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戦いが始まる


 さて、何も知らないトータスやタケシたち一行は、無事にトコトン掘りに着いた。川で遊ぶミキオとツカサとテツオ、それに犬のアルフやハトのアルノーとモーリス、さらに男蛇と女蛇のタカ&エミ達。それを見て猫軍団も嬉しそうに、自転車道から川へ降りて行った。トータスも、タロウの背中に乗って下りて行った。それを涼やかな眼差しで見つめるタケシ…あぁ何て凛々しい。

 

 さて雄々しく淋洸堰を進発した淋洸堰軍団だったが、何とも頼りない。ウナギのカバヤ率いるウナギ部隊、リーダーを失ったハヤ部隊、同じくリーダーを失ったスッポン部隊、アユのシオヤ部隊、フナのフナズシ部隊、ゴリのクチダケ部隊、ほうせんぼうのロケット部隊、手長エビのピラフ部隊、もくずガニのグラブ部隊、アメリカザリガニのシカゴ部隊、日本ザリガニのナデシコ部隊、そして水面からはアメンボのマオ部隊、ミズスマシのミキティ部隊、メダカのワラベ部隊が、それぞれ隊列を成して進軍して行った。それを日の丸を振りながら、涙で見送る留守居役の淋洸堰軍団たちの子や年寄りたち。まるで、戦時下の日本でもあるような悲壮感漂う進軍だが、決して笑ってはいけない。野生で生きる生き物たちには、私たち人間には分からない厳しい『闘争』と言う自然の掟があるのだ。彼らも、この地球上のどこかで、死い出の行進をやっているのかも知れない…それにしても、ピラニアやワニなどの化け物を相手に、手長エビやアメンボとは…やはり笑う。


 淋洸堰軍団は、八方原橋に着くと、早速ニシキ大統領の下で戦闘状態に突入して行った。断刀の如く勢いで、振り下ろされる胸鰭の号令、別にカッコ良くもないくせしてカッコ良く振り下ろされるニシキの命令一下。かくして戦端は開かれたが、戦局は予想通りの悲惨さで推移して行った。ピラニア達に追いかけられ放題のコイ、フナ、アユ、ハヤ部隊たち。やがて追いつかれて好きなほど体を食いちぎられ、川の中はアッと言う間に鮮血に染まった。ナマズ、ホウセンボウ、オヤニラミ、ウナギ、ムギツクらの比較的川底で暮らす生き物たちは、ピラニヤとカミツキガメの挟み撃ちに遭い、ある者は体を真っ二つに裂かれ、ある者は腸も残らないほど食い尽くされ、椹野の水流は元の色を留めないほど血の色で濁って行った。


 スッポン、もくずガニ、手長エビ、アメリカザリガニ、日本ザリガニなどの比較的、固い表皮を持っている生き物たちも、ピラニヤの鋼鉄をも噛み砕く強靭なノコギリ歯の前には、なす術もなく微塵に噛み砕かれて行った。それでも必死に逃げ回るスッポン、もくずガニ達。ニシキ大統領の下に、矢継ぎ早に送られて来る部隊全滅の報。逃げ切れなくなったスッポンや、もくずガニ達が、堪らなくなって陸上に揚がれば、それを狙い澄ましたようにワニが襲いかかった。『バキッバキッ』と弾くような音で、無惨に甲羅や殻を噛み砕かれ、その度にピュッと鮮血が噴き出して食われるスッポン部隊や、もくずガニ部隊…果てのない殺戮は、命の代償を支払わねば止まるものではない。間もなく彼らも、全滅の憂き目に遭ってしまった。


 一方、メダカ、アメンボ、ミズスマシなどの水面で暮らし全く戦闘能力を持たない小さな生き物たちは、難を逃れるために一致一極団結して塊になり、プルプル震えながら岸辺で身を潜めていた。何だか戦線離脱みたいで卑怯なようだが、これも仕方ない事だろう。元々弱肉強食にそぐわず、戦闘能力を持たない彼らに闘えと言う方が無理だろう。ニシキも、それは分かっていた、充分に分かっておきながらも、弱小部隊を連れて来なければならないほどの圧倒的兵力の格差があった。だが…


 そんな彼らにも、確実に背後から忍び寄る悪魔の影があった。その儚き小さな命を持った生き物たちにも、死へのカウントダウンは既に始まっていたのだ。ヒュルヒュルと音もなく忍び寄る巨大ニシキヘビ。時空の間隙を推し量り、神水の逆鱗に触れる事も物ともせず、聖なる命を一網打尽に凌駕せしめん冒涜の五感は、今や最大限に研ぎ澄まされ、僅か数十センチ先に居る獲物に襲いかかろうと身構えている。そして寸断の隙間も許さないほどの素早さと、大きな口は、次の瞬間には何事もなかったような残忍さで、小さな生き物たちの姿を完全にこの世から消し去っていた。その様子を満足げに見守る木常稲子。だが、これらの一部始終は、上空からタケシ直属の偵察部隊であるカモメのミナサンにより、全てを目撃されていた。カモメには、空高くからでも、海上や海中を視認できる特殊能力が備わっている、ミナサンは慌てて桂が谷へ急を報せに行った。



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