか?