182 カーテンコール
ゴルドくん一行は無事ツアーを終え、『不死王の国』の外へと出る。
様々なハプニングに見舞われたものの、ひとりのケガ人も出すことはなかった。
本来ならば、ツアーが始まった時に作動した仕掛けである、重い鉄壁が立ち塞がっているはずなのだが……。
そこはなぜか、通りやすいように四角く切り取られていたので、問題なく通り抜けることができた。
なんにせよ、これで、ほっと一息……。
つくヒマは、彼らには与えられなかった。
特に、彼には。
ゴルドくんたちは、勇者一行が地下迷宮に入る時に使った、丘の上にある出入り口から、外に出たのだが……。
『ジャンジャン、バリバリィィィィィーーーーッ!! 今日いちばんのヒーローの、ゴルドくんが出てきたじゃぁぁぁぁぁーーーーんっ! みんな、拍手喝采大歓声じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーんっ!!』
観客たち詰めかけたステージにあがらされ、ヒーローインタビューを受けることになってしまった。
しかも、そのあとに不死王の国から出てきた、29名の少女たちが加わったものだから、もう大変。
「私たち、ゴルドくんのファンなんですーっ! 握手して、握手っ!」
「ゴルドくん、超カッコ良かったよ! うふふ、大好きっ!」
「またツアーやってください! 今度は絶対絶対そっちのツアーに行きます!」
よってたかってもみくちゃにされてしまったのだ。
ゴルドくんはこの時、捨てられる寸前のぬいぐるみのごとくボロボロだった。
というか身体のほとんどが露出していて、もはや着ぐるみどころか、中の人とバッシバッシ目が合うような有様。
ゴルドウルフであるということだけは、隠し通せている……。
とは思うのだが、中の人がオッサンであることはバレてしまった。
普通、マスコットキャラクターに男が……。
特にオッサンが入っていることを知ったら、女性客はドン引きするはずなのに、
「やったー! ゴルドくんの中にいる人と、目が合っちゃった!」
「渋いおじさまよ! ああん、かっこいいーっ!」
「わぁ、着ぐるみの手もいいけど、生の手もごつごつしてて、素敵っ!」
むしろ大喜びされてしまったので、むしろオッサンのほうが困惑してしまう。
そして、シャオマオとビッグバン・ラヴはというと……。
気がついた途端に、気の毒になるほど大号泣をはじめてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!! シャオマオ、ゴルドくんを刺してしまってね!! とんでもない……とんでもないことをしてしまったねーーーーーーーーーーーっ!!」
「うわああああんっ! ごめんなさい、ゴルドくんっ!! まさか大魔法を当てちゃうなんて!! ありえなくないなくなくなくなくないっ!?!?」
「あああ……! うううっ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ゴルドくん! ゴルドくぅん!」
オートマチック車で間違えてバックして、最愛の人を轢いてしまったかのように泣き崩れる少年少女たち。
ゴルドくんはしゃがみこみ、3人の手を取りながら、いつものとぼけた声で言う。
「顔をあげてください。私はみなさんに、何もされていませんよ。きっとゼピュロス・タッチの影響で、悪い夢でも見ていたのでしょう」
とぼけた口調で、ゴルドくんはとぼけた。
しかし彼らはなかなか信じようとはしなかった。
「ウソね! たしかにシャオマオは、ゴルドくんの胸を、剣で貫いたね! あの時の感触は、夢なんかじゃない……ハッキリと覚えているね!」
「あーしも! 確かにバーニング・バラージ・ドラムソロをゴルドくんにブチ込んだもん! あの焦げた匂い……! 絶対に、マジだったって!」
「……ブリザード・ブリッツ・ペンタトニックを、確かにゴルドくんに当てた……しかも、全弾……。モニターには、映ってなかったの?」
すると、外野がどっと沸いた。
「決闘が始まったとたんに伝映が乱れちゃったから、こっちからは何も見えなかったわよ! でもそれ以前の問題でしょ! 胸を剣で貫かれたうえに、ふたつの大魔法をくらって生きてる人間なんて、いるわけないんだから!」
「最新の魔法練成がなされた、アークギアのフルアーマーなら、それでも辛うじて生きていられるのん。でも駆動系がやられて、立つこともでなくなるはずのん」
「ゴルドくんは破けちゃってますけど、ケガはしてませんから、やっぱり夢だったんですよ~!」
あっはっはっはっはっ! と笑われ、たしかにそう言われてみれば……という表情になる、シャオマオとビッグバン・ラヴ。
お互いが顔を見合わせあって、ウサギのように泣きはらした瞳をぱちくりさせている。
……オッサンは、ゼピュロスとの決闘で、3人からの攻撃を確かに受けた。
しかしそれは、必要があったからなのだ。
ひとつめの理由は、勇者の本性を引きずり出し、シャオマオとビッグバン・ラヴに見せること。
絶対的勝利を確信した時点で、ゼピュロスは少なくともシャオマオも一緒に始末するだろうと考えたのだ。
そして、それらの衝撃の連続より、自力で魅了を解くきっかけを与えること。
魅了というのはショックを受けると解けやすくなる。
たとえば魅了された人間がいる場合、仲間が敢えて攻撃して解除する方法があるのだが、それと同じようなことをやったというわけだ。
さらに、自力で魅了を脱出する方法を体験すれば、以降は同じようなキッカケがあれば魅了を解くことができるようになる。
オッサンはシャオマオとビッグバン・ラヴに、勇者の本性と、そして魅了への耐性を付けてほしかったのだ。
そうすればもう二度と、彼らは勇者に騙されることはなくなる。
100の言葉で教えるよりも、1の体験こそが重要。
荒療治ではあったものの、これこそがオッサンの言う『守る』ということであり……。
『二度とこの悲劇は繰り返さない』という、マオマオやミグレアへの贖罪であった。
オッサンなりの贖罪は、もうひとつある。
敢えて剣撃と、大魔法を受け、新たなる傷を増やしたこと。
しかしこれは、あくまで自己満足……内罰的なものでしかない。
これをしたからといって、失われたものが戻ってくるわけではない。
だがオッサンにとっては、ひとつのケジメ、新たなる決意……。
マオマオとミグレアのことを忘れないため、頭だけでなく身体にも刻み込んだのだ。
でもそれで、シャオマオとビッグバン・ラヴに罪悪感を植え付けては意味がない。
だからあれは夢だったと、とぼけてみせたのだ。
……ステージイベントはそれからも、夜遅くまで続いた。
勇者の看板やグッズはうず高く積み上げられ、キャンプファイヤーのように火が付けられる。
ゴルドくんはフォークダンスに駆り出され、千人ものファンと一緒に踊った。
不死王の国の外では、いつまでもいつまでも笑い声が絶えなかった。
みんなゴルドくんに夢中だったので、誰も気付かなかったのかもしれない。
線香花火の終わりのような火の玉が、空から降ってきて……。
ピラミッドの頂点にある、開きっぱなしの穴に、再び吸い込まれていくのを……。
オッサン以外は、誰も見ていなかったかもしれない。
いや……ひとりだけ……ひとりだけ、気付いていた者がいた。
それは、暗い地下迷宮の中で……。
ひとり、火の玉が落ちてくるのを待っていたのだ。
ツアーが始まったときに、鉄の壁が降りて閉じ込められるというハプニングがあったのですが、その壁は切り取られて通れるようになっていました。
ゴルドウルフの命令で、先回りしていたルクプルの仕事です。





