アジムの偵察
さて、ここで話を少し元に戻し、淋洸堰でトータスと別れたスッポンのアジムの事を、話しておかなければならない。
アジムは、正体不明の怪物の出現を警戒しながら、八方原橋を越えて行ったが、やがてこの世の物とは思えないような信じられない惨状を見せられてしまった。河川底と言うものは、陸地からの見た目では、フラット状のようになっているように思われるが、実際にはほとんどの河川や湖沼には二段構えの川溝がある。川で極端に水が減れば、この川溝に水が集積し、小さな水流となって流れる。この川底が、八方原軍団の潰滅的死の墓場となっており、川底の僅かな水流は、屍の肉片や骨片をユラユラ揺らす地獄の微風になっていた。アユやハヤ、それにフナやコイらは、骨だけになって川底に折り重なっていた。もくずガニや手長エビ、それにスッポンらは中身だけ食われて殻だけになり、まるで滑稽な仮装行列でも見ているようだった。どこまで行っても死体死体死体、どこまで行っても果のない屍屍屍。
「う、うわー」アジムは自らに迫って来る危険を鋭敏に察知し、素早く砂の底に潜った…一秒…二秒…三秒と息を潜めるアジムだったが…その時、砂中のアジムの首に強引に喰らいつくものがいた。
「グガガガー―ッ」
「ホゲェ――ッ」慌てて砂中から飛び出して、必死に逃げるアジム。後ろを振り返って見ると、何と一メートルにも達する巨大カミツキガメが…しかも、その後ろから付いて来るピラニアの群れ。それは群れなどと言うような生易しい物ではなく、まるで微塵の隙間も許さず、水中の酸素濃度を下げるように、集団化したジグソーパズルのピラニアピースが、群れを成して追いかけて来るのだ。アジムは、瞬間的な判断で陸へ揚がる事を決行した。
この起死回生の作戦は、一見して功を奏したように思えたが、何と河原に揚がったアジムを待ち受けていたものは、七メートルを超える巨大ワニ…
「ホホホゲェーーッ」アジムは、ワニの大口咬みつき攻撃から奇蹟的に逃れて河原伝いに逃げて行ったが、そこにもアジムを襲う過酷な運命が待ち受けていた。何と十メートルを超える巨大ニシキヘビが、残忍な目でアジムに音もなく迫って来るではないか。
「ウワッウワッウワーーッ」アジムは、ジリジリ後退した。
「グヘヘヘー、日本のしょぼい奴らめ、食い殺してくれん」ニシキヘビは、蛇舌をペロペロ舐めずり回しながら言った。
「グバババーッ日本の豆動物達よ、全滅させてやる」とワニが、後ろから迫って来て言った。絶体絶命のアジム、もう彼に残された道は一つしかなかった…すなわちカミツキガメやピラニアの川へ飛び込む事。
アジムは、念仏を唱えて目をつむり地獄の川へ飛び込んだ。そこへワッと群がる殺人集団。カミツキガメの鋭い牙はアジムの甲羅を簡単に噛み砕き、血だらけになったアジムはカミツキガメに咥えられて、どこかに連れ去られて行った。その様子を目の当たりにして、慌てて淋洸堰に引き返すハヤのスピード。実を言うと彼女は、ニシキ大統領の密命を受けて密かにアジムの後を付いて来ていたのだが、彼女自身にもすでに死の影が忍び寄って来ていた。群れを成して追いかけて来るピラニア、スピードは速いがピラニヤも体に似合わず速い。幾度となく尻尾を食いちぎられ、弄ばれるようにして体をズタズタに切り裂かれて行くスピード。この残虐劇を物陰に潜んで、ニヤニヤ笑いながら見つめる祈祷師姿の木常稲子。勿論、こんな怪物達を椹野川に投げ込んだのは、常勝・女将軍の木常稲子だった。その目は真っ赤に充血していた、その目尻は吊り上がっていた、その唇は血塗られていた。
何とか、スピードは淋洸堰まで辿り着き、可動堰を一挙に跳び越え、急をニシキに告げたあと静かに目を閉じた。これを聞いたニシキは、まなじりを決して淋洸堰軍団を率い、誰の目から見ても分かる淋洸堰軍団終焉の地・八方原橋の最終決戦地へ向かった。




